「不登校はなぜ増えた?」のミスリード --- 勝沼 悠

寄稿

不登校新聞の石井志昂編集長が『学校へ行けない人はなぜ増えた? 不登校の歴史20年間をふり返る』という記事を書いています。

この記事に載っている文科省の調査によると不登校がこの20年で1.5倍に増えているとのことです。それは確かにそのとおりで、記事の不登校についての考察にも大きく賛同するのですが、文科省が発表した97年から16年の20年で不登校が1.5倍に増えたという情報には見過ごすことのできない点があります。

実は不登校は上記のデータの直前である90年代にかけて3倍程度の爆発的な伸びを見せているのです。それまではずっと微増だったにも関わらずです。北海道立教育研究所の資料編の不登校児童生徒数の推移と社会背景(A3版)のグラフを見ると一目瞭然です。

北海道立教育研究所サイトより:編集部

文科省のデータは全子どもにおける不登校の割合なので、00年代以降も不登校は増加という形になります。90年代に既に少しずつ子どもが減っていたことを考えれば、90年代の不登校の伸びはグラフ以上に大きなものとなります。グラフの線が途中で二本になるのは、91年に不登校の定義を年間50日の欠席から年間30日の欠席へと切り替えた為です。その後、数年は30日欠席と50日欠席の両方のデータを取っていましたが、やがて50日欠席のデータは取られなくなっています。不登校の急増が不登校の定義の変更のせいだけではないこともグラフから読み取れるでしょう。

不登校の増加を考える上では90年代、特に90年代の後半に何があったのかを考える必要があります。私はそこにバブル崩壊による不景気とそこを転機としたグローバル化などの社会の変化によって生きていくハードルが上がったことが大きく関係しているのではないかと考えています。

(詳細は拙ブログ『不登校を考える  なぜ九十年代に不登校が急増したのか』に詳しく書きましたので、興味のある方はぜひお読みください。)

ここ20年で不登校が増えたというのは確かに事実でしょう。しかし、その前の10年(実際は少しかぶります)に不登校が急増しているという点を抑えていなければ、不登校についての考察をミスリードしてしまいかねません。90年代にこそ不登校増加を解き明かす鍵があるはずなのです。

勝沼 悠   専門健康心理士
桜美林大学大学院修了後、15年に渡りスクールカウンセラー、教育相談員など、教育現場や医療現場で心理職として働いています。