自民党総裁選につき、ぼくも『正論』で組閣してみました。

與那覇 潤

10/4に迫る自民党総裁選ですが、今日発売の『正論』11月号の特集は「私が考える “救国” 内閣」。企画が立った際は、石破茂首相の進退は未定だったはずですが、ピッタリの刊行となりました。

月刊正論11月号  ❝救国❞内閣 識者39人が考える! - 月刊正論オンライン
自民党総裁選の投開票日が近づき、世の中では「次の総理・総裁は誰か」が注目されているが、これに合わせ、正論11月号では、トップ特集として識者ら39人の「私が考え…

で、まぁ「炎上しかしないだろうなぁ…」と思いつつ、ぼくも組閣しちゃったんですねぇ(苦笑)。以下、編集部の許可を得て、閣僚名簿はじめ全文を公開します。アゴラへの転載もOKです。

なお、選出するポスト8つは、同誌からの指定です。見出しの命名も。

これより左には行きません

内閣総理大臣…林 芳正
外務大臣…浮島智子(公明党)
財務大臣…小林鷹之
経済産業大臣…南場智子(民間)
農林水産大臣…小泉進次郎
防衛大臣…斎藤 健
内閣官房長官…小渕優子
自民党幹事長…高市早苗

『正論』読者には愉快でないかもしれないが、私は安倍長期政権を可能にしたのは、2015年の一連の「歴史的妥協」だったと思っている。
4月の米国上下両院での演説や、8月の安倍談話での戦争の扱いが穏当な内容で、12月には韓国とも慰安婦問題で合意した。批判者から右傾化と呼ばれても「これより先には行きませんよ」と明示したことが、国民にも海外にも安心感を与えたと思う。

自民党に「結党以来の危機」はなんどもあったが、今回初めて起きたのは、より右から「自民党はリベラル化した!」と非難を浴びせる野党の出現だ。
だったら対策は簡単で、10年前の安倍政権とは逆に、あくまで保守の枠内でのリベラル路線として「これより先には行きませんよ」というリミットを、示せばいい。

経産相にはなにより、男女がともに自由なライフコースを選べる制度設計を願いたい。LGBTなどの多様性政策については特命相を置いて、稲田朋美氏を起用するのもよいかもしれない。防衛相は、戦前の失敗を扱う歴史書を手がけている方を選んだ。

公明党が国交相を「定位置」にしているのは疑問だったので、国境をまたぐ活動から政治家に転じた方を外相に。世界情勢が不穏ないま、宗教間の対話にも尽くしてほしい。
最後は首脳どうしの直接会談で決める時代で、そこはベテランが締めてくれるから心配はない。宏池会系の首相と旧田中派の官房長官なら、難問の多いアジアからも不満は出ない。

小泉純一郎政権下で毎年の靖国参拝が波紋を呼んだ際に、「首相・官房長官・外相はなしで」とのリクエストを、中国の王毅大使(現外相)が寄せたことがある。それに含まれない要職を、率先して保守派の顔に委ねれば、党内融和にもつながろう。

もちろん、その程度のリベラル路線はごまかしで、「真のリベラルではない!」といきり立つ有権者も出るだろう。そうした人は、「保守内リベラル」では実現できないマニフェストを掲げて、堂々と政権交代をめざせばよいだけだ。
おそらくは大敗し、彼らの持論が「極論」にすぎないことが可視化されれば、政治も民意も中庸を取り戻す。

66-7頁
算用数字に改め、強調を追加

補足しますと、民間から(勝手に)経産相に入閣させてしまった南場智子さんは、今年8月に話題になったこちらの発言から。

DeNA創業者・南場智子さん「女性優遇よりも、男性の解放が先」
Xユーザーのaniotakiraraさんが、DeNA創業者の南場智子氏へのインタビュー記事を引用してポストしました。 南場氏は記事の中で「女性優遇よりも男性の解放が先」と指摘し、現在の日本社会では多く

斎藤健さんの歴史書については、以下の記事でご本人が語っています。「スペシャリスト」の独走を批判するにしては、コロナ禍でのセンモンカに甘い点が気になりましたが、21年1月の掲載だしそこは “大人の事情” かなと。

自己改革なきニッポン…『転落の歴史に何を見るか』の著者・齋藤健氏に聞く
【読売新聞】 2021年は新型コロナの感染拡大、緊急事態宣言の再発令から始まった。今年もコロナとの戦いが最大の懸案になることは間違いない。ワクチンの普及から経済の回復、デジタル化やテレワーク、新たな生活様式(ニューノーマル)への「行

外相に(勝手に)推した浮島智子さんは、ご本人のサイトに波乱の来歴があります。「上から」の目線でなく外交を語れる・取り組める人こそ、国際政治が大変な時代に適任ではないでしょうか。

浮島とも子WEBサイト | ストーリー

官房長官の小渕優子さんは、先日お父さんの事績を思い出す機会があったためで、2000年のサミット誘致もそのひとつ。肩書に「沖縄担当相兼務」と入れるべきでした(ので、いま追記します)。

[沖縄と政治 復帰50年]<4>2000年7月 沖縄サミット…小渕氏の遺志 実る
【読売新聞】2000年7月22日夜。沖縄県出身の安室奈美恵の歌声が響き渡る中、那覇市のホテルで開かれた九州・沖縄サミットの歓迎レセプション。米大統領のクリントンやフランス大統領のシラクら首脳の横には、ハンカチで何度も目頭を押さえる小

戦後60年だった2005年の王毅大使の発言は、このリンク先に当時の報道がまとまっていました。日本ではもう「戦後」なんて風化して、存在しないも同然ですが、他の国も同じとは限らないのが、夏にも書いたとおりこの問題の難しさです。

なぜ靖国問題はここまでこじれたのか|與那覇潤の論説Bistro
もうすぐ80年目の「8.15」だが、悼む日を静かに迎えるには、あまりに政治の情勢が不穏だ。歴史を語るコメントを石破茂氏が出すのかも、彼がいつまで首相なのかもわからない。 「やり遂げるべきだ」立民・野田代表が石破首相の戦後80年見解表明を後押し 衆院予算委 立憲民主党の野田佳彦代表は4日の衆院予算委員会で、石...

「安倍長期政権の理由」について、初めて語ったのは、2022年の8月に出した池田信夫さんとの対談本で。まさか、直前に安倍さんが撃たれて亡くなるとは予想もせず、最後のゲラで(他の箇所を)少し直してもいます。

與那覇 ドイツで起きた「社会民主党だから雇用改革ができる」、「緑の党だから脱原発を修正できる」に近い現象は、むしろ安倍政権下で起きたと私は思っています。典型は15年末、韓国の朴槿恵政権との慰安婦問題最終合意。

最右派の「安倍ファン」からは評判が悪かったわけですが、でもタカ派のシンボルである安倍さんだからこそ「いくら『右寄り』と言っても、日本政府として行ける限界はここまでで、その先まで踏み越えることは今後ともありませんよ」と、内外に示せたのではないでしょうか。

64-5頁

しかし、つくづく思うんですが、これ、同じ企画がリベラル派の雑誌で成立するかなと思うと、「うーん……」なのが現状ですよね。可能性はとりあえず措いて、理想論で組閣していいから、ならホントはできるのに。

もちろんできない理由は、「アイツ、誰それ首相がいいって!」「信じられない、裏切り者だ」「今後は寄稿させるな、SNSでもハブれ」「うおおおオープン(略」になるからですが、どうもねぇ。もはや保守派の方がはるかに “寛容” ですな。

Blueskyという「遠吠えメディア」: オープンレターズは ”嘶き” 続ける|與那覇潤の論説Bistro
「オープンレター秘録」はあと3回は続くのだが、新たな回を割くには矮小なネット中傷が行われたので、以下と同じく単発で手短かに。 BlueskyというSNSがある。イーロン・マスクが買収してXに変わって以来、「Twitterの居心地が悪い」と感じる人の引っ越し先のひとつだ(他にはMastodonとThreads)。とは...

トランプ再選に貢献した右派系オーガナイザーの射殺事件では、米国民主党左派のサンダースが優れた声明を出し、称賛されています。一方で日本のリベラルは安倍暗殺の後、延々半年間も「トトーッ、ト・ト・ト・統一教会! 撃たれた奴にも悪い点があるんだ!」でしたからねぇ。

……なんていうかもう、彼らが支持する政権は「作らない」ことが、日本では政治的な自由を守る道ですな。つまり、リベラル派が支持しない範囲で “リベラル” な政権を作るのがベストという、ヘンな国になってしまった。

チャーリー・カーク暗殺事件で、左派バーニー・サンダースの声明が素晴らしい|柿生隠者(かきお・いんじゃ)
チャーリー・カーク氏の暗殺事件は、それ自体が痛ましいけれど、日本人にとってつらいのは、3年前の安倍晋三氏暗殺事件を、いろいろ思い出させるところだろうと思います。 以下、SNSで私が共感ないし興味を覚えた投稿を記録し、米上院議員バーニー・サンダースの声明全文を翻訳しておきます。チャーリー・カークとは政治的に正反対で、ト...

実は同じ11月号の『正論』、そうなった理由を探る長編論考も別途寄稿しているんですが、そちらはまた後日にて。他の方の組閣例も含めて、書店でこの特集、楽しんでもらえるなら幸いです!

参考記事:

カウンター・オープンレターの時代へ: 米国 "極右暗殺" が問うもの|與那覇潤の論説Bistro
9/10にトランプ支持の活動家であるチャーリー・カーク氏が射殺されて以来、ネットで論争めいた口論がかまびすしい。ただ、あまりに粗雑な物言いばかり目立つので、情報を整理してみる。 まず、カーク氏は単なるネトウヨではない。設立したTurning Point USAは、反体制に傾きがちな学生層をトランプ支持に切り替えたとさ...
他人を不快にさせることではなく、対話なく不快さを排除しようとすることが「悪」である
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ふたたびの「真空総理」が、分断の時代を救うのかもしれない。|與那覇潤の論説Bistro
歴史の流れを正しく見通すのは、難しい。 いま「二大政党制」がなぜ振るわないか、という記事を先月書いたが、若い人はそんなのそもそもあったんすか? と感じただろう。長い安倍晋三時代(2012-20)のあいだ、自民党に対抗できる規模の野党など、想像もできなかったからだ。 だけど平成のなかばまでは、「日本の二大政党化」こそ...

(ヘッダーは日本経済新聞より)


編集部より:この記事は與那覇潤氏のnote 2025年10月1日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は與那覇潤氏のnoteをご覧ください。