超過死亡の増加が国民の間で大きな問題となっているが、武見厚労大臣は、6月25日の記者会見で、
最近のわが国における死亡数の増加は高齢化によると考えられるので、その原因をさらに調査する必要はない
と答弁している。
6月に発表された2023年の人口動態統計を用いて、わが国の超過死亡の主たる原因が高齢化で説明できるのかを検証する。
年齢調整死亡率は、年齢構成の異なる集団の死亡率を比較するために、年齢構成を調整した死亡率である。年齢調整死亡率を使えば、高齢化の影響を排して死亡率の比較が可能である。
図1は、2010年から2023年までの過去14年間における人口10万人あたりの年齢調整死亡数を示す。予測死亡率と95%予測死亡区間は、コロナの流行が始まる以前の2010年から2019年までの死亡数からロジスティック回帰分析を使って求めた。
東日本大震災のあった2011年を除いて、コロナの流行が始まった2020年までは、一貫して死亡数は減少している。とりわけ、コロナの流行が始まった2020年は、99%以上の確率で予測死亡数を下回った。
ところが、コロナワクチンの接種が始まった2021年は一転して99%以上の確率で予測死亡数を上回り超過死亡が観察された。2021年の死亡数の増加を、2020年の反動によると捉える意見もあるが、2022年、2023年も超過死亡が見られたことから、その可能性は否定できる。
図2は、2020年1月から2023年12月までの月別の超過死亡率とコロナワクチン接種との関係を示す。医療従事者を対象としたワクチンの接種は2021年2月から始まったが、超過死亡が観察されるようになったのは、高齢者を対象にワクチン接種が開始された2021年4月からである。
2020年の年齢調整をおこなったうえでの死亡数は、予測死亡数と比較して28,526人少なかった。ところが、2021年には25,815人の超過に転じ、2022年、2023年は117,444人、114,220人とさらに増加した。コロナ禍4年間における年齢調整超過死亡の総数は、228,953人と広島と長崎の原爆による犠牲者を合わせた数に匹敵する。
欧州連合(EU)やOECD統計局は、2020年から2023年の超過死亡数を、年齢調整を行わないで(粗死亡数)、コロナが流行する以前の2016年から2019年における粗死亡数の平均値との差で算出している。この算出方法は簡便で、各国間の超過死亡を比較するのに都合がよい。この方法で算出すると、日本のコロナ禍4年間の超過死亡の総数は60万人に達する(表1)。
武見厚労大臣によると超過死亡の原因は高齢化によることは明白ということであるが、それでは、小児や若年成人には超過死亡は見られないのだろうか。
図3には、2010年から2023年における年代別の粗死亡率の推移を示す。0〜9歳の小児を除いて、2021年以降は、すべての年代で超過死亡が見られた。
図4には、2020年から2023年における年代別の超過死亡率を示す。10歳代から50歳代の超過死亡率は、2020年から2023年にかけて漸増し、2023年が最も高かった。死亡数の絶対値が多いので、超過死亡数は高齢者の方が多いが、超過死亡率は、10歳代から30歳代の方が、60歳以上の高齢者よりも高かった。
超過死亡は、高齢者だけに見られるものではない。かえって、青少年や若年成人の方が高齢者と比較して超過死亡率は高い。とりわけ、コロナの流行が収束し、社会生活もコロナ流行前に戻りつつある2023年において、最も超過死亡率が高いことは注目に値する。
医師や研究者でもない武見厚労大臣は、専門家のアドバイスを受けて上記の発言をおこなったのであろう。わが国の超過死亡は、国立感染症研究所(感染研)からの数値が公式発表とされている。感染研の鈴木基センター長は、2021年4月に見られた超過死亡は、ワクチン接種回数の増加に先立って発生していることから、Bradford Hillの因果判定基準に照らし合わせて、超過死亡におけるワクチン接種の関与を否定している。
国会における政府答弁でも、長らく、超過死亡におけるワクチン接種の関与を否定する根拠として鈴木基センター長の発言が用いられてきた。わが国のワクチン接種が、ワクチン接種後の死亡リスクの高い高齢者施設の入居者が先行したことを考えれば、超過死亡の始まった時期とワクチン接種のピークとがずれていても何ら不思議ではない。
次に、感染研がおこなったことは、予測死亡数を嵩上げすることで、2023年以降は超過死亡が観察されなくなったという発表である。この発表が、実態を反映していないことは今回の検討でも明らかである。
そして、武見厚労大臣の発言である。超過死亡に触れられることは、余程、政府にとって不都合なことなのであろう。
超過死亡は、すべての原因による死亡を合わせたものである。欧米におけるコロナ流行の初期に見られた超過死亡は、コロナ感染による死亡数の増加がその原因であった。しかし、コロナも収まり、コロナによる死亡数が減少した2022年以降も超過死亡が観察されていることが問題とされている。
筆者はこれまで、重回帰分析やIoannidisの因果判定基準を用いて、超過死亡の原因の一つとしてコロナワクチンの追加接種が考えられることを繰り返し主張してきた。
コロナの流行と超過死亡の発生時期が一致することから、診断されていない隠れコロナの存在が超過死亡の原因であるという主張も見られる。2019年以前には、コロナによる死亡はなかったことから、2020年以降における超過死亡の原因にコロナ死亡が含まれるのは当然である。
問題なのは、コロナによる死亡数よりも、超過死亡数がずっと多いことである。人口動態統計によると、2023年のコロナによる死亡数は、38,080人であったが、粗死亡数に基づく超過死亡数は248,596人である。20万人に達する隠れコロナによる死亡があったとは思えない。
武見厚労大臣の発言から考えるに、政府は、超過死亡の原因の検討を今後も行うつもりがないのであろう。超過死亡は、言ってみれば、現代の日本が抱える病である。臨床医は、病人に対しては、副作用が少なく、最も即効性のある処方を考える。
10月以降に8回目のワクチン接種が予定されているが、いくつか挙げられている超過死亡の原因に対して、即座に取りうる唯一の処方は、これ以上、ワクチンを接種しないことである。諸外国で、ワクチン接種を中止しても、コロナが流行していないことを考えると、ワクチン接種の中止によるデメリットは考えにくい。
わが国にとって、人口減少への対策が最大の課題である現在、政府には、若年者を含めた国民の死亡数の増加を抑えるつもりはないのだろうか。