
日米首脳会談が今月19日に開かれます。総選挙での自民圧勝、4月のトランプ大統領の訪中に備えた事前調整の必要性などから日程が決まったのでしょう。それが米国が先制したイラン戦争、中東動乱という最悪のタイミングに暗転し、日本の立ち位置の見極めが難しい局面を迎えました。
昨年12月末にトランプ大統領とネタニヤフ・イスラエル首相との会談が行われ、極秘にイラン攻撃計画を決めたようです。高市首相が1月2日にトランプ大統領と電話協議し、首脳会談の開催を決めました。日本側はイラン攻撃が迫っているという情報、感触は得なかったと思われます。
日本側は1月23日に解散、2月8日の投開票で高市首相が自民単独で3分の2の議席を得るという歴史的な圧勝になりました。意気揚々と訪米する段取りだったのでしょう。日本の選挙戦の裏では米・イスラエルのイラン攻撃の準備が着々と進められていました。
総選挙の裏側ではイラン攻撃の準備進む
1月30日に空母エイブラハム・リンカーンの配備発表、さらにイランとの核協議が難航し、2月12日に空母ジェラルド・フォードの追加派遣、28日にイランに対する米イスラエルの共同攻撃、最高指導者ハメネイ師の殺害となり、その後、トランプ氏が望むイランの体制転換は無理、戦争の長期化へという流れになっています。
トランプ氏も焦っている。早期に戦果を挙げるはずが「4、5週間かかる」、「どれだけ時間がかかっても」、「地上軍の派遣も排除しない」と、ずるずると後退しています。ホルムズ海峡封鎖で原油も1バレル=100ドルの予想もあり、インフレさらにその先にあるスタグフレーション予想もあり、「こんなはずではなかった」とトランプ氏は思っているに違いない。中間選挙対策でもあったイラン攻撃が裏目に出る可能性が高まっていくでしょう。
そのような状況下で開かれる日米首脳会談の仕切り方は困難さを増しているに違いない。「総選挙の断行→圧勝→意気揚々と訪米→首脳会談で日米同盟の再確認→対中に備えた戦略」という流れを想定していた高市首相も「こんなはずではなかった」と思っていないとは考えられません。
安保は米国、石油は中東というジレンマ
日本は「安全保障=対米依存」、「エネルギーは中東依存」、「貿易は中国依存」という3つの異なるベクトルをどう調整するのか。
日米首脳会談では「米国のイラン攻撃に対する共感の表明」は避けて通れない。「イランの核兵器開発に対するけん制」を求められるでしょう。首相官邸幹部が「日本も核兵器を保有すべきだ」とオフレコで発言し、高市首相が恐らく後ろで糸を引いていたとされています。「イランの核開発→反対」、「日本の核開発・所有→推進」という二律背反をどう調整するか。しばらくは「日本の核所有」議論は先送りでしょう。高市氏の誤算です。
相殺関税でディールし、約束させた対米投資80億ドルの促進にしても、米最高裁で違憲判決が下されている側面をどう織り込むか。「違憲」の高関税を振りかざして約束させた対米投資はどうなるのか。トランプ氏の政治生命も「イラン攻撃の難航→中間選挙敗北→トランプ氏の弱体化」という流れの予想もしばしば聞かれ、トランプ氏に対するのめり込みは危うい。
「恥をかかせるな」の高市発言の軽率さ
日米交渉を担当している赤沢経産相に対し、高市首相は国会で「『私に恥をかかせるな』といったよね、というふうに申し渡しました」と、高飛車な言い方までしました。赤沢氏のカウンターパートはラトニック商務長官でエプスタイン文書問題の騒ぎに巻き込まれています。「恥をかかせるな」発言の軽率さを自戒していなければおかしい。
どこまで「日米同盟、トランプ支持」に回りつつ、「イランとの関係の悪化・エネルギー確保」を両立させるかです。強いメッセージの発信、国内向けの情報発信を身上とする高市氏にとっては綱渡りでしょう。
強気一本槍の高市スタイルで高い支持率を維持してきた首相にとって試練の時です。「国際情勢の判断」、「国内政治、国内政局」、「外交のタイミング・進め方」のバランスをとることの難しさを感じていなければおかしい。これからは「曖昧戦略」に転換しなければならないかもしれません。それが支持率の低下を招かないか、高市氏は苦境を迎えます。
編集部より:この記事は中村仁氏のnote(2026年3月6日の記事)を転載させていただきました。オリジナルをお読みになりたい方は中村仁氏のnoteをご覧ください。







コメント
> 日米首脳会談が今月19日に開かれます。総選挙での自民圧勝、4月のトランプ大統領の訪中に備えた事前調整の必要性などから日程が決まったのでしょう。それが米国が先制したイラン戦争、中東動乱という最悪のタイミングに暗転し、日本の立ち位置の見極めが難しい局面を迎えました。
現在がいろいろと難しい時期であることは否定できませんが、だからこそ、この時点での日米会談の重要性が増している、とも言えます。
まず最初に確認しておかなければいけないことは、日本の置かれた立場であり、この大原則は、トランプ氏にもきちんと認識しておいていただかなくてはいけません。その第一は、我が国は平和憲法のもとにあり、取りうる軍事行動は限られているということ、存立危機事態という考え方はあるけれど、これは極めて限定的に解釈すべきであって、紛争地域への積極的な軍事介入はしないことが大原則。あくまで自衛の範囲から逸脱することはできないということですね。
第二に、我が国にとって最重要課題は、周辺海域の安全性を保たなければいけないということ。イランでの軍事作戦進行による中国経済への打撃は、中国の軍事行為にブレーキを掛けるかもしれないけれど、一方でイランにおける米国の軍事作戦展開は、中国にとって台湾進攻のチャンスでもある。台湾問題は、依然、危機的状況にあることを認識しておかなくてはいけません。これに関しては、トランプ氏にも共通の認識をしていただいて、くれぐれも東アジアにおける米軍のプレゼンス低下のなきよう、ご配慮いただきたいところです。
第三に、我が国の特異性を認識すること。我が国は、米国の同盟国である一方で、イランとも対話しやすい関係にある。最後の段階、平和交渉に至った際の仲介役となりうる可能性があるのですね。ここで対米べったりとなりますと、この可能性をつぶしてしまう。米国との同盟関係は大切にする一方で、将来成立すると期待されるイラン新政権との関係を悪化させることも避ける。このためにも、今回のイラン軍事作戦からは、一歩退いた形を保つということを、トランプ氏にも納得していただきたいところです。
こういった話は内々の了解にとどめ、日本としては、イランの住民への大量殺戮に抗議し、米国の活動に一定の理解を示すなどの表現にとどめるべきでしょう。あとは、80兆円の対米投資の第二弾あたりをまとめて、日米の友好関係を対外的にアピールできれば、今回の交渉は大成功となるのではないかと思います。あ、15%の関税を負けてもらえれば、国内的にも顔が立ちます。こちらはどうなりますか、あまり楽観はできないのですが。