極右「自由党」と国民党がトップ争いか

オーストリアで29日、国民議会(下院183議席)の投開票が実施される。複数の世論調査によると、野党の極右「自由党」が第1党に躍り出るものと予想されている。それを追って与党の中道右派「国民党」が選挙戦終盤、急速に支持を獲得し、自由党とトップ争いを展開してきている。

オーストリア自由党 キックル党首 インスタグラムより

9月22日の最新世論調査(IFDD)結果によると、自由党が27%でトップ、それを追って国民党25%、社会民主党21%と3大政党が支持率20%台で並んでいる。そのほか、リベラル派政党「ネオス」が9%で2桁台を伺っている一方、ネハンマー首相の連立政権のジュニアパートナー、環境保護政党「緑の党」は9%と前回総選挙比で約5%減と大きく後退すると予想されている。

欧州ではフランスやオランダで極右政党が活躍し、欧州政界は右寄り傾向を見せているが、オーストリアでは自由党は今年に入り欧州議会選でも得票率を伸ばし、第1党に躍進するなど、世論調査の結果を裏付けてきた。ただ、自由党が第1党となった場合、どの政党と連立を組むかで難航が予想される。社会民主党や「ネオス」、「緑の党」は自由党との連立を拒否している。一方、国民党は過去、自由党と連立を組閣した経験がある。州レベルではニーダーエステライヒ州などの議会で国民党と自由党の両党は連立政権を運営している。その意味から、選挙後、自由党と国民党の連立政権が発足する可能性が囁かれているわけだ。

1999年の国民議会選で自由党が第2党に躍進し、第3党の保守党「国民党」と連立を組み、国民党の党首シュッセル氏を首相に担ぎだして新政権を発足した時、欧州政界はオーストリア・ボイコットの嵐が吹き荒れた。多分、同じようなボイコットの嵐が欧州各地で起きることが十分予想される。

1999年と違うのは、キックル自由党は第2党ではなく、第1党に躍進し、そして選挙後は国民党と連立を組むとしてもネハンマー党首に首相の座を譲る考えはなく、キックル主導の新政権を発足させる方向で固まっていることだ。

自由党と国民党はその政治信条は似ている。特に、移民政策では国民党はここにきて自由党のそれに負けないほど強硬政策を主張し、国境の監視強化、不法移民・難民の強制送還など実施してきた。ただ、対欧州連合(EU)や安保政策では自由党は国民党とは異なり、EUに対して批判的である一方、ロシアに対しては融和的な姿勢が目立つ。対ウクライナ支援でも消極的だ。

自由党のキッケル党首は8月21日、ウィーンのブルクガルテンのパルメンハウスで同党の選挙プログラムを発表した。そのタイトルは「オーストリア要塞」(Die Festung Osterreich)だ。キックル党首は「オーストリア要塞は自由の要塞である」と言明している。

自由党は、移民排斥、ナショナリズム、欧州連合(EU)やグローバリズムに対して強い懐疑心を抱き、イスラムフォビアだ。その一方、厳格な伝統的家族観を支持し、ジェンダー主義に警告を発している。キックル党首は「自由党は個性、主権、均質性、そして連帯を重視する」と述べ、パンデミック時の基本的権利や自由の制限について批判している(「極右『自由党』は何を考えているのか」2024年9月1日参考)。

今回の選挙戦で興味深い点は、「緑の党」の低迷だ。オーストリアでは今月上旬、大洪水に見舞われ、多くの家屋が水浸しとなるなど、気候不順でさまざまな被害が出たばかりだ。「緑の党」が「ほら見たことか」と言って、環境保護政策の重要性を国民に訴えるチャンスだったが、同党への支持率をみる限りでは、全く反対の結果になっている。ドイツの「緑の党」でも同じ傾向が見られる。多くの国民が「緑の党」離れを見せてきているのだ。

「緑の党」と好対照なのは、ネハンマー首相の国民党だ。同首相は洪水被害地を視察し、緊急被害対策に積極的に乗りだしている。その危機管理への対応に対し、国民の信頼と好感度が上がっているのだろう。国民党の支持率アップとなって表れてきているのだ。自由党と国民党のトップ争いが面白くなってきた。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年9月28日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。