先日、ODA白書2013が発表された。昨年、私は「中国への隠された300億円援助 ODA白書の謎を解く」と題し、「中国をにらんだ戦略配分」という政府の勇ましいお題目とは裏腹に中国に未だ300億円もの無償援助がなされていることに疑問を呈する記事を書いた。気になって今年も白書を読んでみたが、若干の変化が現れていた。
最も分かりやすい変化は、無償援助と技術協力の贈与総額が昨年(2011年実績)の約300億円から約140億円に半減していることだ。特に前回は2位のベトナムより倍以上も多かった技術協力約280億円が約131億円と半減している。激減したとはいえ、技術協力としてはベトナムに次いで2番目、贈与総額でも4番目の多さである。やはり、「中国をにらんだ戦略」とは決して言い難い状態であることに変わりはない。
今回のODA白書2013に掲載された実績は2012年のものだ。その大半が安倍政権に変わる前のものであり、いたしかたないとは思う。実際、現政権は昨年、「戦略的な留学生交流の推進に関する検討会」を設置し、その議論の結果を昨年末に「世界の成長を取り込むための外国人留学生の受入れ戦略(報告書)」として発表している。そこでは、「我が国の発展に特に寄与する と考えられる地域や国,及び当該地域等との関係を構築する分野を設定し,機動的・戦略的な外国人留学生の受入れを実施する」と記されており、これが「中国をにらみ民主主義や人権など普遍的な価値や利益を共有する国への支援を強める」というODA戦略と一致させる決意であると読み取ることもできる。実際に、「東アジアの中でも,我が国との関係が強く親日国であり,資源確保の観点からも関係を強化することが重要なモンゴルを中心として, 留学生の受入れを促進する。」とあり、そこには中国という文字はない。
ただ、ODA技術協力の多くを費やしている中国留学生への奨学金を本当に劇的に減らせるのかという点はやや疑問が残る。文科省のサイトには、「国費留学生総数は、平成24年5月現在で8,588人です。このうち中国籍の国費留学生は1,411人と国費留学生全体の16%程度であり、国費外国人留学生制度の予算の大半を中国人留学生に支給しているということはありません。」という説明があり、他の国々に比べて圧倒的に多いにも関わらず「大半ではない」と開き直っているところには国民感情や「政府の戦略」との乖離を感じる。上記の数字は国費留学のみで、他にも私費留学生への月5-6万円の奨学金や短期留学への奨学金対象者は含まれておらず、国別のデータも明示されていない。
中国、韓国からはもはや多額の奨学金を支給せずとも多数留学している。そうであるなら、これからより留学生として受け入れたいと思う国々への投資へとより抜本的に転換すべきだ。ODAも中国には基本ゼロでよかろう。これまで多額の支援をし、実際にGDP世界2位の経済大国、援助大国になっているのだから。そして、その分の予算を戦略的に重要な他の国々や、日本人大学生への給付型奨学金や授業料免除に振り分けるべきだ。前に記したように、大学授業料免除の現予算は約500億円で15万人を対象にしており、中国のODA140億円だけでも現在の規模からおよそ3割を増加させることができる。政府の謳う「戦略」が細部まで反映され、日本の国益に叶う予算配分がなされることを願う。
学びのエバンジェリスト
本山勝寛
http://d.hatena.ne.jp/theternal/
「学びの革命」をテーマに著作多数。国内外で社会変革を手掛けるアジア最大級のNGO日本財団で国際協力に従事、世界中を駆け回っている。ハーバード大学院国際教育政策専攻修士過程修了、東京大学工学部システム創成学科卒。1男2女のイクメン父として、独自の子育て論も展開。アゴラ/BLOGOSブロガー(月間20万PV)。著書『16倍速勉強法』『16倍速仕事術』(光文社)、『マンガ勉強法』(ソフトバンク)、『YouTube英語勉強法』(サンマーク出版)、『お金がなくても東大合格、英語がダメでもハーバード留学、僕の独学戦記』(ダイヤモンド社)など。