1週間前にメンバーが発表されていた安保3文書の年内改訂に向けた有識者会議「総合的な国力から安全保障を考える有識者会議」初会合が、4月27日に開催された。

高市首相は、「我が国の平和と独立を守り抜いていく為には、防衛力の抜本的強化を引き続き主体的に進めるとともに、外交力と防衛力を、経済力、技術力、情報力、人材力と有機的に連携させ、『日本の総合的な国力』を徹底的に強くしていかなくてはなりません」と強い意気込みを示している。この「有識者会議」をへて安保3文書を改訂することが、タカ派路線で安全保障政策を刷新することを重視する高市政権にとって、大きな意味を持っていることがうかがえる。
メンバーの発言は非公開だということだが、議題は資料化されてウェブサイト上にあがっている。
実質内容は、内閣官房国家安全保障局(NSC)提出資料「我が国を取り巻く安全保障環境の変化と『総合的な国力』の重要性」(以下「NSC資料))から垣間見ることができる。霞が関特有のPDF形式のスライド一枚一枚に情報が詰め込まれている14スライドからなる資料だ。

国際秩序が流動化して安全保障環境が厳しくなったため、「経済力・技術力・外交力・防衛力・情報力・人材力」の「6つの要素を有機的に連携させたものとする必要」があるという認識から、「NSC資料」は議論を始める。この「6つの要素の有機的な連携」は、具体的には「経済安保の重要性の増大、サイバー攻撃や認知戦の対応、AIの飛躍的な進歩等」を意味するのだという。
そしてまず指摘されるのが、中国の脅威だ。中国は経済の低迷と少子化に苦しみながらも、「総合国力と国際的影響力の強化」に努めていると指摘される。そこで「中国の軍事力強化と活動の拡大・活発化」が、「一方的な活動のエスカレーション」を引き起こしながら、進んでいる。特に海上・航空・ミサイル戦力の増強が活発だ、と指摘される。
加えて、「NSC資料」は、ロシアは極東でも軍事強化を進めていると述べつつ、「中露の軍事連携が強化」されている点を特筆する。さらに北朝鮮が、中国とロシアとの連携を深めながら、「核・ミサイル開発を継続」させつつ、通常兵力の増強も行い、さらには「悪意あるサイバー関連活動」も展開していると指摘する。特にロシアとの連携を通じて、北朝鮮の軍事力は急速な「底上げ」がなされていると述べられる。
次に提示される「ウクライナの教訓」と題された項目では、「新しい戦い方、非対称な戦い方、長期戦への備えとしての継戦能力の確保」の必要性が強調される。
そこで実際に安保3文書改訂で目指される具体的な項目と思われる重要領域が、三つ示される。第一が、「経済安全保障の重要性」である。注目すべきことに、この「経済安全保障」の項目で強調されるのは、希少資源の確保などの具体的な論点ではない。むしろ「国家安全保障の前提として、国民の理解、国民生活・産業活動の維持の重要性」が強調される。「経済安全保障」の冒頭で、「国民の理解」が強調されるのは、なぜだろうか。
高市首相が、首相に就任する前の2023年1月に『文芸春秋』に寄稿した論考に「経済安全保障に国民の理解を」と題されたものがある。どうやら、安全保障の必要性の観点から、経済活動を特殊なやり方で運営していかなければならない場面があるので、それについて反発をしないでほしい、という要請が、「国民の理解」の論点であるらしい。今回の「NSC資料」の趣旨でも、「長期戦への備えとしての継戦能力の確保」などの措置を取る際に、経済活動に安全保障の観点からの介入を行うこともありうるので、それについて「国民の理解」が与えられるように、平素から準備をしておく必要がある、ということのようだ。
第二が、「サイバー攻撃の巧妙化・深刻化」である。ここで「国家背景とみられるサイバー攻撃」を行った主体の実例として、ロシア、中国、北朝鮮が、名指しで参照されている。

第三が、「影響工作・認知戦」だ。「生成AI等の新技術、ウクライナの教訓、SNS上での外国からの影響工作と思われる偽情報の流布や事実に基づかない言説の流布等を踏まえれば、影響工作・認知戦は安全保障上の課題」だという認識から、「平素の段階から外国からの影響工作に強靱な情報空間を創出する必要があり、政府横断的な対応が必要」だという主張が導き出される。ここでもロシアが名指しで「認知戦」を行っている国家主体として参照されている。

このように「NSC文書」は、「厳しい安全保障環境」の認識では、ミサイルの問題等を特筆する。その一方で、今回の安保3文書改訂にあたって具体的な議題となりそうな領域として特筆するのは、経済安全保障、サイバー攻撃対策、影響工作・認知戦対策、という非伝統的な安全保障分野の事項である。
すでに私が4月22日の記事で述べたように、この方向性を予期させるのが、「有識者会議」のメンバーの構成であった。関係省庁のトップを務めた経験のある重鎮の元高級官僚や防衛関連企業のトップに、大手メディアのトップと発信力のある大学教員が加わった布陣は、経済安全保障、サイバー攻撃対策、そして影響工作・認知戦対策を強化する路線を、強く意識したものであったと言える。

「有識者会議」の面々 首相官邸HPより
なお「有識者会議」座長には、順当に、元外務次官・駐米大使の佐々江賢一郎氏が就任することとなった。現在、内閣官房の国家安全保障局長は、元北米局長の市川恵一氏である。外務省「対米派」が屋台骨となり、防衛省系のメンバーと、対外関係系のメンバーが、中国・ロシア・北朝鮮を仮想敵として、、経済安全保障、サイバー攻撃対策、そして影響工作・認知戦対策に力点を置いて、安保3文書を改訂していく、ということになりそうである。
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