石丸伸二が選挙運動用ポスター代金未払いで敗訴していた

請負業者の仕事を何だと思ってるのか

石丸伸二が選挙運動用ポスター代金未払いで敗訴していた

安芸高田市長の石丸伸二 氏が選挙運動用ポスター等の代金未払いで敗訴していた件について。

事案は、令和2年の安芸高田市長選挙時に請負業者が提示した報酬費用102万800円に新聞折込費用56749円を加えた計107万7549円のうち、石丸氏が公費負担額上限*1の34万8154円のみを支払い、一部を支払っていないとして、業者が残額の72万9395円を求めたものです。

既に報道されていますが、そこにおいて石丸氏が「業者の勘違いに対する司法の評価が興味深いことになった」などとコメントしており「司法が取引実態を知らずに非常識な判断をした」とでも言いたげで、支持者らもその調子で絡んできてるので、判決文を読んでみました。

広島高裁令和5年12⽉13⽇判決所令和5年(ネ)第179号

本判決は【広島高裁令和5年12⽉13⽇判決所令和5年(ネ)第179号】(原審:広島地方裁判所令和5年5月30日判決令和3年(ワ)第1380号)ですが、裁判所HPではUPされていないようです。

なので、判例検索システムから内容を確認しました。

報酬額の明確な合意無し:公費負担額限度と「相当な報酬」

本件訴訟の構図は単純です。

報酬額の明確な合意が無かったことについては原被告間で争いがなく、石丸氏は公費負担額の限度(ポスターにつき22万7994円・ビラにつき12万0160円)の合意があったと主張し、原告の中本本店は「相当な報酬」の黙示の合意があったか、それが無くとも商法512条の「相当な報酬」を請求できる、という主張がなされました。

結論から言うと、地裁も高裁も公費負担額が限度だという合意はなされておらず、「相当な報酬」の黙示の合意があったと認定した上で、相当な報酬の額として適切だったと判断しています。

報道されているように、裁判で認定されたメールのやり取りなどで報酬額の明確な合意が無かったことについては重複するので、ここでは報酬額としての適切性を裁判所がどう判断したのかについて少し触れます。

超短納期での仕事の依頼、休日返上での特急料金見合いの相応額

本件は「納期」という観点から見ると分かりやすいと思います。

石丸氏は令和2年7月22日に安芸高田市長選(告示日8月2日)への出馬を表明し、政治活動用ビラ(告示前ビラ)・掲示用ポスター・選挙運動用ビラの制作に関する請負契約を業者と締結。

しかし、ポスター・ビラの仕様(サイズ、カラーか否か、紙質等)、枚数、納品形態、納品場所等は未決定だった。

7月23日(海の日)、本件請負契約の具体的内容が以下のようなものに確定
(控訴人⇒石丸氏、被控訴人⇒業者)

 a ポスターを260枚製作する

b 法定ビラを2種類製作する。他⽅、告⽰前ビラの製作は取りやめ、それまでのデザイン料等の費⽤は被控訴⼈が控訴⼈に請求する

c 法定ビラは、1回⽬及び2回⽬とも各8000枚を印刷し、各回7370枚を中国新聞及び読売新聞に折り込む。

d ポスター及び1回⽬の法定ビラは、⼩型チャーター便を⼿配して、同⽉30⽇中に控訴⼈の選挙事務所へ納品する。

e 2回⽬の法定ビラは、同⽉31⽇に宅配便で控訴⼈の選挙事務所へ発送する。法定ビラは、同事務所において証紙貼りをした上で、控訴⼈側が同年8⽉3⽇に被控訴⼈に持参し、被控訴⼈が検品及び仕分けをした上で中国新聞折り込みセンターへ搬⼊する。

これらの仕事は完成されましたが、相当な短納期でしかも祝日と土日始動(24日はスポーツの日、25,26日が土日)という状況でした。その事が相当な報酬額としての請求に影響したと考えることに問題が無いことについて裁判所は以下指摘しています。

 また、⼀般に、選挙に係るポスターやビラは、限られた選挙運動期間の中で当該候補者の属性や政策等を有権者に効果的に訴求するものであることが求められる上、所定の規格に従ったものでなければならないことなどから、その製作にかかるコストは⼀般的な商業⽤のポスターやビラと⽐較して⾼くなることが多いと考えられるところ、本件請負契約についていえば、上記観点の下、総じて、契約内容(本件各業務)の確定から納品予定⽇まで、⼟曜⽇を含めた4連休の⽇を含む極めて短期間のうちに完成・納品を求められるものであった上、控訴⼈と被控訴⼈との間で、従前、同様の取引が⾏われたことはなく、新たな取引としてこれを⾏う必要があるものでもあった。また、本件各業務の業務内容の確定や業務の仕掛り前に、本件当事者間で、本件公費負担額の具体額を限度とした仕事の内容・程度に⽌めおきたいなどの事前のやり取りがされていたような事情もうかがえない。

報道にもある石丸氏の「いまさらですが、今回の発注でお支払いの総額はどれくらいになるものなのでしょうか。選挙運動の費用に制限があるため、念のためお伺いする次第です。」というメールが送信されたのは、ポスター及び1回⽬の法定ビラの納品日である7月30日以降でした。

こうした経過から、「休⽇・時間外対応費⽤」として上乗せされた金額についても正当性が真正面から認められています。

(イ)また、控訴⼈は、本件⾒積額のうち「休⽇・時間外対応費⽤」(9万4519円)について、これを控訴⼈に負担させる根拠はない旨主張するが、証拠(甲11、⼄1、2、証⼈C)及び弁論の全趣旨によれば、C及びDは、納期が短い上、控訴⼈からの⼊稿や指⽰が遅れるなどしたために、⽇⼜は⼟⽇であった令和2年7⽉23⽇から26⽇までの4⽇間、休⽇出勤をして、控訴⼈からの連絡を受けるため待機したり、控訴⼈の指⽰に基づいて作業を⾏ったりしたほか、上記の休⽇のうちに完了しなかった作業については平⽇に持ち越すこととなって、同⽉27⽇及び28⽇には残業を余儀なくされたことが認められ、納期に余裕がありあるいは適時に⼊稿や指⽰が⾏われていれば⽣じなかったC及びDの休⽇労働や時間外労働に係る割増賃⾦等の費⽤について、これをいわゆる特急料⾦⾒合いの相応額として本件請負契約に係る報酬額に計上することには相当性が認められるというべきである。

「控訴⼈の指⽰に基づいて作業を⾏ったりした」というのは、要するに石丸氏側からの「仕様変更」があったということでしょう。

広島県・安芸高田市議選での他の候補者は公費負担額に収まってるが…

さて、(選挙運動用の)ポスター・ビラの製作にかかる報酬額については、他の議員からは自身の経験も踏まえて、公費負担額から足が出ることについて疑問が呈されることもありました。

石丸氏も訴訟において、他の議員らとの平仄から報酬見積額がおかしいのでは?という主張はしていましたが、それも以下の判示で退けられています。

もっとも、控訴⼈は、調査嘱託の結果に基づき、令和2年4⽉12⽇に執⾏された広島県議会議員安芸⾼⽥市選挙区補⽋選挙及び同年11⽉15⽇に執⾏された安芸⾼⽥市議会議員選挙の各候補者の多くについて、そのポスターや法定ビラの製作費⽤が公費負担の上限額を超えていないことを指摘する。しかし、上記のとおり、ポスターやビラの製作に係る報酬額は、個々の請負契約に係る上記諸事情の内容、程度により左右されるものということができる(定型的な物品の売買等と異なり、ポスターやビラが意匠の関わる創作物であることからしても、⼀層そのようにいえるものと解される。)ところ、これら控訴⼈が指摘する候補者らが、いかなる取引業者と、いかなる⾒地(取引業者と代⾦額を定めるに当たって公費負担上限額をどこまで重視することとしたかといった観点を含む。)から、どういった趣旨や由縁に基づいて請負契約を締結したのか及びその約旨は上記証拠等によっても明らかでないから、こうした事情を措いて、上記調査嘱託の結果から、本件請負契約における相当報酬額についても本件公費負担額とし、あるいはこれを上限とすべきであるなどとは到底認め難いというべきである。上記調査嘱託の結果は、これらの候補者が、ポスター等の製作費⽤につき⾃⼰負担が⽣ずることを避けるため、公費負担の上限額を超えない内容でその製作を業者に依頼した結果であるとも考えられ、控訴⼈の上記主張の裏付けとなるものとはいえない。

継続的な取引関係にあれば安くなるし、事前に公費負担額の範囲になるように調整してほしい旨を伝えていたならば、金額も変わっていたでしょう、という常識的なことを言っています。*2

まとめ:元銀行員が予算枠を伝えず請負業者の仕事を軽視、司法判断への不信感を煽る

石丸氏は元銀行員でありながら、希望する見積額や公費負担額の上限などを取引相手に提示していないという手続の稚拙さに驚きます。それを糊塗するかのように公費負担額を超えた分の支払いを拒んでいたというのは、請負業者の仕事を軽視しているように見受けられます。

本件訴訟で主張されていた商法512条の「相当な報酬」は、中小企業が口頭合意などで明確な報酬額を設定していなかった場合にトラブルになっても泣き寝入りしないように設けられたものです。石丸氏の態度は、そうした法の趣旨からも反していると感じます。

原告業者に勤務している石丸氏の妹を通して最初に依頼したという経緯も不審なものを感じます。

裁判所の判断は常識的であり、石丸氏の支持者らが言う「司法の評価がおかしい」という主張は、かなり苦しいものなのではないでしょうか。最大限にやさしく言っても、「石丸氏の側に手落ちがあった」という評価にしかならないと思います。

*1:安芸⾼⽥市議会議員及び安芸⾼⽥市⻑の選挙における選挙運動費⽤の公費負担に関する条例」に基づく
*2:※この部分の石丸氏の主張を前提としても、前述の通り、作成しない事となった政治活動用=告⽰前ビラのデザイン料分の代金は上乗せで発生することが予見できるわけで、こちらは「安芸高田市議会議員及び安芸高田市長の選挙における選挙運動費用の公費負担に関する条例」の「選挙運動用ビラ」「選挙運動用ポスター」には当たらないから、こちらの費用が請求されれば石丸氏と業者の取引の金額は必ず公費負担上限よりも高くなるのが明らか。ただし、本件で業者から石丸氏に提示された見積書では告示前ビラのデザイン料について触れる所が無く、判決文でもこの点がどう考慮されたかは不明。が、選挙用ビラの代金に上乗せされていても当然だろう。


編集部より:この記事は、Nathan(ねーさん)氏のブログ「事実を整える」 2024年6月28日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は「事実を整える」をご覧ください。