中小企業と大企業、どちらに軍配?

「大は小を兼ねない 中小企業 再編論の罠」。これ、日経ビジネスの特集のタイトルです。中小企業は日本の企業の99.7%を占めるとされます。その定義は業種ごとの資本金の金額、ないし従業員の数で仕分けされます。例えば卸売業なら資本金1億円、ないし、従業員100人が仕切りラインになります。また、コロナで経営不振になった企業の一部が資本金を1億円以下にする動きがありました。JTBはその好例ですが、理由の一つは資本金1億円以下の場合、外形標準課税が課されないというメリットがあります。

外形標準課税は所得だけではなく給与や賃借料、資本金までも計算に組み込んだ地方税の計算方法が適用されるため、赤字でも税金が発生するのです。これが資本金1億円以下ならば適用されませんし、それ以外にも税制上、中小企業には様々なメリットがあります。

そもそも日本にはなぜ、中小企業が多いのかと言えばそもそも戦後の焼け野原から個人事業主が一斉によーいどんで起業したところに直接的な原点があります。もちろん、セブン&アイ ホールディングスのように巨大企業に成長したところもありますが、概ね中小のまま今日に至っています。そのバックボーンになったのは1963年の中小企業基本法とされます。中小企業を守る法律はあるのですが、大企業基本法といったものは存在しないため、中小は守っても大企業を守るという姿勢はそもそも政府の考えにないのかもしれません。

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もう少し日本人的立場から見ると村社会的な掌握しやすい人数による経済活動は共同体生活の時代から歴史的にずっと育まれてきた流れであり、大陸的な首領が支配する発想ではなく、参加者の合議に基づくフラットな組織が基本形でありました。よって大企業でも結局、係長を中心とした7-8人ぐらいの小規模グループを組成し、課長はそのグループをいくつか掌握し、更に部長も同様…といった企業統治形態になっています。稲盛和夫氏のアメーバ経営などはそれを具現化した典型であり、日本人論的には極めて合理的な発想なのです。

ただ、フラットな社会は競争原理を生まず、双方の活動拠点をお互いに侵害せず、協調が前提になります。例えば日本のビジネス契約書に必ず出てくる文言が「本契約に定めのない事項又は本契約の内容等に疑義が生じた場合には、誠意をもって甲乙協議の上、取り決めるものとする」であります。北米のビジネス契約書にこんな甘い取り決めの文言は存在しません。これは日本のビジネスが基本的に双方が問題解決に誠実に当たるという前提があるのです。世界標準からすれば平和そのものです。

日経ビジネスの記事のトーンは中小企業にも良いものを持っている会社はたくさんある、だからやみくもに中小企業悪者論を掲げるべきではないと読み取れます。それはそうかもしれないし、同特集には数多くのきらりと光る中小企業の実例が並べられています。しかし、380万社も中小企業があれば頑張っている会社はいくらでもあるわけでそれをもって中小企業万歳とも言い切れないでしょう。

非常に乱暴にいえば中小企業は富の分配において低位フラット化しやすくなります。理由は経営のレバレッジが効かないからです。一方、家族などの身内経営の場合、給与や賞与の支給がお手盛りであったり会社の経費で様々な支出を行い公私の区別が不明瞭な場合も多いでしょう。つまり、後者の場合にはガバナンスがほとんど効いてないのです。

これをマクロ的にみるとGDPといった財の生み出すチカラは当然、大企業に比して劣ることになります。

同様の比較はアメリカとカナダの関係の研究で良く知られています。カナダは中小企業、個人事業主を優遇する仕組みになっていますし、小規模事業を立ち上げ、雇用を生み出すと移民権を取得できることもあるなどのメリットすらあります。一方、隣国のアメリカは資本のチカラがものを言う国ですのでカナダ企業にアメリカ資本がどんどん参入したりアメリカ企業がカナダ市場で暴れまわるなど、カナダはアメリカの強い影響を受けざるを得ない状況になっています。

では中小企業は大企業に勝てないのでしょうか?これは正直、一長一短です。わかりやすい例として大手経営のチェーン系レストランと個人経営の蕎麦屋を比べてみましょう。大手経営の場合はサービスが一貫しており、どの店でも同じメニュー、同じサービス、同じ価格で安心感もあります。そもそも大々的に展開しているなら味も信頼できると解釈できます。ところが知らない街でその蕎麦屋に入るべきか、これは迷います。蕎麦を注文してもなかなか出てこないかもしれないし、味もがっかりかもしれません。しかし、穴場を見つけることもしばしばあり、地元の人で盛況ということもあります。

マーケティング力や資本力、従業員の対応力、トラブルシューティングなど総合力を見れば大手にはかないません。実は私が今、取引している日本のある中小企業の社長が癌となりました。小さな会社ですので社長不在で会社が廻るのか、直感的な不安感が襲います。しかも私の依頼した仕事は社長直轄だったのです。誰が代わりにやるのかよりも誰が社長の代行をするのか、すぐさまこの打ち合わせをしました。私が確認したかったのは資金繰り、業務管轄、株主や金融機関との関係でありました。幸いなことに株主が全面支援する体制を取り、業務の一部を株主の会社に移行するなどの対策が確認できたため、継続的に業務を委託することにしました。

事業継承が話題になりますが、中小企業の最大のネックはトップに何かあれば屋台骨が崩れやすいという点でしょう。その点からすれば日経ビジネスがいう「中小企業のきらりと光る技術」とか市場占有率や特許、特定分野の利益率などにおごってはやはりだめなのだろうと思っています。中小のままでいても結構ですが、どう、事業を継承するのか、時代の変遷に合わせて業態を変える力はあるのか問われます。この辺りまでくると厳しいようですが、私は中小企業の大量自然淘汰は近いように感じます。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年7月12日の記事より転載させていただきました。

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会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。