感染研が提示する超過死亡数を解釈する場合の注意点に関する論文を発表

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私は過去に数回にわたりネット論考において「感染研が提示する超過死亡数を解釈する場合の注意点」を指摘してきました。今回、これらの論考を一つの論文 にまとめました。当論考は、この論文の簡易版です。

厳しい査読になるだろうと予測はしていましたが、予想を超えた苛烈な査読となりました。4回書き直して、やっと受理されました。同じ時期に投稿していた英語論文の査読とは雲泥の差でした。英語論文では、「コロナワクチンの安全性検証は不十分である」ということが記述されているため、厳しい査読になることを予想しておりました。ところが、「Major Revision」という査読結果でしたが、1回の改訂であっさり受理されました。なお、英語論文では公開査読を選択したため、[Review Reports]のボタンをクリックしますと、査読内容を確認することができます。

前置きが長くなりましたが、以降が本題です。論文では複数の問題について考察しましたが、本論考では特に重要と私が考える「過少死亡数の問題」と「超過死亡数の定義」についての考察を取り上げてみます。

まず、過少死亡数の問題について考えます。

過少死亡数という指標は、感染研の累積グラフでのみ使用されており、感染研の週毎グラフや海外の超過死亡数を公表しているWebサイトでは使用されておりません。私は過少死亡数を次のように使用するべきと何度も提言してきました。

超過死亡数=累積グラフの超過死亡数-累積グラフの過少死亡数

感染研の過少死亡数の考え方は、日本ファクトチェックセンターの取材より明らかとなりました。その記事より引用します。

当初のJFCの記事では感染研のグラフをもとに「超過死亡は7万4810人から19万1285人だったというデータを発表」と記していました。鈴村氏の指摘は感染研の示す死亡数について「確かに超過死亡数は、74,810~191,285人です。しかし、過少死亡数は、0~23,013人です。したがって、正味の超過死亡数は、74,810~168,272人です。他で公表されている超過死亡数と比較する場合は、過少死亡数を引いた数値で比較する必要があります」というものでした。JFCは感染研にもグラフの読み方について確認しました。感染研のダッシュボードで示している「超過死亡」と「過小死亡」については「統計学的に分けて推定しているので、単純に両者の差を求めることは統計学的方法において誤ったものとみなされるため行っていないが、大まかな超過死亡の規模感を知るには間違いとは言えない」という回答でした。

この修正記事で注目するべき点は、「両者の差を求めることは、大まかな超過死亡の規模感を知るには間違いとは言えない」と感染研が回答したことです。つまり、累積超過死亡数より過少死亡数を引くことにより、「大まかな超過死亡の規模感を知る」ことが可能になると感染研が公式に認めたことになります。また、そうであるならば、累積グラフの超過死亡数単独では、大まかな超過死亡の規模感を知ることはできないと解釈することも可能です。

累積グラフの超過死亡数は、単独では「大まかな超過死亡の規模感を知る」ことができない指標であるならば、何故そのことを感染研のWebサイトで説明しないのでしょうか? そして、「大まかな超過死亡の規模感を知る」ことができる単独の指標を何故累積グラフで表示しないのでしょうか? 国民が知りたいのはそのような指標のはずです。

一方、「統計学的に分けて推定しているので、単純に両者の差を求めることは統計学的方法において誤ったものとみなされる」という見解には筆者は賛同できないため、その点に関する質問書を感染研へ送付しましたが、現時点で回答は得られていません。

そのため、論文においては「累積グラフの超過死亡数より過少死亡数を引くことの妥当性に関して結論を出すことはできず、今後検討されるべき問題として残された」という表現になりました。

私が過少死亡数の問題点を指摘したのは2021年12月です。そしてこの時、過少死亡数の問題点を指摘したメールを厚労省に送付しました。問題を認識しているにも拘わらず、それを2年半にもわたり放置することは、感染研の怠慢と言わざるを得ません。

次に、「感染研の超過死亡の定義はWHOのそれとは異なる」という問題について考えてみます。

超過死亡という概念は、1973年にWHOによりインフルエンザ発生動向の監視や包括的健康影響評価を目的として提唱されました。WHOは超過死亡数を「平時に予想される死亡数と危機発生時の死亡数の差」と定義しています。

超過死亡を「例年と比べてどれだけ死亡者が多いかを示す指標」と理解している人も多いと思われますが、WHOが提唱した超過死亡の概念とは異なります。Our World in Dataにおいての定義もWHOと同様です。

超過死亡をどのように定義するかは極めて重大な問題です。WHOの定義に従うのであれば、超過死亡を算出する際の比較データはコロナパンデミック以前のデータを使用 しなければなりません。

ところが、感染研の超過死亡ダッシュボードではパンデミック中のデータも比較データに含めて計算されているのです。つまり、感染研のダッシュボードの提示する超過死亡数は、WHOが提唱する超過死亡数とは異なる数値なのです。この問題は、以前の論考で指摘しました。

この問題は2023年の超過死亡で顕在化します。まず、感染研の2023年の超過死亡のグラフを見てみます。

2023年3月中旬以降の超過死亡数は、ほぼマイナスです。

次に、Our World in Dataのグラフです。

2023年の超過死亡は一貫してプラスであり、9~10月の超過死亡率は約11%まで上昇しています。 感染研のグラフとは全く異なります。

NHKは、2023年6月、以下のように報道しています。

ことし3月20日以降、先月中旬までの8週間について、超過死亡が出ているか1週間ごとに調べたところ、全国でも地方ごとでも、過去5年間のデータから推計される死亡者数と比べて顕著に増えた時期はなかったことが分かりました。分析に当たった専門家は、新型コロナによる死者はいたが、大幅な増加はみられなかったと考えられるとしています。

既に述べたように過去5年のデータと比較しても、コロナパンデミックの影響は分かりません。NHKは感染研の発表を盲目的に信用しているため、このような誤解を招く危険のあるメッセージを国民に 発信してしまうのです。

感染研はこれらの問題について感染研のWebサイトで丁寧に解説するべきです。解説が不十分であるため、感染研も自認している「超過死亡の定義や解釈を巡る混乱」が生じていると考えられます。