フランス革命とは結局なんだったのか

コロナ禍の最中に出した本で、歴史教育について

朝日新聞出版 最新刊行物:新書:歴史なき時代に
第二次世界大戦、大震災と原発、コロナ禍、日本はなぜいつも「こう」なのか。「正しい歴史感覚」を身に付けるには。教養としての歴史が社会から消えつつある今、私たちはど...

大学でやり残したことはほぼないのですが、唯一の例外は、ゼミ生とボードゲームができなかったことかな。
(中 略)
アクティヴラーニングが目指すのは、ボトムアップの学習だったはずでしょう。たとえばボードゲームをプレイする体験を通じて、教師の指導に従うというより、参加者それぞれの内側に自ずと驚きや省察が生まれて、これまでとは違った感じ方をするようになる。

117・120頁
(強調を付与)

と、ぼくは書いている。いまゲームを選ぶときも、歴史がモチーフだとつい食指が動く。

実際に後に刊行したボードゲームの本でも、辻田真佐憲さんと第二次世界大戦、安田峰俊さんと宋朝中国の競争社会を再現する作品をプレイして、紹介するエッセイを寄せてもらった。どちらも、お気に入りの名作だ。

主計将校:第二次世界大戦の補給戦
もくじ ・『主計将校:第二次世界大戦の補給戦』の簡単な説明 ・こんな感じのゲームです ・感想など 『主計将校:第二次世界大戦の補給戦』の簡単な説明 2~6人用。プレイ時間90分~。この記事を書いている時点のBGGでは6人プレイがベストとなっ...
ドラゴンイヤー / In the Year of the Dragon|NEZ@勝利点の高そうな獅子舞
デザイナー:Stefan Feld アートワーク:Harald Lieske,Michael Menzel 出版社:alea,Ravensburger プレイ時間:75~100分 プレイ人数:2~5人 参照:Boardgame Geek ■...

そもそも歴史には、相対的に伝わりやすい側面と、そうでない(がもっと重要な)側面がある。ゲームのような “体験” を通じてだと、歴史書を読む以上にそのことが、実感として味わいやすい。

たとえば国力とは「領土を広げる」ことであり、大きな国ほど強え! みたいな発想は、直感的にすぐわかる。だから多くの歴史ロマンがそれに則って書かれるし、ゲームの仕組みにも乗せやすい。

専門用語では、そうしたゲームを「陣取り」と呼ぶ(上記の『主計将校』も、広義にはそのひとつ)のだが、なじみのない人でもすっと入れる作品にこのタイプが多いことは、同書で

ボードゲームで社会が変わる :與那覇 潤,小野 卓也|河出書房新社
ボードゲームで社会が変わる 今流行するボードゲームこそが、属性や能力主義による社会の分断を乗り越える「共存の哲学」である? 気鋭の評論家が各分野の専門家を招き対戦しつつ、普及活動のパイオニアと共に考える。

具象性のある「空間」を自分の領有物にする行為は、それ自体が人間の身体感覚に訴えるものがある分、説明なしでも意味を理解しやすいのだろう。
(中 略)
動物どうしの縄張り争いにも近い、生物学的な本能の次元でドーパミンが出るのかもしれない。

186頁

という風に、触れたりした。

が、「国をデカくするのが偉い!」だけで歴史を教えるのは、戦前の日本やいまのロシアみたくなってしまうので、好ましくない。むしろ歴史のうち表現しにくい側面を再現する作品が、そんな事態へのワクチンになる。

ぼくたちの歴史は、敗戦後に注射された「ワクチン」である。|與那覇潤の論説Bistro
ぼくにとって、今年は「戦後批評の正嫡」になった1年だったけど、おかげでとても嬉しい與那覇潤論にもめぐり逢えた。まぁ、ふつうに考えてすごいニッチなテーマだよね(笑)。 もっともこれは一種の便乗で、正しくは佐々木大樹さんという方が福嶋亮大さんの...

これを実感させてくれる、優れた歴史ゲームがある。ふだんはウォーゲーム(スターリングラードの攻防、とかね)を提供する雑誌「ゲームジャーナル」が、めずらしいテーマを採り上げた『フランス革命1789』だ。

わずか8マス(都市)だが、簡易なフランス全土のマップを設けて「陣取り」の要素もある。だがこのゲームの主題は、なんと①絶対王政から⑥共産主義までの政体をめぐる「体制選択」なのだ。他では、まず見ない。

面白いことに、各プレイヤーは「ナポレオン」のような、歴史上の偉人にはならない。彼らの裏にいるパトロンとして、影響力を行使したい人物を競り落とすのだ。お金や人脈を投じて、派閥に取り込むイメージである。

時代順にそった5つのラウンドの、冒頭ごとにそうした「競り」がある。強いカードに絞って落とすか、枚数を多く入手し手番を増やすか、むしろゲーム中も利用する影響力ポイントを温存するか。戦略の分かれ目だ。

さらに、たとえば「ルイ16世」を持っていると、ラウンドの終了時に政体が①絶対王政だった場合、勝利点が入る。なのでだんだん、コイツ、あの体制を狙ってるな…という目論見が、プレイヤーどうしの間で見えてくる。

つまりフランス革命を描くと言っても、歴史は “進歩” するんじゃなくて、「誰と組んでる(=カードを持ってる)から、俺はこの体制がお得」という欲得づくで左右されるのだ。このリアリティが、なんとも鮮烈である。

プレイ終了時の盤面
ボルドーを王党軍、南仏3都市は干渉軍が占領
中央の4名がギロチンに送られた

さらには “進歩” が、いいこととも限らない。政体が③共和制になっていると、他人のカードを「逮捕」や「処刑」するアクションが可能で、避けるには「亡命」しか手段がない。

亡命した人物カードは(帰国しないかぎり)、海外勢力をフランスのマップに侵攻させることで、得点を稼ぐしかなくなる。リアル売国奴だが、本人としては望む政体を、祖国に樹立したいのだ。

ぼくらのプレイでは順当に③共和制には進んだものの、ルイ16世を擁し王政復古を望むプレイヤーが、「カトリノー」を操りカトリック王党軍の反乱を続発させ、一時は国土の半分を占拠した。

ヴァンデの反乱 - Wikipedia

一方でみんな歴史を知ってるので(苦笑)、警戒されたのはナポレオンだ。政体が⑤帝政になった場合、ナポレオンの保有者が大量得点をひとり占めするため、登場した途端に即時逮捕・処刑された。哀れすぎる(涙)。

運命の最終ラウンド、獲得済みの勝利点で劣るぼくは「バブーフ」を競り落とし、一発逆転の⑥共産主義への移行を狙う。だがわずかに条件を満たさず、③共和制を覆せずに敗北した。ブルジョワ支配の壁は厚かった。

フランソワ・ノエル・バブーフ - Wikipedia

出てくる人物やイベントのカードは、効果も含めて史実を踏まえているから、「大事な事項をゲームで覚えましょう」的な授業での使い方もあるだろう。だが、この作品の真価がそこにはないことは、すでに自明だと思う。

なんとなく “偉業” として捉えがちなフランス革命も、それは特定のゴールにたどり着いた後からふり返って見えるひとつの立場であって、リアルタイムではどこへたどり着くかわからない、欲望と混乱の噴出があるだけだ。

そうしたセンスを歴史から得ることが、現在に対する見方も強靭なものにする。たとえば “民主 vs 専制” みたいな単純すぎるストーリーに乗せて、テキトーに解説するセンモンカには騙されない。

ウクライナ政治の悲劇: 民主化への道はどう「戦争に」開かれたか|與那覇潤の論説Bistro
あまり知られていないが、ヘッダーの左の本の著者は私の指導教員である。専門が明治維新史なので、実は私も博士論文は「実証的」な明治史だった(笑)。かつ琉球処分という「領土の併合」を国際関係史の立場で研究したので、ウクライナでいま起きている問題に...

すっかりゲームの話になってしまったが、歴史学者(笑)をやめただけで歴史家としてはいまもプロなので、今月の『Wedge』の連載「あの熱狂の果てに」では、そんな示唆を学べる研究書からフランス革命を再考してみた。

髙山裕二『ロベスピエール』は、ゲームでも(共和制を護る上で)最強レベルのカードとして登場する「独裁者」の、意外な実像を描く。暴君と理想家というふたつの顔は、今日の “民主政体” もまた陥りがちなジレンマだ。

高山裕二さん『ロベスピエール 民主主義を信じた「独裁者」』インタビュー 「暴君」が目指した理想|好書好日
フランス革命を扱う研究は多い。だが、革命を象徴する最も悪名高い人物の評伝は、意外にも類書が少ない。気鋭の思想史家が、近年の「暴君」像の刷新も反映した2020年代の歴史書をまとめた。 「18世紀後半のフランスは新聞・雑誌やパンフレット...

『Wedge』での結びは、以下のとおり。ぜひ多くの人の目に触れて、歴史や民主主義を再考するきっかけになりますように。

市民の自由と人権、身分制からの解放、言論が動かす民主主義の政治――フランス革命は、様々な「善きもの」のはじまりだとされる。

だが法を軽んじた放逸、ルサンチマンの応酬、デマゴギーに基づくポピュリズムといった「悪しきもの」もまた、同じ場所から始まっていた。

他のすべての熱狂におけるとひとしく、どの先進国もいま、この二面性から自由ではいられない。むしろ革命の中で見落とされたものと向きあうときに、はじめてその困難は終わるのかもしれない。

『Wedge』2026年6月号、10頁

参考記事:

週刊『教育資料』のインタビューを再録します。|與那覇潤の論説Bistro
先月、週刊『教育資料』3月25日号の「自著を語る」に、インタビューが掲載されました。次の号もすでに出ていますので、刊行元の許可を得て、以下に全文を掲載します(多重引用になってしまうので、アゴラには転載しないでください)。 また、東洋経済新報...

編集部より:この記事は與那覇潤氏のnote 2026年5月21日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は與那覇潤氏のnoteをご覧ください。

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