外国人労働者政策:日本の魅力と信用力低下への対応

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(前回:外国人労働者政策:「数の規制行政」への転換と公開

政府は、外国人政策の司令塔となる「外国人との秩序ある共生社会推進室」を内閣官房に新設した。時事通信によれば、首相は出入国在留管理の適正化、社会保険料の未納防止、外国人による土地取得などを課題として挙げ、総合的な対応を指示したとされる。

政府、外国人政策で司令塔 参院選争点、姿勢アピール:時事ドットコム
政府は15日、外国人政策の司令塔となる「外国人との秩序ある共生社会推進室」を内閣官房に新設した。一部の在留外国人による犯罪や迷惑行為への懸念が国民に広がる中、政府を挙げた取り組みを推進する。外国人問題は参院選の争点に急浮上しており、石破政権の姿勢をアピールしたいとの思惑がありそうだ。

こうした規制強化の方向性には一定の妥当性がある。一方で、筆者が以前提言したように、外国人労働者の受け入れを国家的な意思として本格化させるのであれば、単なる規制強化ではなく、省庁横断的で多機能な司令塔機関の設置が不可欠である。

外国人労働者政策:司令塔機関に求められる視点
(前回:外国人労働者政策:国政政党の政策論に求めること) 外国人労働者問題について、司令塔機関の設立を前提に、その政策的なあり方を考察したい。 まず、私の基本的な立場を簡潔に述べておくと、外国人の受け入れについては、業界別に必要...

日本は外国人にとって魅力的な労働環境か?

中長期的視点に立てば、日本が外国人にとって魅力ある労働環境であり続けられるかどうかは、制度設計以前の根本的な問いである。

国際的信用力の低下という現実

日本の国債発行額は膨張を続け、長期国債の利回りは上昇傾向にある。これは市場が日本の財政に対するリスクプレミアムを要求し始めている兆候であり、経済的信用力の低下を意味する。

信用が低下すれば、円の国際的価値も相対的に下がる。実質実効為替レートで見ても、円は長期的に下落傾向にある。この現象は、外国人労働者にとって「日本で働く経済的インセンティブ」が減少していることを意味している。

円という通貨の総合的な実力が下がったときに懸念される具体的な影響は以下のとおりだ。

  • 送金価値の低下:母国への送金額が目減りし、技能実習生や特定技能人材の誘引力が低下。
  • 生活コストとの乖離:円安下でも物価が上昇すれば、実質的な生活水準が下がり、定着率が悪化。
  • 他国との競争:韓国、台湾、シンガポールなどが高待遇を提示すれば、日本は選ばれにくくなる。

このように、外国人労働者政策は、長期的には「そもそも人が集まらなくなる可能性」を内包しているが、意外にもこの視点は政策論議で十分に共有されていない。

魅力低下を補うための構造的再設計

今後、日本が急激に衰退するというディストピアの現出はありうる話だが、そのような前提では話にならない。よってここでは、「ゆるやかな国力低下」という一般的に考えられているモデルを前提に、魅力の再構築を考えたい。

以下に、外国人労働力政策に長期的展望を持たせるための政策的方向性を示す。

具体的な制度設計については、今後の連載で順次検討していく予定である。ここで言いたいのは、以上のような視点での魅力・競争力強化の実装と、その施策の内容を省庁横断的に送出国側にアピールする必要がある、という点だ。

そのような制度的魅力の再構築には、政府・社会・政党が外国人労働力受け入れに対する「国家的覚悟」を共有し、司令塔機関がその実行を担う体制の確立が不可欠である。

外国人政策は国家事業として位置づけよ

円の価値や国債利回りは重要な指標であるが、それらが他国に劣後する局面でも、制度的・社会的魅力の充実があれば、外国人労働力の受け入れ政策は持続可能である。

むしろ、経済的魅力が低下する局面だからこそ、制度的・社会的魅力を再設計する好機と捉え、「国家事業」として取り組む姿勢を確立することが必須だ。

積極財政論との接点と乖離

なお、現状の経済状況下で国債利回りが上昇しているにもかかわらず、積極財政や大型減税を訴える経済学者や政党が存在する。彼らは、現在の日本経済を「需要不足による停滞」と捉え、さらなる財政支出による成長促進を主張している。

しかし、利回り上昇は財政の持続可能性に対する市場の警告でもあり、通貨の信用力低下や金融市場の混乱を招くリスクを孕む。外国人労働力政策の持続可能性を考える上でも、こうした財政運営の方向性は慎重に検証されるべきである。

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