宗教戦争の様相を呈するアメリカ・イスラエルのイラン攻撃

アメリカとイスラエルが仕掛けたイランとの戦争は、熾烈な長期消耗戦に向かっている。最高指導者ハメネイ師殺害作戦を、私は「技術に溺れた賭け」と評した。現時点では、アメリカとイスラエルは極度に楽観的な見込みで行った「賭け(gamble)」に負けている。

戦略的目標を定められないアメリカは、念願のアメリカとの共同作戦に高揚するイスラエルに引きずられ、イランを消滅させる意気込みであるかのような全面戦争に陥ろうとしている。

トランプ大統領 ホワイトハウスXより

イランは、最高指導者が暗殺されたことによって、最高レベルの軍事作戦に入っている。長期消耗戦を辞さない、という態度だ。イランは防空能力を欠いている。だが、それを見越した地中に隠してある弾薬と移動式発射装置で、柔軟に設定できる任意の地下からミサイル攻撃を行うことができる。しかも大量の安価なドローンを駆使しながらだ。

発射台を破壊し尽くせなければ、先に弾薬を消耗しきって苦しくなるのは、イスラエルとアメリカだ。トランプ大統領は、イラク国内のクルド勢力にイラン攻撃を要請したり、イランへの地上軍の派遣を辞さないことをほのめかしたりと、策がないところを見せている。周辺国・勢力の中に、アメリカのためにイランと戦おうという具体的な動きはなく、また厳しい地形の広大な領土を60万の兵力で守るイラクに対する地上軍の派遣は自殺的な行為だ。つまり自国の能力範囲内で計算できる作戦を遂行できる見込みがないことを、トランプ大統領は露呈し続けている。

そんな中、異様な光景が出回った。ホワイトハウスの執務室で、トランプ大統領が全米から集まった牧師たちと、目を閉じて祈りをささげているシーンだ。

トランプ大統領の横に立って、左手をあげながら、大統領に右手を置いている女性は、ホワイトハウス信仰担当部署のシニア・アドバイザーのポーラ・ホワイト氏と思われる。

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テレビ伝道師で、日本から見るとカルトとしか思えないスタイルが特徴的な人物だ。

トランプ大統領が宗教に敬虔な人物に見えないため、日本人は宗教の政治に対する影響を過小評価しがちだろう。だが、日本人の感覚では、米国の宗教者が宗教に敬虔な人物に見えないくらいなので、偏見は禁物だ。

トランプ政権のイラク攻撃を擁護して、マイク・ジョンソン下院議長は、イラン人は「誤った宗教」を持っている、と発言した。また、リンジー・グラハム上院予算委員長は、「これは宗教戦争であり、我々は中東の千年先の行方を決定するだろう」と述べた。いずれも共和党保守タカ派の政治家たちの発言だが、アメリカでは保守層の思想の中に、「明白な運命」論の伝統がある。領土拡張やネイティブ・インディアンの殲滅などは、「神の恩寵」にしたがった「明白な運命」として正当化される、という思想だ。

もともとイスラエルは、イランをせん滅することに宗教的な意義を感じているだろう。単独ではなしえないとも思っていたはずだが、アメリカと共同軍事作戦を遂行できる今は、大きな機会だ、と感じているはずだ。

そのイスラエルに引きずり込まれたアメリカは、目標なき軍事作戦を、「宗教戦争」の思想で正当化しようとしている。合理性の欠如が、宗教的な意義に置き換えられる。

言うまでもなく、このような態度は、イラン人のみならず、全世界のイスラムの人々の反米意識を燃えたぎらせる。イランをせん滅するための爆撃を遂行しながら、ホワイトハウスでキリスト教牧師を集めて勝利を目指す祈りを行うアメリカの大統領の姿は、イスラム圏の人々に対する挑発行為だと言える。

ユダヤ・キリスト教とイスラム教の宗教戦争に置き換えられた戦争は、容易には収束しない。恐ろしい事態になり始めている。

この事態を見ながら、多くの日本人が非常に楽観的な態度を取り続けているのは、驚くべきことだ。日本とイランは親しい関係を続けていた。しかし、高市政権は、アメリカ・イスラエルは非難せず、イランだけを非難する、対米追従主義の姿勢を鮮明にしている。恐るべき宗教戦争に対して、火遊びをしている自覚があるのか、懸念される。

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