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2025年3月22日付日経新聞電子版記事「JASRACの楽曲使用料どうなるの? 音楽教室、子供は安く」(以下、「日経記事」)は、前回投稿で紹介した「JASRACから「子どもは1人年間100円」の使用料合意を勝ち取った音楽教室」(以下、「前回投稿」)問題を取り上げている。

前回投稿では判決から2年以上かかった使用料交渉について、以下のように疑問を提起した。
2022年10月の最高裁判決から2年以上かかった理由について、「音楽教室規定に関する音楽教育を守る会とJASRACの合意について」は「協議当初は、最高裁判決の解釈に多くの時間を要したため、判決から2年をかけて合意に至りました」と説明している。
今回、最高裁が支持した知財高裁判決は66ページに上る。それに比べ、最高裁判決は争点も絞られたこともあるが、わずか2ページで論旨も明快。しかし、それでも解釈に差があったのだろうか。
この疑問は日経記事の以下の記述で解消した。
最高裁判決後も両者の交渉はしばらく進まなかった。動き出したのは昨年5月ごろから。オブザーバー参加していた文化庁が示した「授業目的公衆送信保証金等管理協会(サートラス)」の規定が目安になった。小説 音楽などをオンライン授業で配信する際に、学校が補償金をサートラスに払えば使える仕組みだ。小学校は年額 120円、大学は同720円だ。
日経記事は「当初の規定ではJASRACは音楽教室からの徴収金額を年 3億5000万~10億円程度と試算していました。 新規定では最大でも 3億円程度になる見通しです」としている。前回投稿のとおり、JASRACは当初の規定による徴収に応じた音楽教室からは2018年4月から徴収を開始しているので、大幅値下げは避けたかったと思われる。上記のとおり、交渉にオブザーバー参加した文化庁の果たした役割は大きかったといえる。
カラオケ法理を適用しなかった最高裁
今回、最高裁は東京地裁判決を覆した知財高裁判決を支持した。上告受理申立てを受理しなければ知財高裁判決が確定するので、受理しない選択肢もあったが、受理した上で知財高裁判決を支持する判決を下した。
これについては前回投稿で、早稲田大学の上野達弘教授の論考「著作権法に関する最高裁判決の射程――最高裁判決のミスリード?ーー」『コピライト』(2018年6月号)を紹介しつつ、今回の東京地裁判決もミスリード判決の一例といえるので、「下級審がこうした判決を繰り返さないために最高裁判決として残しておきたかったのかもしれない」とした。
今回、東京地裁もミスリードされた最高裁判決は、1988年のクラブキャッツアイ判決である。最高裁は当時、多くのカラオケ店が著作権使用料を払わずに営業していた事態に対応する必要に迫られた。カラオケ店で歌っているのは客だが、客は歌う=演奏することによってお金を儲けているわけではないので著作権侵害とはいえない(著作権法第38条)。
このため、最高裁はカラオケ店主が ①客の歌唱を管理し、②利益を得ている、ことを理由に著作権を侵害しているとみなした。その後、この判決はカラオケ法理とよばれるようになり、カラオケ関連サービスだけでなく、インタネット関連サービスにも広く適用されるようになった。ネット関連新サービスを提供するベンチャーの起業の芽を摘み取り、日本のIT化・デジタル化を遅らせる原因にもなった(下図参照)。
日経記事は東京地裁がカラオケ法理に沿って、JASRACの使用料徴収を認めたとした後、「しかし最高裁は一般的感覚からは分かりづらい同法理を適用せず、実態を踏まえて判断しました。専門家の間でも「納得感がある」という声が多いです」とした。
なお、この事件を題材とした拙著「音楽を取りもどせ! コミック版 ユーザー vs JASRAC」を実写映画化するLIBERTY DANCEが夏に公開される予定。
映画の公開へ向けて、私の活動を支援するクラウド・ファンディング「【これでいいの? 日本の著作権】著作権法の問題を新刊本と新作映画で知ってほしい!」が立ち上がったので、ご支援いただけると大変ありがたいです。