週休3日制度は壮大な社会実験

英国が週休3日を取り入れる検討を始めたそうです。スターマー政権は労働党で議会での議席数上の決定権もあるので詳細部分は多少の練り直しがあるにしても大枠ではそのような法案が通る可能性が高いのでしょう。私はこれは壮大なる社会実験だと思っています。

良い部分もあるし、歪みが出る部分もあるでしょう。私は弱小ながら経営者という立場でもあるし、経済や社会全体が年齢や経験を踏まえもう少し俯瞰できるとすれば週休3日への移行は一定の痛みを伴う流れになるだろうと感じています。

欧米の場合、業務の進め方は担当者制になっていることが多いかと思います。つまり担当者以外はその案件や交渉の事情がよくわからない、ということです。日本はグループで事業展開するケースが多いので担当者が休んでもグループ内の別の方がフォローしやすい仕組みがあるかと思います。

ここカナダで仕事をしていると必ずぶつかるのが「休暇中につき〇日まで不在」。もちろん休暇を取るのは権利であり、それを否定するつもりはないのですが非常に非効率で忍耐力を試されます。例えば役所仕事などでは担当者とのやり取りで全てが完結するわけではなく、関連部署や上司の承諾を得ることは日常茶飯事です。これが休暇シーズンである夏とか冬に担当者が2週間休み、ようやく戻ってきたら上司や関連部署が休み、という具合でさっぱり話が進展せず、たった一つのことを決めるのに1-2か月かかるようなことはザラにあります。

今年の春に完成したグループホームの建築で工事を主導したのはコンストラクションマネージメント会社ですが責任者である社長が年中、休暇やミニバケーションを取るのです。現場には右も左もわからないような担当者を配置し「彼がいるから大丈夫」と。問題は基礎のコンクリート打設の時に起きました。そんな大事な時に「旅行の予定しているから…」と担当に業務を投げます。私は心配で打設の日に何度か担当に連絡し「どうだ?」と聞きます。本人は「大丈夫」と。2日ぐらいしてから現場に行くとオーマイガッドです。コンクリを流し込んだ際、気泡が入るのですが、それを取り除くためのバイブレーション不足でとんでもない仕上がりだったのです。社長が休暇から戻ってきてそれを見て青ざめたのは言うまでもありません。あの修復だけで1か月以上の工事の遅れを出したのです。

休暇や日本出張を何時入れるか、私は業務のボリュームや波を知っていますのでひと段落した時に調整します。つまり夏や冬休みという括りはなく、不定期にそのタイミングはやってきます。私の相方も会社の経理業務や給与支払業務の波は決まった時に起きるので休暇取得は月の下旬と決めています。週休3日とか日本のゴールデンウィーク、夏季休業といった集中型だと日本の経済活動全体を止めてしまう発想に近いので案外迷惑は掛からないだろうと思われがちですが、そうでもないのです。

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例えば日本の取引先からの月締めの請求書は概ね翌5日頃までに送付されてきます。取引先が多く、当然、支払業務も一気に行います。が、ある大手企業は正月とかゴールデンウィークになると下手すれば翌10日ぐらいまで送ってこないのです。(ほかの業者は請求作業が自動化しているのか何時でも決まった日に送ってきます。)一社遅れると支払業務全部を停滞させなくてはいけないし、業者によっては支払期限ぎりぎりになってしまうこともあるのです。これは小さい事例ですが、多くの会社はシステマティックに動いているので休暇によるバラバラの動きは企業経営に求められる効率性に問題が生じるのです。

では週休3日にするメリットは何でしょうか?ワークライフバランスでしょうか?何か自分のことをしたいという目的がある人には都合がよいでしょう。「そんなに休んでどうするの?」と思っても人間には必ず慣れが生じますのでしばらく経てば週休3日、当たり前だよね、になるはずです。

同じ議論がかつて週休2日にする際にあったと思います。週に2日休むという常識はその当時、社会全体にはありません。私だって土曜日は午前中は学校のクラスが普通にありましたし、銀行も役所もやっていました。それが週休2日になるのは社会の仕組みを総入れ替えするぐらいの話でした。事実、週休2日制度になっても長いこと土曜日出社は当たり前でした。会社に来る癖が抜けない人々は「俺たち、会社に住んでいるし…」でした。

もう少し付け足せば今でも建設業は日本でもカナダでも土曜日は普通に作業しています。これが週休3日になれば「格差が広がる」ということなのでしょう。休める人と休めない人が必ず生まれるのです。ある意味、別の意味での「格差是正」を英国労働党はどう取り組む気でしょうか?1日8時間労働を10時間にし週3日休むというのは計算上は可能なのですが、社会全体がそれに合わせた動きができるか、と言えばそう簡単でもないし、ワークシェアリングでこなせないことも多いのです。業種によっては24時間稼働しなくてはいけないものもあるし、緊急時対応はどの業種でも必要です。

労働者の権利を重視したい英国の実験は壮大なものになりそうです。英国という国はある意味、アメリカよりもフロンティア精神が旺盛なところがあり、大いなる議論を巻き起こすこともしばしばあります。近年ではEUからの離脱は正しかったのか、未だによくわかりません。週休3日はうらやましいし、私の生活がそうなれば全く違った人生のチャレンジをすることもできるかもしれません。まずは英国の実験をとくと眺めることにします。それが日本に導入されるかはまだはるか先の議論となりそうですが。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年9月13日の記事より転載させていただきました。

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会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。