筆者はこれまで、Claude Codeセミナーをはじめ、ネット上で目に入ったAI関連セミナーにいくつか参加してきた。率直に言って、役に立つと感じたものは1つもなかった。内容が薄い、既知の情報の焼き直し、あるいは有料講座への誘導が主目的で中身がない——そうしたセミナーばかりを見てきた。
今回もまた、たまたま目に入ったAIセミナーとして参加したものである。

セミナー概要・講師プロフィール
令和8年4月11日(土)20時〜21時半、オンライン・無料開催。正式タイトルは「頭の中のモヤモヤを伝わる”カタチ”に変える NotebookLM超入門セミナー」。
Google NotebookLMの基本操作と活用法を紹介する約90分のセミナーで、参加者はAI初心者を中心とした女性起業家・講師業の方が多く、過半数がノートブックLMに初めて触れるという状況での開催であった。
講師の三村佳代氏は、大阪大学地域文化学科中国語専攻出身。在学中に中国の浙江大学への留学経験を持ち、英語・中国語が堪能。卒業後は大手銀行に約12年半勤務し、中国支店への駐在経験もある。

旧帝大卒・トリリンガル・大手銀行での長期実務という、AI講師としては異色かつ高い基礎力を持った人物である。
テーマ選定——的確
ノートブックLMは、ChatGPTやジェミニと比べて知名度が低い一方、「資料を入れてボタンを押すだけ」という操作の簡潔さは、プロンプトを書くのが苦手な初心者にとって最も入りやすいAIツールの一つである。参加者の過半数が「初めて触る」と回答していたことからも、このテーマの市場ニーズは確かに存在する。2026年4月にジェミニと統合されたばかりという時事性もあり、タイミングとしても良い。
本セミナー最大の強みは、講師のしゃべりの力にある。声の通りが良く、話の運び方にリズムがある。「すごくない、これ?」「ね、すごいでしょ」といった合いの手を自分で入れながら、参加者の感情を引っ張っていく話術は、書き起こしの文字を読むだけでも勢いが伝わってくるほどで、ライブでの没入感はかなり高かったはずである。大手銀行で12年以上、対面で顧客対応をしてきた経験が土台にあることは間違いない。
参加者のチャットコメントを即座に名前付きで拾い、反応を返す速度も際立っている。チャットの発言を名前付きで拾い、「こんなものできるんですね」「素敵ですね」「いい質問ですね」と即座に返す。これは参加者に「自分も見てもらえている」という安心感を与えると同時に、他の参加者の発言を促す効果もある。オンラインセミナーでこれを自然にできる講師は意外と少なく、差別化要因になっている。
実体験から出たティップスも随所に効いている。「可愛いと書かないとリアルなシマリスが出る」「アメリカ人が分かる動物は成功率が高い。シマエナガは通じない」「修正は全部まとめてから押さないと時間がかかる」「ファイルよりテキスト入力の方が反応が早い」など、自分で何度も使った人にしか出てこない情報である。これは書籍やマニュアルからは得にくい生きた知見であり、ライブセミナーならではの価値として機能している。
また、ノートブックLM単体の説明にとどまらず、Canvaを英語版に切り替えて要素を分解編集する方法や、Googleドライブのドキュメントスキャンで本を取り込む方法など、周辺ツールとの組み合わせを「裏技」として差し込むセンスもうまい。参加者にとっては「このセミナーに出たから知れた」という得した感覚につながるし、講師の実務経験の厚みが自然に伝わる構成になっている。
構成の課題
セミナーの大部分はデモの実演で構成されているが、「なぜノートブックLMなのか」「他のAIとどう使い分けるのか」という思考の枠組みが提示されていない。冒頭の4ツール擬人化比較はキャッチーだが、印象論の域を出ない。参加者がセミナー後に自分で判断できるようにはなっていない。
デモの素材選びも問題がある。オムライスのレシピ、占いのホロスコープ。視覚的なインパクトはあるが、参加者の実務とは無関係である。講師自身がZoom要約のインフォグラフィック化という実務的な活用法を口頭で触れているのに、それをデモで見せない。見せるべきものと見せているものが逆転している。
操作ミスや待ち時間も多い。「間違えた、消しちゃった」「ぐるぐる回ってます」「待ってね」が繰り返される。事前に生成済みの完成品を用意しておけば、同じ90分でもう2つ3つ多くの内容を届けられたはずである。
有料講座(19,800円・定員20名)への導線設計自体は問題ないが、無料セミナーの中で参加者が「1つだけ自分の素材で作ってみる」体験があれば、「自分でやったらうまくいかない」という実感が生まれ、有料講座への転換率はさらに高まったはずである。今のままでは「すごい」で終わり、自分ごとにならない。
また、阪大で中国語を専攻し、浙江大学に留学し、大手銀行の中国支店で12年以上働いた。この経歴がセミナーの中で一切活かされていないのは、率直に言ってもったいない。英語のYouTubeを日本語スライドに変換する、中国語のビジネス文書をインフォグラフィック化する——こうしたデモは他の講師には逆立ちしてもできない。1つ入れるだけで、講師の格と信頼感が一変するのではないか。
この講師の経歴であれば、ターゲットも現在のAI初心者層だけでなく、海外取引のある中小企業やインバウンド事業者など、より高単価な市場を狙える。19,800円の講座は、この講師のスペックに対して廉価と言えるだろう。
総括
話術、反応速度、実体験のティップス、裏技の出し方なども高い水準にある。旧帝大卒・トリリンガル・大手銀行12年というスペックを持ちながら、参加者と同じ目線で進められる親しみやすさも武器である。テーマ選定も的確で、タイミングも良かった。
だが、今のままでは「すごい」「可愛い」で90分が終わる。構成を練り、デモ素材を実務に寄せ、自身の経歴という最大の差別化要因を投入すれば、このしゃべりの力で、まったく別次元のセミナーが成立する。
いま、AI系セミナーは完全な飽和状態にある。玉石混交どころか、石が圧倒的に多い。ツールの画面を映して「すごいですよね」と繰り返すだけの90分、プロンプトのコピペを教えて終わる講座、受講者が何を持ち帰ればいいのかわからないまま拍手で閉じるセッション——そんなセミナーが量産され、時間と金を奪い続けている。
本来、この状況にこそ警鐘を鳴らし、「まともなセミナーとはこういうものだ」と示せる講師が必要なのだ。
その役割を担えるポテンシャルが、この講師にはある。実務経験に裏打ちされた語りの厚み、場の空気を瞬時に読む反応力、そして何より、聞き手を置き去りにしない人間的な引力。これらは教えて身につくものではない。足りないのは設計だけだ。
粗悪なセミナーを撲滅する側に回ってほしい。低質な市場に埋もれるには、あまりにもったいない素材である。これまで数多くのAIセミナーを受講してきたが、「この講師はもっと上に行ける」と実感したのは、今回が初めてだった。
(講評者:尾藤克之/コラムニスト・著述家)
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