日本産ホタテはたったの4%:中国ホタテ需要の驚くべき実態

福島処理水の海洋放出を機に、中国が日本の水産物を全面禁輸する愚挙に出た。なぜ愚挙かは、一部左巻きを除く日本国民の大半が既に知るところだが、改めて述べれば、放出処理水に含まれる年間トリチウム量22兆ベクレルは、中国の原発排水のそれの6分の1程度であり、安全性をIAEAが承認しているからだ。

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トリチウム以外の放射性物質もALPS(多核種除去装置)によって除去し、IAEA基準以下にされる。希釈して放出される処理水の放出過程で放射物質量がチェックされ、更に放出後の海水も複数の地点で日々厳密にサンプル測定され、基準値を上回れば即座に放出を停止する仕組みだ。

こうしたことから、中国の愚挙に対して日本が採るべき対抗策が、素人玄人入り混じって種々取り沙汰されている。素人の一人である筆者も4年前の拙稿で、「輸出に頼らず国民が食べてしまえば済む話ではあるまいか」と、日本から海外へ輸出する水産物のデータを基に書いた。

中国のやり方を批判することも大事だが、台湾のパイナップルや豪州の大麦などの事例が物語るように、先ずは自国民が消費に努め、次に諸外国への販路を拡大する(安全性PRを深めつつ)、という順序で事を進めてゆくことが有効と思う。日米同盟と同じく、自助が先にあってこその共助ということ。

そんなことを考えていたら、3日の「産経」の「花田紀凱の週刊誌ウォッチング」が、「中国の処理水政治利用、反撃の妙案示した『新潮』櫻井コラム」との見出し記事を載せた。この記事は、最近「産経」が始めた「夕刊フジ」の公式サイト「ZAKZAK」の記事の転載だ。

週刊誌を読まない筆者は、櫻井よしこ氏の妙案の全貌は知らないので、花田氏の記事の引用部からの判断になるが、そこにはこうある(櫻井氏が直に主張したと思われる<>部のみを引用)。

<反撃の第一手は中国にホタテ貝を今後も売らないこと、サプライチェーンから中国を除外することである><だが、それら全てを中国人が消費するわけではない。日本のホタテは賃金の安い中国で殻から外され、主に冷凍貝柱として米欧諸国に再輸出されている。その最大消費国は米国><結果として中国は雇用を喪失し貿易量も減る(中略)自業自得である>

中国にホタテを売らないのは良いし(そもそも買わないと言っている)、輸出ホタテの「最大消費国は米国」も正しい。が、「全てを中国人が消費する訳ではない」や、日本が中国にホタテを売らなければ「結果として中国は雇用を喪失し貿易量も減る(中略)自業自得である」との論は少々雑なようだ。

Googleに「中国のホタテ産業」と入力して検索すると、「中国におけるホタテの商流」との名称の財務省のPDF資料(みずほ銀行の作成らしい)を見ることができる。それの内容からは、櫻井氏の妙案がどうも「蟷螂之斧」に終わりそうなことが判る。以下に要旨を引用してみる。

【中国におけるホタテの商流】

中国のホタテの消費量は年間約160万〜200万トンほとんどは国産の養殖ホタテで、漁獲ホタテは極少量(他に日本からの生ホタテと貝柱の輸入が約8万トンある)。その7〜8割(120万~150万トン)は洗浄された生の状態で飲食店・水産物貿易市場・オンライン販売などを通じ、中国国内の消費者に行く。(以下、太字は筆者)

日本品を含む残り2〜3割(40~50万トン)は、ホタテ春雨、干し貝柱、ホタテスティック、ホタテハーフシェル、冷凍ホタテ貝柱などに加工され、飲食店、スーパー、オンライン販売などを通じて国内消費者に行き、一部(3〜4万トン)は貿易会社経由で輸出される。

主な輸出先は、米国、香港、台湾、韓国、日本などで、輸出先を問わず、SC認証(生産認証)、ISO9000、HACCPなどの取得が必要。また米国への輸出にはFDA認証、欧州への輸出にはBRCS認証が必要だ。中国大手水産会社は、Costcoなどの欧米スーパーへ輸出するために、養殖場から工場までの全プロセスでMSC、ASC認証を取得している。

【中国におけるホタテ輸出】

中国の加工ホタテの年次別、国/地域別輸出数量は次表の通りで、17年からの平均約3万トンから21年には3.8万トンに増加した。その約6割が冷凍ホタテ貝柱である。この数量の外に、スナック、インスタント食品などに分類されているホタテ製品があるので、実際の輸出量は更に多い。

ホタテ及び関連製品の国別輸出量 (単位:トン)

国・地域 2017 2018 2019 2020 2021 同左構成比
日本 3,849 4,488 4,035 3,759 3,488 9.2%
韓国 2,174 1,632 2471,4 2,514 4,114 10.8%
米国 7,812 9,548 5,368 4,943 10,791 28.3%
カナダ 1,601 1,733 1,657 1,953 2,300 6.0%
豪州 1,994 868 1,138 984 1,131 3.0%
香港 4,093 4,268 4,253 4,087 4,726 12.4%
台湾 3,880 3,315 4,684 3,498 3,766 9.9%
小計 25,403 25,851 21,134 21,737 30,314 79.6%
その他 5,037 5,326 9,339 5,484 7,761 20.4%
総輸出量 30,440 31,178 30,473 27,221 38,075 100.0%

(出所)税関統計データ等よりみずほリサーチ&テクノロジーズ作成

注:HS Code:3072190、3072200、3072900、16055200

以上の通り、年間約200万トンもある中国のホタテ消費量は、ほとんどが国内の養殖ホタテで賄われており、日本からの輸出8万トンは僅か4%に過ぎない。だから中国は全面禁輸したのであり、ことホタテに限れば日本からの8万トンがなくても、中国は痛くも痒くもないのである。

確かに最大輸出国は約28%を占める米国だが、その数量は21年にようやく1万トンを超えた程度。従って、櫻井妙案が「結果として中国は雇用を喪失し貿易量も減る(中略)自業自得である」とするには少なからぬ無理がある。

が、ホタテに限れば日本が毎年中国から輸入している約4千トンは、中国から買わなくても国内で調達ができる。そして米国向けの1万トンも、中国が止めた日本からの8万トンの中から、日本で加工して米国に輸出したら良い。武器の見返りに買ってくれ、と岸田総理は働き掛けるべきだ。

但しそれには、SC認証(生産認証)、ISO9000、HACCPなどの取得や、米国向けのFDA認証、欧州向けのBRCS認証が必要だし、中国の水産加工社並みに、養殖場から工場までの全プロセスでMSC、ASC認証を取得することも必要だ。政府はこの辺りにこそお金を使うべきだろう。

その暁には、米国だけでなく韓国、台湾、カナダ、豪州などへの輸出の道が拓ける。その総量1万トンを米国分と合わせれば2万トンを優に超える。政府は、前述した各種認証所得に加え、補助金や税の優遇などによりホタテ加工品の価格競争力を強化して、これらの西側各国に購入支援を仰ぐのだ。

中国の全面禁輸をWTOに訴えるのも良かろう。しかし、WTOが常に公平公正で無謬かといえば、必ずしもそうではない裁定を過去に日本は受けた。また、前述のような策を日本が講じる場合、逆にそれを自らの実態を顧みずに、中国がWTOに訴える可能性がかなりの確率であるだろう。

が、そういう事態が「想定外」にならないような、良く練られた政策を講じることにこそ、政府各省、とりわけ金を扱う財務省には、真価を発揮してもらいたい。如何にして国民から税金を搾り取るかばかりに腐心するのではなく、国民に勇気と力を与える政策にこそ、岸田総理は彼らの頭脳を使わせるべきだ。