気になる現役世代における超過死亡の増加

LightFieldStudios/iStock

大橋純子、谷村新司、八代亜紀と現役歌手の訃報が続く。個人的にも、昨年は、受け取った喪中はがきの枚数が例年になく多かった。ところが、国立感染症研究所(国立感染研)は、2022年までの激増から一転して、2023年に入ると超過死亡は見られなくなったと発表しており、大手メデイアも、感染研の発表をそのまま報道している。

図1 国立感染症研究所が発表する日本の超過死亡の推移
国立感染症研究所

海外ではどうだろうか。最近、ランセットに英国における2023年6月末までの超過死亡の状況が報告された。

Excess mortality in England post COVID-19 pandemic: implications for secondary prevention

英国においては、超過死亡は過去5年間の死亡数の平均に対する増加率でもって示される。ただし、2020年の死亡数は、コロナ感染によって激増したので、除いて計算されている。

2022年の超過死亡率は7.2%、超過死亡数は44,255人であった。2023年に観察された超過死亡率は8.6%で、前半6ヶ月間の超過死亡数は28,500人と、2022年と比較して減ってはいない。英国では、2023年にはコロナの流行も収束し、コロナ感染死も減少したにもかかわらず超過死亡の増加は続いている。

とりわけ気になるのは、高齢者ではなく現役世代の超過死亡が増えていることである。図2は、コロナの流行が始まった2020年以降の各世代における超過死亡の推移を示す。

図2-1 英国における年代別超過死亡の推移(Ⅰ)
Office for Health Improvement and Disparities.

図2-2 英国における年代別超過死亡の推移(Ⅱ)
Office for Health Improvement and Disparities.

英国では、2020年と2021年の前半にコロナ死の増加による超過死亡のピークが見られた。このピークは、25歳以上の成人では見られたが、25歳以下では観察されず、かえって、過小死亡であった。

2022年7月以降は、高齢者と比較して、小児を含めた65歳以下の年齢層での超過死亡が目立つ。実際、50~64歳の超過死亡率が15%と最も高く、49歳以下の11%、65歳以上の9%を上回っていた。年齢調整を行なっても、若年成人(25~49歳)、中年成人(50~64歳)が、最も高い超過死亡率を示した。

最近1年間の50〜64歳の年齢層における死因別の超過死亡についても記載されている。増加が著しいのは心血管系疾患で、増加率は33%であった。なかでも、虚血性心疾患(44%)、脳血管障害(40%)、心不全(39%)の増加が著しい。

英国においてはパンデミックの時期には、コロナ感染による高齢者の超過死亡が主であった。ところが、超過死亡はパンデミックが終息した後も減少せず、最近1年は、心血管系疾患による若年・中年成人の超過死亡が目立つ。

国立感染研の発表する超過死亡は、過去5年間の死亡数をもとにFarringtonアルゴリズムを用いて算出された予測死亡数との比較で示される。

超過死亡が増加した2021年、2022年の値も含めたために、2023年の予測死亡数が高くなり、その結果、2023年の超過死亡が見られなくなったと考えられ、実態を反映したものではない。

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そこで、英国の方法と同様に、過去5年間の平均死亡数に対する増減で日本の超過死亡率を算定した。コロナの流行による影響を避けるために、ユーロ圏統計局の方法に準じて、2015年から2019年の平均死亡数を用いた。

図3には、2021年以降のコロナ感染者数、コロナによる死亡数、超過死亡を示す。

図3 日本におけるコロナワクチン接種と超過死亡の推移
筆者作成

毎回、ワクチン接種から10〜12週後に超過死亡のピークが観察されており、感染研の発表とは異なり、2023年になっても超過死亡は観察されている。

2022年の超過死亡率は16.9%、超過死亡数は226,967人であった。2023年に観察された超過死亡率は17.7%で、前半6ヶ月間の超過死亡数は120,210人で、2022年と比べて減ってはいない。2022年、2023年とも、日本の超過死亡率は英国を上回り、より深刻である。

図4には、各年齢層における2020年以降の超過死亡を示す。

図4-1 日本における年代別超過死亡の推移(Ⅰ)
人口動態統計から筆者作成

図4-2 日本における年代別超過死亡の推移(Ⅱ)
人口動態統計から筆者作成

図4-3 日本における年代別超過死亡の推移(Ⅲ)
人口動態統計から筆者作成

英国では、2020年のコロナ流行初期に、超過死亡のピークが見られたが、日本では、このピークは見られない。各年齢層において超過死亡のパターンに特徴が見られる。

0〜9歳、30〜49歳、60〜69歳の年齢層では、全期間を通じて超過死亡は見られず、一貫して過小死亡であった。一方、70歳以上では全期間を通じて超過死亡が見られた。

特異なパターンを示したのが50歳〜59歳の年齢層である。前後の40歳〜49歳と60歳〜69歳の年齢層では一貫して過小死亡が見られたのに、50〜59歳の年齢層では、英国と同様に2022年以降に超過死亡が見られるようになり2023年になっても持続している。

図5には50〜59歳における死因別の超過死亡を示す。がんによる超過死亡は見られず、2022年以降にみられた超過死亡の原因は、心血管系疾患、とりわけ、心臓病であった。心臓病のなかでも、心筋梗塞は少なく、不整脈や心不全による超過死亡が目立った。

図5 日本における50〜59歳の死因別超過死亡

筆者は以前、20~39歳の若年成人におけるワクチン接種後死亡例の死因を検討したことがあるが、その多くは心臓病であった。

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心臓病のなかでも、心筋炎・心膜炎と致死性不整脈は男女比やワクチン接種からの発症時期が一致しており、さらに月別発生数の分布も類似していた。心筋炎・心膜炎が致死的不整脈の原因となることから、死因として致死的不整脈と報告された症例も、心筋炎・心膜炎に罹患していた可能性がある。

今回、50~59歳の年齢層で見られた不整脈や心不全の増加も、その原因にワクチン接種後の心筋炎・心膜炎の増加があるのかもしれない。

英国では、超過死亡の増加は2023年になっても持続しており、コロナの流行初期とは異なり、心血管系の疾患で死亡する現役世代の増加が指摘されている。日本でも、50〜59歳の現役世代で心血管系疾患による超過死亡が観察された。

最近、現役で活躍する芸能人の訃報が続くことに国民は不安を抱いているが、これまで、日本政府は超過死亡の原因について、コロナの流行およびコロナ流行にともなう関連死と説明するのみである。コロナの流行が収束しつつある状況下でも超過死亡の増加が続いていることから、これまでの説明では国民は納得しないであろう。