書評:遠藤貢(著)『アフリカ―「経済大陸」の行動原理と地政学』

今年3月、アフリカ研究を代表する研究者である遠藤貢教授の単著と、武内進一教授及び落合雄彦教授が編集した単行本が、公刊された。割合珍しいことなのではないかと思う。紹介が少し遅れてしまったが、この機会に、3冊についてふれる文章を書いておきたい。

まず、遠藤貢教授の著作から紹介したい。遠藤教授は、日本を代表するアフリカ研究者の一人である。東京大学では、本郷の法学部にアフリカ政治の専門家がいない。そこで駒場(大学院総合文化研究科)の遠藤貢教授が、東京大学におけるアフリカ政治研究の中心的存在となってきた。業界では、遠藤教授が多数の大学院生を抱えながら、熱意ある指導を怠らず、研究も進めていることが、よく知られている。

その遠藤教授が、中公新書から「アフリカ」という題名の本を今年3月に公刊した。南部アフリカからソマリアまでの地域に、具体的な焦点をあてながら研究を進めてきた遠藤教授が、一里塚として刊行された書であるようにも思われる。

まず経済成長とそれを支える人口増加の大陸としてアフリカを示す第1章から始まり、アフリカ諸国の政治体制の問題性(第2章)、旧宗主国をはじめとする外部世界との関係(第3章)を論じた後、「アフリカの角」(第4章)、南部アフリカ(第5章)と大陸内の二つの準地域に焦点をあて、「日本とアフリカ」(第6章)へと議論を進める。

遠藤教授がこれまで研究対象としてきた南部アフリカとアフリカの角の地域に対して、特徴的な章構成になっている。とはいえ、アフリカ全体を見渡す総覧的な内容を提示している。この本で初めて本格的なアフリカの政治情勢にふれるような読者層には、中東諸国とも複雑に結びついたアフリカの角の地域情勢は、やや難易度が高いものだと感じられるかもしれない。だが実際のところ、東アフリカと中東は隣接しており、歴史的にも相互に影響をもたらしあう関係にある。結びつきが深いのは、端的に現実である。淡々とした筆致でアフリカを描き出す遠藤教授の姿勢から、地域情勢を見る際の常識感を養いたい。

アフリカと日本の関わりを論じた第6章を見ると、あらためてそこに限られた発展の可能性しか見えないことを感じざるを得ない。世界最大の人口増加地域がアフリカであるのに対して、こちらは急激な人口減少と少子高齢化にあえいでいる。構造的な事情があるだけに、事情は深刻だ。

私自身は、紛争分析・平和構築を専門的な研究領域としているため、アフリカには何度も足を運んできている。近年は現地に招聘される機会も増え、たとえば過去1年間だけで、7回ほどアフリカに行った。研究の観点から人が行かないところに足を運ぶ場合も多い。たとえば東アフリカでは、エリトリアを除くすべての国を訪れたことがある。その多くは複数回訪れており、ソマリアの首都モガデシュも3回、ソマリランドの首都ハルゲイサにも行ったことがある。

ただそれだけに、自分が若かった時と比べて、日本とアフリカの関係が発展したような感覚は持てていない。日本にとってアフリカは開発援助の主要対象だった時期もあるが、日本の援助疲れの中でアフリカへの注目も低下した。国連PKOに自衛隊を送るならばアフリカとの関わりも生まれてくるが、2017年に南スーダンから撤収してから、自衛隊の国連PKOへの部隊派遣は行われていない。少なくともしばらくは派遣の可能性はないだろう。永田町と霞が関のみならず、国際政治学者らの間でも、欧米偏重の傾向は、むしろ近年のほうが高まってきているくらいだ。中国の脅威の高まりなどが理由として挙げられるだろうが、いずれにせよ日本の側の余裕の欠如によるものだ。

アフリカは統治のあり方から、貧困問題、さらには気候変動に至るまで、多種多様な深刻な問題を抱える。しかし本書が紹介するように、2050年に24.6億人で世界人口の約4人に1人が、2100年には38.1億人で世界人口の約3人に1人がアフリカ人となる。アフリカを抜きにして世界情勢を語り続けるのは、困難だ。

1962年生まれの遠藤教授に続くアフリカ研究者には、負担が大きい。優れた研究を行っている研究者がいることはもちろんその通りだが、研究費のみならず、研究者、特に政治系のアフリカ研究者の数が、不足気味だ。

本書を手にして、遠藤教授の世代のアフリカ研究者層の豊かさを感じ取りながら、これからの地域研究の行く末を、日本の国力の将来とともに考え直してみる。遠藤教授らの世代が築き上げてきたアフリカ研究の厚みをあらためて実感するとともに、日本の地域研究の将来、ひいては日本の国力そのものの将来について考えさせられる一冊である。

アフリカ―「経済大陸」の行動原理と地政学

MicroStockHub/iStock

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