恒例の読書ガイド。今年前半に書評した本の中から入門書を省いてピックアップしたが、10冊以上あがって落とすのに苦労した。相変わらず経済書は不振だが、人文書にはいい本が出ている。私の個人的な趣味に片寄っているので一般向けとはいえないが、内容はオリジナルなものばかりだ。
- Gabriel, “Why the World Does Not Exist”
- タレブ『反脆弱性』
- ノース&ウォリス&ワインガスト『暴力と社会秩序』
- 戸部良一『自壊の病理』
- フランク『成功する人は偶然を味方にする』
- 笠谷和比古『武士道の精神史』
- ギンタス『協力する種』
- 篠田英朗『ほんとうの憲法』
- 鈴木紀之『すごい進化』
- 三谷太一郎『日本の近代とは何であったか』
1はドイツの37歳の哲学者が書いたベストセラーの英訳。今はやりの「新実在論」は食わせものだが、本書の中身はドイツ観念論のおさらい。本質的な新しさはないが、特殊な術語を使わないでわかりやすく書いているのが画期的だ。夏休みぐらい「なぜ世界は存在しないのか」考えてみてはどうだろうか。
2は原著で紹介したが、リスク管理のあり方とイノベーションを考える上で重要。3も原著で紹介したが、「経済的な土台が国家の上部構造を決める」というマルクス的な歴史観を否定する思想。5もいうように、21世紀の社会科学のコアは経済学ではなく歴史学になり、その理論モデルもニュートン力学ではなくダーウィンの進化論になると思う。
この他にも『ロシア革命』、『プロテスタンティズム』、『自由民権運動』など、若い研究者の新しい研究を踏まえた入門書が出ている。岩波の社会科学系は唯物史観ばかりで読むに耐えなかったが、最近はようやく「戦後リベラル」の呪縛を脱却して世界の常識に近づいてきたようだ。