再発した首相襲撃、警護やマスコミ報道だけの責任か

恐れていた政治家へのテロがまた起きた。標的は岸田首相、現場はまた選挙応援の演説会場だ。こなした数だけ票が入る昔ながらの握手戦術では有権者との接近が肝心。よって今回、安倍さんの時より格段に向上したと見える警護にも自ずと限界がある。命を惜しむなら、政治の道を選ぶべきでない。

ネットの言論空間では、テレビや活字メディアが安倍暗殺を起こした山上某の動機解明に血道を上げ、旧統一教会(以下、「教団」)糾弾とその被害者擁護の報道に走った結果、犯人への同情のみならず、それをテロでないとする者や礼賛する輩まで現れたことが、今回の模倣犯を生んだとの論がもっぱらだ。

そういう側面を筆者も否定しない。だが所詮TVも新聞も雑誌も観られ読まれてなんぼの世界、受け手を憤らせ、同情させ、関心を惹いてこそ儲けられるのだから、事の本質に迫ることなど二の次だ。ネットの言論空間にしても、そうしたマスコミあってこその存在で、いわば持ちつ持たれつの関係だろう。

そこで本稿では、そうした姿勢のマスコミに手を貸した岸田首相の「教団」への対応ミスに改めて光を当てる。

逮捕された木村隆二容疑者 NHKより

3月27日、各報道は永岡文科相が同日、「教団」に対する5回目の「報告徴収・質問権」を行使するため、宗教法人審議会に質問内容を諮問し、了承を得たことを報じた。有体に言って、この質問権行使は、宗教法人を所管する文科省が「教団」に解散命令を出すためだけにしている、と筆者の目には映る。

東京新聞の記事によれば、その1回目は22年11月22日に「組織運営」や「収支・財産」などを質問し、12月9日に回答を得た(産経報道は段ボール8箱と)。2回目は「コンプライアンス宣言関連」や「民事判決関連」を12月14日に問い、23年1月6日回答を受けている。

以下、3回目80項目:1月18日質問-2月7日回答、4回目110項目:3月1日質問-3月15日回答、今回の5回目は3月28日の質問の回答期限は4月25日で、203項目あり、不思議なことに回を追う毎に増える。内容は、組織運営/予算決算財産/献金(3・4・5回目)、教会管理運営/信徒会(4・5回目)、職員給与退職民(3回目)、海外送受金(3回目)、示談(5回目)といった具合。

前出の産経は、長期化について「請求段階の証拠提出で、裁判官の心証が解散命令に傾く程度の『第一印象』を与える必要がある」との文化庁幹部の談話を載せ、「解散命令請求の要件とされる教団による違法行為の『組織性、悪質性、継続性』を強く主張できる証拠の積み上げは不十分な状況」とする。

東京新聞ですら5回目の質問を「示談について以外は、すでに回答を得ている4回目の質問と同じテーマだ。解散命令を裁判所に請求するために必要な、不法行為の『組織性・悪質性・継続性』の立証がまだ不十分なため、これまでの回答の分析を踏まえ、より細かな点について質問しているとみられる」と書く。なお4回目の回答は封筒1通のみだった。

これらの報道からは、「教団」の不法行為が立証できるまで、文科省が質問権行使を続けるようにも読み取れる。見方を変えれば、岸田首相が昨年8月10日の記者会見で次のように述べたことを、文科省が正当化しようと努力している、と見えなくもない。

所属国会議員は、過去を真摯に反省し、しがらみを捨て、当該団体との関係を絶つこと。これを党の基本方針として、関係を絶つよう所属国会議員に徹底すること

当該団体とは「教団」とその関連団体を指す。岸田首相がそう述べてから8ヵ月以上経つが、今以て「教団」は昨年8月時点と同様に宗教法人法上の宗教法人格を維持している。つまり、岸田首相は昨年8月に、その時点では宗教法人格のある団体との関係を断つよう自党の議員に命じたことになる。

だがもし岸田首相が異なる対応を取っていたらどうだったか。例えば、「『教団』」に様々な論議があることは承知している。が、『教団』は宗教法人法上の法人格を有している。憲法は信教の自由を保証し、信者もいる。今後『教団』の適格性を審議し、結論を俟って適切に対応したい」とでも述べていたら。

が、岸田首相はその審議を経ず、問答無用とばかり自党議員に「教団」との関係を断たせた。唯々諾々と従った議員らも自堕落だが、首相は世間の空気に迎合し、手順を踏まず突き進んだ。これではマスコミが「教団」叩きと宗教被害者擁護に走るのも宜なるかな。時の政権与党が率先垂範したのだから。

無論、どの様な宗教法人であれ犯罪行為は許されない。逆に、それが犯罪集団でもない限り、国家がそれを潰したり、信者に背教させたりすることを法は許していない。同様に、その動機に関わらずテロを行うことも、それを容認することも許してはならない。「教団」問題の本質はここにこそあるはずだ。

産経記事には次のような記述もある。

法令違反を踏まえた裁判所による宗教法人の解散命令は過去2件。いずれも団体のトップが深く関与した刑事事件が有力な証拠になった。一方、旧統一教会を巡っては現状、組織的な刑事事件は浮上しておらず、教団の違法性を認定した複数の民事裁判などで解散命令の要件を立証するという前例のない手順を踏まざるを得ない。請求が退けられれば今後の宗教行政に大きな禍根を残すことは必至なため、文化庁は慎重な姿勢を保っている。

いわゆる徴用工判決でもあるまいし、前例のない民事裁判まで援用するとなれば、解散命令へのハードルが一気に下がることになろう。政党と宗教団体との関係は、公明党と創価学会は言うに及ばず、与野党を問わず広く深い。この「教団」の一件がどう転ぼうとも、政治には都合の良くない結果となろう。

事の順序を違えた結果が自らにも跳ね返った格好の岸田首相、果たしてその心境や如何に。