英「子供の性被害に対する民事時効撤廃」

5日ロンドン発の時事通信の記事を読んで嬉しくなった。それによると、「英政府は5日、性的虐待を受けた子供が加害者に補償を求める民事訴訟について、イングランドとウェールズ地域で時効を撤廃する方針を明らかにした」という。同記事の見出しは「正義追及可能に」だ。

ドイツのノルトライン=ヴェストファーレン州のアーヘンにある大聖堂(バチカンニュース2024年11月19日から)

未成年者への性的犯罪は増えているが、英国の現行法では「被害者が18歳になってから3年以内に提訴する必要がある」となっている。児童への性的虐待に関する独立調査委員会は「被害者が性的虐待について話せるようになるには何十年もかかる」ため、「かなりの数の訴えが却下されている」との証言を得ていたという。民事時効が撤廃されることで、被害者は過去の痛み(性犯罪の被害)を克服した時点で公の場で加害者を訴えることができるようになる。

ローマ・カトリック教会の聖職者の未成年者への性的虐待問題をフォローしていくと、聖職者の性犯罪問題の解明にブレーキとなっている外的なハードルは「告解の守秘義務」と共に、「時効」問題があることが分かる。その内容をまとめておく。

① 「告解の守秘義務」(Seal of Confession)
欧州のカトリック教国フランスで2021年10月5日、1950年から2020年の70年間、少なくとも3000人の聖職者、神父、修道院関係者が約21万6000人の未成年者への性的虐待を行っていたこと、教会関連内の施設での性犯罪件数を加えると、被害者総数は約33万人に上るという報告書が発表され、欧州全土に大きな衝撃を投じた。独立調査委員会(CIASE)が2019年2月から2年半余りの調査結果をまとめたものだが、それによると、教会上層部が性犯罪を犯した聖職者を「告白の守秘義務」という名目のもとで隠蔽してきた実態が明らかになった。CIASEのジャン=マルク・ソーヴェ委員長(元裁判官)は報告書の中で教会の「告白の守秘義務」の緩和を提唱している。

バチカンの基本的立場は明確だ。赦しのサクラメント(秘跡)は完全であり、傷つけられないもので、神性の権利に基づく。例外はあり得ない。それは告白者への約束というより、この告白というサクラメントの神性を尊敬するという意味からだ。

②「時効」問題
ドイツのローマ・カトリック教会アーヘン司教区で2024年11月18日、同司教区が聖職者の性犯罪に関連した慰謝料請求訴訟2件の「時効」を主張し、それが認められたことに抗議して約400人がデモを行った。抗議イベントには、カトリック信徒の代表機関である教区評議会や複数のカトリック団体が支援を表明した。アーヘン地方裁判所は今年7月、聖職者に性的虐待を受けた被害者2人による訴えを棄却した。2人の原告は控訴を予定しており、ケルン高等裁判所に訴訟費用の援助を申請中だ。

アーヘン司教区の性的暴力独立調査委員会(UAK)議長で社会学者のトーマス・クロン教授は、司教区の委員会を批判、「被害者たちは、長い間虐待について語ることができなかったため、十分な時間があったとは言えない」と指摘した。また、ボンの教会法学者ノルベルト・リューデケ氏も司教区を批判し、「隠蔽によって長期間にわたって真相解明を遅らせた組織が、今度は『終止符』を打とうとする戦術で責任から逃れようとしている」と述べている。

ちなみに、ドイツにおける性犯罪の時効期間は、犯罪の種類や重さ、被害者の年齢に応じて異なる。軽度の性犯罪(性的嫌がらせなど)は通常3~5年で、性的暴行(強姦や性的虐待など)は10~20年となっている。特に未成年者に対する性犯罪の場合、時効の開始は、被害者が30歳に達するまで延期される。特に重大な強姦事件などでは、時効は20年以上となる場合もある。ドイツでは2015年に法改正が行われ、未成年者への性犯罪の時効期間が延長された。性犯罪における時効は多くの議論を呼んでおり、被害者が事件について話すまでに時間がかかる場合が多いことから、時効撤廃やさらなる延長を求める声も上がっている。

ローマ・カトリック教会は「告解の守秘義務」と「時効」という2つの壁を築き、その前に聖職者の性犯罪を隠蔽し、拡散してきた経緯がある。バチカンは聖職者の未成年者への性的虐待問題では2つの壁を撤廃すべきだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年2月7日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。