時差と闘いながら、到着翌日の今日、3件の会議をこなした。シカゴで飛行機に搭乗する直前にブログを更新したが、そのブログを読んだ、私のかつての部下から下記のメールが届いた。本人の承諾を得て、それを掲載することにした。(自分がどの病院に属しているのかわかっても構わないという返事をいただいたが、迷惑をかけると申し訳ないので個人を特定できるような情報は削除した。)
(1)現在小生、地方の基幹病院で地域医療に誠に微力ながら邁進しているところでございますが、当該2次医療圏は、医師数が他地域に比べ最も少なく皆疲弊している状況であります。そのなかで昨日の毎日新聞および先生のブログを拝見し、「人工知能によって、医師が患者さんと面と向かって話ができる時間を確保すること」「人工知能が病気のことや治療方針・治療法・治療薬をわかりやすく双方向で説明して、医療従事者の負担を軽減する」という先生の目的に大変感銘し、メールをお送りしてしまった次第です。
先生のおっしゃるとおり、AIによる病理診断や画像診断は重要でありますが、医師が患者さんの顔を見ず、コンピュータ画面しか見ないで話をしているのは、医師以上にメディカルクラークの確保が地方病院では困難なことも要因で、紙のカルテに比べても煩雑で医師の手間を多く取っている現在の電子カルテをもっと飛躍的に役立つものにすれば「医師が患者さんと面と向かって話ができる時間」は確実に増えると考えます。是非、AIホスピタルは地方の第1線病院での現状もご考慮いただければ誠に幸いに存じます。
(2)皆、個々ではそれなりに頑張っているにもかかわらず、国立病院機構の全国143病院の合計が一昨年から赤字に転落し、医療機器の更新もままならない、また前述したようにメディカルクラークや看護師の増員も自由にできない状況は、世界に誇る日本の国民皆保険制度を守っていくなかで、国の方針に何か大きな間違いがある気がしております。都会のがんセンターや大病院だけで国民の健康を守っているわけでは無いことを内閣府の方々に解ってもらえたらと思う次第です。
私が考えていた以上に、医療現場での疲弊が進んでいるのかもしれない。役所のしがらみに縛られて、気持ちが折れそうになることが少なくない。しかし、病気と闘っている患者さんや医療現場の目線で人工知能のできることを考えてみたい。改めてそう感じた。
「都会のがんセンターや大病院だけで国民の健康を守っているわけでは無い」の一言は私も感じていたことだ。新幹線網が発達して、がん治療を求めて、大都会の大病院に患者さんが集まる傾向にある。これでいいのか、日本の医療はと思う。私が在籍していた当時の市立堺病院の外科部長は、大学病院の医師よりもはるかに腕がよかったことを体験した。私自身、「二十四の瞳」で有名な小豆島の病院で地域医療にも携わった。どこにいても等しく医療を受けることができる。それが、日本という国の誇りではなかったのか?
編集部より:この記事は、シカゴ大学医学部内科教授・外科教授、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のシカゴ便り」2018年5月10日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。