高齢化する日本を考える その1 --- 岡本 裕明

アゴラ編集部

今日は高齢化する日本についてグローバリゼーションと社会の変化の観点から考えてみたいと思います。

サラリーマンの方の定年は徐々に延びる方向にありますがそれでも65歳ぐらいが一つの区切りでしょうか? 一方、平均寿命はじわじわと伸び続け、男女それぞれ79.64歳、86.39歳ぐらいになってきております。これは予防医療の発展、治療技術の向上によるところが大きいと思いますが、我々がそれなりの歳になるときには更に伸びている可能性もあるということです。つまり、仮に65歳で定年になると15年から20年以上も「余生」を過ごす可能性があるかもしれません。(平均寿命は0歳ベースでみますので厳密ではありません。)


15年から20年「も」というのは1960年なら男女の平均寿命は約65歳と70歳。1970年の男女で約70歳と75歳ですから定年後男性の寿命は5-10年、女性で10-15年の設計だったのです。

さて、この長い余生を暮らすのに信頼度の低い年金に頼るのは不安感がよぎります。かといって定年までの預貯金と退職金では食いつぶす一方ですから何かの出費があった際にはその想定が崩れてしまいます。更にこの退職金も私の見立てではあと何十年かすればなくなっていく方向だと思います。退職金は日本独特の給与システムの一環であって外資などが日本に更に深く入ってきた場合、このような仕組みはなくなると思ったほうがよいのです。

とすればサラリーマンが余生を楽に暮らせるというのは嘘になってしまいます。以前私が植木等の「サラリーマンほど楽な商売はない」を例にとって説明したことがありますが、高度成長期の日本型雇用モデルは終身雇用と同様必ず変質していくのです。一部企業は終身雇用を守るといっておりますが、雇用側の意識がそうであっても被雇用者側の意識が変わりつつあることを考えれば終身雇用の維持はやや美談化されすぎています。

日本がグローバル化していく中で雇用システムも世界標準に準拠しつつあります。それに対して海外の被雇用者は自己防衛手段を持っております。組合活動は一つの方法ですが勉強したり学校に行き、自分のスキルアップを図っています。転職は重要なステップアップの手段であります。

年金も北米においては国の年金は補助手段であって通常は401kのように給与から退職年金向けの貯金を自分のライフプランで行います。その場合、通常、税制上、当該年の税額控除となりますから給与所得者にとって自分の責任で自分の将来生活設計を行うことになるのです。

ところが日本の場合、終身雇用システムにより被雇用者は守られすぎたため、自己防衛手段を持ち合わせる必要がなかったのです。その上年末調整という便利なシステムは被雇用者が税金の仕組みを十分習得するチャンスを逃してしまいました。これは日本人が「お上」に頼ってきた国民性の特徴の一つの例であります。

このままで行くと高齢者になったときどんな問題が生じるでしょうか?

まず、年金不払いをしている人はくいぶちがなくなります。どうやって暮らすのでしょうか?

次に一定の預貯金とそれなりの退職金を貰えて蓄えがある人は一流企業の社員をほぼ終身勤めて定年退職した人たちでごく一部です。日本人全ての高齢者ではないということです。更に大手企業はこの20年間の低成長時代に大幅なリストラをしましたのでその際に一度退職経験をしている人は増えています。このグループはそのときにしかるべき退職金を前倒しで貰ってしまっていますから再就職した方々がもらえる退職金は想定より少ないということです。

この前提からするとこれから10年ぐらいのうちに高齢者の生活水準の問題が必ず生じてきます。これは誰が面倒見てくれるのでしょうか? 今までは政府が悪いと言えば政治家はそれなりに動いてくれました。ですが、国の財政は半分以上を借金に頼っています。この借金はいつか増やすことが出来なくなります。今、プライマリーバランス、といわれたらどうなるでしょうか? ありえない財政が生じるのです。役人に給与を払えなくなります。役人はクビにならないと言われていますが、その常識すら覆される時がくるかもしれません。

この恐ろしいシナリオは必ずしも大げさとはいえません。世界がボーダーレスになり、世の中が加速度的に変質するなかで日本だけ変わらないということはない、という前提に立てば10-20年のスパンでこの予見は起こり得るストーリーだと思います。では我々はどうすればよいのでしょうか?

明日、この続きを考えてみたいと思います。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2012年3月17日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。
オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。