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マーケティングの大家であるセオドア・レビットは、かつて1977年の論文でこう書きました。
四分の一インチのドリルを購入した人々が必要としているのは、直径四分の一インチの穴である。
この半世紀前の言葉は、実に有名です。いまや多くのコンサルタントが「ドリルを売らずに、穴を売りましょう」と言っています。
でも、具体的にどうすれば良いのでしょうか?
現実には、多くのお客は店でドリルを探し、お金を払って買ったドリルを使って、自分で穴を開けています。
そこで「ドリルを売るのはやめて、穴を提供しよう」と考えた価格戦略が、ペイ・パー・ユース・モデルです。
実はこの方法は、価格競争に悩む企業にとって、画期的な解決策になり得るのです。
例えば、タイヤ業界。
かつて私は自分のクルマを持っていた頃、タイヤを交換する時は、イエローハットなどで1番安いタイヤを選んでました。
クルマが大好きな人にはこだわりのタイヤ・ブランドもあると思いますが、多くのお客には、タイヤのブランドも性能も耐久性もよくわかりません。だから価格で比較して、一番安いタイヤを選ぶわけです。
タイヤは、耐久性を25%上げても、お客に25%高い価格を払ってもらうことはかなり難しいのです。
そこでミシュランがタイヤの走行距離に応じてお金を払ってもらうように開発したのが、EFFITIRESというタイヤのペイ・パー・ユース・モデルです。
タイヤが25%長持ちすれば、お客は自動的に25%多くお金を支払ってくれます。
これはEFFITIRESのお客である運送会社にとっても、大きなメリットがあります。
トラックが走行している時にだけタイヤ代がかかります。つまりトラックの売上とコストを連動できます。駐車場に止まった状態であれば、タイヤのコストは一切払う必要がありません。
お客にとって、会計面でもメリットがあります。
運送会社の業績は、景気に左右されます。景気が悪くなって売上が減った場合、タイヤの費用も売上に連動して減るので、不景気でも利益がそれほど減らなくなります。運送会社にとって需要変動リスクを減らすことは、大きな価値があるのです。
さらにタイヤの費用を固定費から変動費にできるので、損益分岐点を下げて、より少ない売上で利益を出すことができます。
こうした事例は他業界でも多く出始めています。
ラグジュアリーカーのロールス・ロイスは、航空機エンジンも作っています。同社は…
「お客にエンジンを売るのではなく、推力を売ろう」
…と考え、ジェットエンジンの稼働時間単位で料金を請求するTotalCareというサービスを提供しています。
エンジンにつけたセンサーを遠隔地からモニタリングし、故障を未然に防ぎ、お客のエンジン保守も簡素化して、稼働時間を最大化しています。
従来のエンジンを売るビジネスでは、エンジンが壊れれば、お客である航空会社が損をしていました。
しかしこのモデルでは、エンジンが壊れれば航空会社だけでなくロールス・ロイスも損をします。そこでエンジンの耐久性を上げ、故障を減らし、飛行可能時間を増やせば、顧客も同社も儲かるようになります。
日本でも事例があります。超純水を提供する栗田工業です。
同社のお客は、半導体メーカーです。
半導体の製造では、各工程で洗浄作業があります。
超微細加工なので普通の水だと不純物が多すぎて不良品になります。
そこで栗田工業は、超純水を作る製造装置や分析装置を作り、サービスとして超純水を提供しています。
半導体メーカーが同社の超純水製造装置を買い、自社工場に導入して運転しても超純水は作れますが、わずかな変化で純度が下がり、半導体製品の歩留まりは一気に悪化します。これは困りますよね。
そこで栗田工業は生産工程に入り込み、常に高純度の超純水を提供しているのです。
超純水の作り方を熟知している同社は保守・運用まで一体で引き受けるので、10年程度の契約を結ぶことになります。
半導体メーカーからすると一度同社の設備を採用すると他社に切り替えづらくなります。
栗田工業は他にも、製油所、自動車工場、製紙工場、食品・飲料工場など、2万件の顧客を抱えており、2024年の売上は3848億円。10年前から倍増しています。
このように、ペイ・パー・ユース・モデルには大きな可能性があります。
ただし、技術的な前提条件もあります。
実際の使用量や使用状態を計測するシンプルな方法や、低コストで使用量や使用状態を計測して送信できる仕組みが必要です。
ミシュランのEFFITIRESは、メーカー・製品情報・シリアル番号を書き込んだRFIDタグをタイヤに埋め込んで個別のタイヤを識別して、車両に搭載しているテレマティクスという端末にある車両の走行データと組み合わせて、無線通信でデータを転送しています。
ロールス・ロイスは、ジェットエンジンに多数のセンサーを搭載し、エンジンの温度・圧力・振動・燃料の流量・回転や運動状態などを検知して、飛行中に市場のオペレーションセンターへデータを転送しています。
これまでモノ売り商売では、商品の耐久性を上げると、次の商品が売れなくなるジレンマがありました。
ペイ・パー・ユース・モデルにすれば、耐久性・稼働率・生産性を上げると、企業にも金銭的メリットがあります。
顧客が求める本質的なニーズを出発点に考えて、「ドリルを売らずに、穴を売ること」を価格戦略で実現するのが、ペイ・パー・ユース・モデルなのです。
【参考情報】
- 『T.レビット マーケティング論』セオドア・レビット著 277
- 『価格のマネジメント』ハーマン・サイモンほか著 652-655
- ”TotalCare” Rolls Royce
- ”EFFITIRES – Peace of mind tyre management”
- 『TSMC・インテルと連携 半導体支える栗田工業』 日経ビジネス2024.9.23号
編集部より:この記事はマーケティング戦略コンサルタントの永井孝尚氏のオフィシャルサイト(2026年8月18日のエントリー)より転載させていただきました。永井孝尚氏のメルマガのご登録はこちらから。







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