日本の終戦記念日に当たる8月15日はローマ・カトリック教会では「聖母マリアの被昇天」の記念日で、カトリック教国では祝日だ。レオ14世は同日午前10時、ローマの郊外の教皇の夏の別荘カステル・ガンドルフォにあるサン・トンマーゾ・ダ・ヴィラノーヴァ教会(教皇の小教区教会)でミサを執り行った。

「聖母マリアの被昇天」の記念ミサを行うレオ14世、2026年8月15日、バチカンニュースから
「聖母マリアの被昇天」とは、イエスの母マリアが霊肉と共に天に昇天したという日を意味し、ローマ教皇ピウス12世(在位1939~58年)が1950年、世界に宣布した内容だ。ただし、聖書にはどこにもそのようなことは記述されていない。その意味で、聖母マリアの処女懐胎を祝う「聖母マリアの無原罪のみ宿り」(12月8日)と共に、「聖母マリアの被昇天」は聖母マリアの神聖化を強調するキリスト教会の伝承にも基づく教義だ。
「聖母マリアの被昇天」は、5世紀から6世紀にかけて東方教会で始まったが、正教会の伝統では、この祭日を「神の母の眠り(ドルミション)」と呼び、正教会の神学では、肉体を伴う天への昇天(被昇天)という概念については慎重な姿勢をとっている。
「イエスの昇天」と「聖母マリアの被昇天」の違いについて、オーストリア・カトリック通信は「キリストは自らの力で神のもとへと昇られたが、マリアは天へと引き上げられた。ドイツ語ではどちらも昇天と呼ばれるが、ラテン語では『Assumptio Mariae(マリアの被昇天)』と『Ascensio Christi(キリストの昇天)』というように、その区別は明確だ。
ちなみに、12月8日の「聖母マリアの無原罪の御宿り」の場合、1708年にクレメンス11世(在位1700~21年)が世界の教会で認定し、1854年、ピウス9世(在位1846~78年)によって正式に信仰箇条として宣言された。「マリアは生まれた時から神の恵みで原罪から解放されていた」という教えだ。その結果、聖母マリアは罪なき神の子イエスと同じ立場となり、「第2のキリスト」という信仰告白が生まれてくる一方、キリストの救済使命の価値を薄める危険性が指摘されてきた。
例えば、中世のトマス・アクィナスらスコラ学者は聖母マリアの無原罪説を否定した。聖書では、「神と人間との間の仲保者もただ1人であって、それはキリスト・イエスである」(テモテへの第1の手紙第2章5節)と記されている。聖母マリアを救い主イエスと同列視する教義は明らかに聖書の内容とは一致しないからだ。
プロテスタント教会や正教会は聖母マリアを「神の子イエスの母親」として尊敬するが、「マリアの処女懐胎」を信じていない。一方、カトリック教国のポーランドでは聖母マリアを“第2のキリスト”と見なすほど聖母マリア信仰が活発だ。ちなみに、マリアは父ヨアキムと母アンナの間に生まれている
なお、「聖母被昇天の祝日」の15日、カトリック教国ポーランドで欧州最大となる聖母マリア像の祝福式が行われた。像は、人口140人足らずのポーランド中部コノトピエ村の畑の中にそびえ立ち、その高さは55メートルに及ぶ。この聖母マリア像は、それまで欧州最大だったフランス西部ミリベル近郊の聖母像を約20メートル上回る。「慈悲深き聖母」と名付けられたこの新しい像は、2,500立方メートル(250万リットル相当)のコンクリートを使用して建設され、その重量は約6万トンに達する。像自体の高さは40メートルで、王冠の形をした15メートルの台座の上に立っている。

欧州最大の聖母マリア像、「デイリー・コンパス」からスクリーンショット
この像を寄贈したのは、大富豪のロマン・カルコシク氏と妻のグラジナさん。ポーランドのメディア報道によると、2人はこのプロジェクトのために私財から2,000万ユーロ以上を投じたという。世界で最も高い聖母マリア像はフィリピンのバタンガス近郊の巡礼地に位置する「すべてのアジアの母(Mother of All Asia)」(別名「平和の塔」)で、その高さは98メートルだ。
このメガプロジェクトに対して、ポーランドのカトリック教会内では意見が対立している。ドミニコ会のパヴェウ・グジンスキ修道士は、この像を「小さな怪物」と呼び、「野原の真ん中に立つこの『キングコング』は、『金の仔牛(偶像)』の一種だ」と語った。一方、グニェズノ大司教区のズビグニェフ・プシビルスキ事務局長は、この像を建てた実業家について、「個人的な信心深さ」によるものだと評価している。
ところで、なぜカトリック教会は聖書に記述されてもいないマリアの神聖化に乗り出したのだろうか。キリスト教社会で長い間、神は父性であり、義と裁きの神であったが、慰めと癒しを求める信者たちは、母性の神を模索し出した。その願いを成就するために、マリアが母性の神を代行するとしてその神聖化が進められていった経緯がある。
参考までに、ローマ・カトリック教会の総本山バチカン教皇庁の教理省長官ビクター・フェルナンデス枢機卿は昨年11月4日、「マテル・ポプリ・フィデリス(信徒の母)」という「特定のマリア称号に関する教理覚書」を公表し、キリスト教信仰の教理と一致しないマリア崇拝に警告を発した。具体的には、マリアの「共同贖罪者」(ラテン語:Co-Redemptrix )や「恵みの仲介者」といった称号を今後使用しないように申し出ている。その理由は、「キリスト教のメッセージの調和のとれた全体性を正しく考察することを妨げるからだ」と説明している(「バチカン『過度のマリア崇拝に警告』」2025年11月6日参考)。

カトリック教会でのマリア崇拝の歴史は長い。マリアの神学的な意義などを学ぶ「マリア神学」があるほどだ。マリアの崇拝は20世紀半ばに始まり、ポーランド出身のローマ教皇ヨハネ・パウロ2世(1978~2005年)の在位期間以降、大きく広がっていった。ヨハネ・パウロ2世は生前、「マリアは共同救世主である」と何度も語ったことがある。マリアを‘第2キリスト‘と呼んでいたわけだ。ただ、同2世は「共同贖罪者」、「第2のキリスト」といった称号が何を意味するのかについては正確には説明していない。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2026年8月16日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。







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