自衛隊歌姫の国歌歌唱問題どころでない経済・社会生活の危機がやってくる

中村 仁

現役の自衛官が自民党の党大会で国歌を歌唱したことの自衛隊法違反問題を巡り、官邸や防衛省は防戦に回り、野党やメディアも政府追及に執心しています。「民間の企画会社のアイデア」というのは嘘で、高市首相の個人的、独断的な発案でしょう。

自民党大会に参加した高市早苗首相、2026年4月12日、自民党公式サイトから

イラン戦争の最中、ホルムズ海峡封鎖による世界経済危機の拡大が必至のタイミングで、物議を醸すことが必至の「自衛官の国歌斉唱」とは、論評にも値しない。政治が取り組むべき問題はそんなところにはありません。

イラン戦争、石油関連施設の爆撃、ホルムズ海峡封鎖から波及する経済、社会生活への深刻な影響は1970年代のオイルショック並みか、それ以上の深刻な危機に拡大する恐れがあるように私は思います。

日本だけが原油確保しても始まらない

高市首相は「石油備蓄は昨年末現在で官民合わせ254日分あり、米アラスカ原油輸入などで年明けまで石油は確保できた」とか「ナフサ(粗製ガソリン)も中東以外からの輸入を増やしているので、心配ない」などと語っています。石油由来の各種製品、部品のサプライチェーンは国際化、多様化しており、日本国内だけの石油、ナフサを確保したところで問題が少しも解決しないこと思いが至らない。

TOTO、LIXILがユニットバスの新規受注を停止し、その後、段階的に再開する準備を始めるとは発表しています。ユニットバスひとつとっても、中国、タイ、フィリピンなど東南アジア諸国から部品を輸入して組み立てているはずです。東南アジア諸国の石油不足は深刻で、工場が稼働できるかも分からない。部品が来なければ、完成品を作れず、ユニットバスが不足すると、新築の家、マンション、リフォームも完成しないことになります。

サプライチェーンの多様化は、平時には効率、コストの面でよくても、戦時、異常事態の際は、現在の社会経済の致命傷になりかねない。

先日、建築・不動産業の人と話していたら、「住宅を建設していたところ、ホルムズ危機が長期化するにつれ、資材、部品の入手できなくなり、工事がストップしている」といっていました。ひとつの部品を手当てできなくなるだけで、住宅全体が完成しなくなる。

サプライチェーンの国際化が危機を深刻化を招く

ホルムズ海峡の封鎖が終わっても、イランや湾岸諸国の石油関連施設の爆撃、破壊が大規模で、修復するのに、数か月から年単位の期間、石油、ナフサ、天然ガスの供給が細る。生産工場の国際的分散化で一国、一地域、一箇所の工場に不都合が生じただけで、全体の設計が狂う。

トランプ米大統領は「米国は石油を自給できるから心配ない」といっています。そうでしょうか。「原油の国際相場が上がれば、米国産のガソリン価格もスライドして上がる」、「エネルギーを自給できても、各種の消費財、工業製品、製造業の部品の輸入に支障がでる」という流れです。米国は製造業の衰退を招き、輸入に頼っているのに、「石油を自給できる」は少しも問題の解決になりません。

トランプ氏に自作自演の勝利宣言を勧める

とにかく、トランプ大統領は自作自演の「勝利宣言」でもして、メンツを保ち、停戦に踏み切り、中東から米軍が撤退すればイランはホルムズ海峡の封鎖を解く。イランもイランで「勝利宣言」をする。

トランプ大統領はイラン戦争の長期化、消耗戦の長期化は米国に深刻な打撃を与え、中間選挙での敗北が必至であることを自覚するに至っていると想像します。「イランを石器時代に戻す」ことができなかったことは、米国の敗北であっても、「殺せた人数ははるかに米国が優っている」とかいう妄言を吐く。それで停戦してくれれば、結構なのです。

イランは結局、核開発を断念しないでしょう。断念すれば、ウクライナがロシアの進攻を許したように、いつかはイスラエル、米国の軍事攻撃を許すことは分かってる。「ウラン濃縮を当面、停止する」とか言って、約束を守らない。あり得る展開です。

建国250年を記念して、首都ワシントンのアーリントン国立墓地近くに「凱旋門」を建設する計画を発表してます。凱旋門は軍事的勝利を讃えるためのものです。「高さ250フィート」という子どもじみた話です。

凱旋門は米国覇権の転換点の象徴となる

米国は世界覇権から下り坂に差し掛かっており、「凱旋門」は歴史的にみると、「凱旋」ではなく、「世界覇権」の転換点としての象徴になるかもしれません。キリスト教徒が多く、カトリック票の6割の支持(24年大統領選)に得たのに、ローマ教皇に喧嘩を売る。正気の沙汰ではなく、カトリックの司教から「全くもって不適切、無礼。大統領は教皇に謝罪すべきだ」と批判されています。もう世界は数々の妄言に驚いている暇なありません。

高市首相はどこまで、事態の深刻さを理解しているのでしょうか。自民党党大会の入り口に、首相が自身がドラムセットの前に座る等身大のパネルを置きました。こうしたパフォーマンスことに気が回る。

国のトップが考えることは世界情勢を見据えた国家戦略でしょう。米国に対する過剰な依存を修正するどころか、トランプ大統領に抱きつく。各国は対米過剰依存のリスクを感じ取っています。

5月の米中会談で、米中G2体制の時代に移ることを確認するでしょう。台湾問題にも米国は深入りしない。台湾有事、日本有事にも米国は距離を置く時代に入るでしょう。このような時代の転換点で、高市政権が対中強硬路線に深入りすることは大きなリスクを抱えることになる。

ドラムを叩いたり、自衛官に国歌斉唱を頼んだりすることより、イラン戦争の停戦(米国の失敗)、米国の覇権の転換、米中G2時代への移行を受けて、日本がどのような立ち位置を取るかを考えることこそが重要なのです。


編集部より:この記事は中村仁氏のnote(2026年4月17日の記事)を転載させていただきました。オリジナルをお読みになりたい方は中村仁氏のnoteをご覧ください。

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