原発問題の本質を考える

山口 巌

3.11以降、原発問題に就いておびただしい量の意情報がネットを駆け巡っている。識者、論者の意見も多種多彩、百花繚乱の様相を呈している。

基本、今後を考えるのに多様な意見がある事は選択の幅を広げ好ましい事と考えている。しかしながら、既に一か月以上が経過した今、問題の本質を突き詰め、今後を具体的に考える段階に来ているのではないだろうか?

ネット経由取得可能な情報から考察してみる。

原発問題の本質の第一は危機管理だと思う。今回の福島原発事故は津波が想定外に大きく、結果非常用電源が破損し冷却システムが止まってしまった事に起因すると聞いている。

そうであれば、更に原発建屋最上階であるとか、無理なら屋上に非常用の発電設備を建設して津波に対応するとか、これが設計上無理ならば一定時間冷却システムを稼働さす事が可能な大型のバッテリーを設置する等追加対応が必要ではないか?

政府は下記日本全土に点在する原発の、津波への備えを調査し、国民に公表すべきだ。福島原発と同じリスクを抱え込んでいるのではと危惧する。

原発の位置-1

http://www.jaif.or.jp/ja/nuclear_world/data/image/jp_npp-location.jpg

2番目は管理の危機である。今回の福島原発事故が焙りだしたものは、監督官庁の経済産業省と事故当事者、東京電力の不適切な馴れ合い関係であり、有名無実で実際機能していない原子力安全委員会の実態である。

この背景には、電力会社による地域独占や天下り先確保の為の経済産業省による恣意的な裁量行政が推測される。この腐臭の漂う関係の遮断が強く求められる。

3番目は核燃料リサイクルが実質破綻している現実である。

日本の原発は、福島原発の如き第一次原発と、それに続く使用済み燃料の再処理、再処理燃料を使用した高速増殖炉による発電と更なる核燃料生産の循環が機能する前提で経済評価が成された筈である。

日本の原発戦略の基本は、燃料となるウランが必要量供給されるとの前提の下、先ず今回事故の福島発電所の様な原発での発電があり、次いで六ヶ所村での使用済み核燃料の再処理、最後に高速増殖炉での再生燃料(プウトニューム)による発電と、これに併行した燃料となるプウトニューム製造と言う事であった筈である。

この循環により単にウランを燃やすだけの原発発電に比べ60倍の発電が可能との関係当局の説明であった

しかしながら、六ヶ所村の再処理センター、高速増殖炉もんじゅ共に工場が稼働せず再開の目途が立たない現状では、ウラン燃料を購入して発電し、使用済み燃料は廃棄処分にする事を前提に経済評価をやり直すべきである。

又、前途に何の可能性が無いにも拘わらず数多くの原子力関連政府外郭団体が温存され、経済産業省の天下りの温床になっていないか調査すべきである。

今一つの問題は、原発を開始して何十年にもなるのに未だに使用済み核燃料の廃棄方法、廃棄場所が何も決まっていないと言う信じられない事実である。誰も泥を被りたくないと言う事なのか?それにしても、今回の事故で廃棄場所の選定は限りなく困難になったと思う。

4番目は脱原発に舵を切った場合の代替電源の確保である。既に、原油輸入の90%を地政学的リスクが高まりつつある中東に依存する我が国が、石油に向かう事は断じて許容されない。リスクが高過ぎる。

LNGは産出国が分散しており、原油の様なリスクはないが価格がWTI原油先物相場にリンクしており、既にかなり値を上げているが、今後中東に動乱が起これば暴騰の可能性が極めて高い。

最後は安全保障との兼ね合いである。原発問題を突き詰めて考えれば、ドイツの様に脱原発に舵を切り、再生可能エネルギーに活路を求めるか、或いはアメリカの様に原発を推進し二酸化炭素と中東のカントリーリスクを軽減するかの2者択一である。

アメリカとの日米同盟を安全保障の基軸に置く日本が、フリーハンドを持っていないのは明らかであろう。

最近、与謝野経財相の「原発推進は決して間違いではない」とのコメントに対し野党政治家に揚げ足取り的な批判が散見される。

与謝野経財相の発言には国を預かる大臣、政治家としての自覚、責任感が強く感じられ、好感がもてる。発言内容も日本の現在のエネルギー事情や安全保障、牽いては日米同盟を考えれば至極妥当と思う。

与党若手の政治家や野党の政治家は世の中に充満する、反原発のムードに安易に流されたり、これを追い風に利用する事無く、原発問題の本質をしっかり理解した上で、与謝野経財相の如き老練で経験豊かな政治家に論争を挑んで欲しい。勿論、下品極まりない揚げ足取り等してはならない。

山口 巌

コメント

  1. minourat より:

    「最良の知見、 最善の知識、 最良の技術でベストなものをその当時は作ったと確信をしていた」という与謝野氏のコメントについて、 福島第一原発が作られた当時の事情に付いて、私の経験したことをのべます。 

    BWRはほぼ100%GEの技術に拠っています。 例えば、 福島の一号機の原子炉、 タービン、 発電機当の主要機器はGEが製作し土木工事や建物の設計・工程管理はエバスコ社が担当しました。

    製造に必要な図面と技術資料を全部GEから提供してもらって、 1号機の実物をみてもまだわからにことがあります。 そこで、H社・T社とも常時数人ずつがGEに滞在して、 日本で問題・疑問があればすぐにGEから回答が得られるような体制になっておりました。

    日本で、 GEの設計の誤りを指摘したらなまいきだとたしんめられました。 GEに派遣されていたときに、 あるGEのプロジェクトがうまくいかないだろうと出張報告に書いたら、 GEの技術を学ぶためにに滞在しているのに、 そういう報告をよこすなとおこられました。 ところが、 おかしなことにGEの技術者は私のいうことをきいてくれました。

    原子炉は、 ヤカンで水を沸かして蒸気をつくるのと同じローテクだといったアゴラのコメントがありましたが、 微分も積分も入社以来つかったことがないと豪語した日本の技術者にあったこともあります。 熱交換器ひとつをとってもまともなものを設計するには高度の数学と数値計算が必要です。 日本からの出張員の多くが熱心であったのはゴルフでした。

    じつは、その当時、 GEの内部ではBWRの安全性についてガクガクやっていたのです。 このことは、私も2・3年後まで知りませんでした。

  2. minourat より:

    http://www.youtube.com/watch?v=56_Ry96P6FA&feature=related

    このビデオで、 日本原子力研究所・動力試験炉部長であった石川迪夫氏が述べておられることを聞きまして唖然としました。

    1) 「日本の原子炉は米国の原子炉とちがうから安全である」。 これは、 設計がまったく同じでも、 神国日本に設置されているから安全だとでもいうことでしょうか? 神国だとおもったら、 地震・津浪国であったようです。

    2) 「実験炉NSSR で暴走実験を2000回もおこなったが安全であった。」 Wikipediaによると、「この実験で「暴走時、燃料棒内の燃料が発熱し、その熱量でセラミック状態の燃料が溶融し、耐え切れなくなった燃料棒被覆管から冷却水内へ溶融したマグマ状の燃料が噴出し、水蒸気爆発が起こるのが原子炉破壊のプロセスであると解った。」 と書いてあります。 もしこれが、 100万KWの実用炉で起きたら、 チャイナ・シンドロムです。 この問題が指摘されたとき、 残念なことに、 田原氏が議論をさし止めてしまいました。

    http://www.youtube.com/watch?v=EcDXRCyyrPI&feature=related

    ここで、石川氏が嬉々と漫才のように話されているのを聞くと、 そらおそろしくなりました。

  3. noutori より:

    今回の事故は非常に奇妙な様相を呈しています。①原子炉は停止した②冷却系が故障③その主因は外部電源の途絶④さらに非常用電源が故障という構図です。その後余震時に女川等で③の途絶ないしは途絶しなかったものの大半の電源が故障という事例が発生しました。
    以上から素人目にも肝要なのはa外部電源はかなり危ういb非常用電源は相当危うい ということだと思います。すなわち原子力発電所特有の現象というよりは外部、非常用電源という原子力に関係の無いところでトラブルが生じています。原子力という特殊性に目を奪われないでこの電源の問題という素人目には初歩的な段階で何故かくもトラブルが発生するのかを解明することが重要ではないでしょうか。

  4. greetree より:

     与謝野経財相の発言は、「(原発を)推進してきたことは、決して間違いではない」ということであり、「安全対策を抜きに推進してきたことに何も反省しない」ということですから、批判されるのは当然です。

     問題は、安全対策をするかどうかですが、

    > 政府は下記日本全土に点在する原発の、津波への備えを調査し、国民に公表すべきだ。

     と述べても、その政府が信頼できないんだから、政府の調査など意味がありません。
     だいたい、政府に調査能力があるわけがないでしょう。
     日本の原発専門家はみんな「福島は安全です」と評価してきたんです。同じことの繰り返し。

     大事なのは、国際組織による安全体制の確立です。下記の通り。
     → http://bit.ly/eZOQv5

  5. bobby2008 より:

    広い意味では危機管理に含まれるのかもしれませんが、ダメージ・コントロールの対応も非常に悪かったと思います。

    震度6の地震でも原発は壊れなかったと言われていますが、1号機の非常用冷却系統か、圧力開放弁か、冷却系のパイプが、地震で壊れたのではないかという可能性を、あとからよく調査するべきかと思います。

  6. worldcomw より:

    原発問題の最も重要な本質は、過剰コンプライアンスでしょう。
    と言っても、安全係数を過剰に取るという意味ではありません。
    例えば100mの津波を想定し、110mの位置にポンプを設置すると
    『100mの津波だから100m1mmの場所でないとおかしい』と反対する人が居り、
    その意見が通ってしまうという意味です。
    危機管理マニュアルも、想定外の事態を記述してしまうと想定内になってしまう為、
    最初から記述しませんし、当然訓練も行いません。
    耐震性向上も配管強度アップも、「じゃあ今までは危険だったのか」と言われるので
    極力行いません。

    その結果、想定を超えた途端に烏合の衆となってしまっています。

  7. onyasu0222 より:

    国策として推進してきた原子力エネルギーに推進バイアスが想定以上にかけられていたことが問題ではないでしょうか。

    安全対策が想定外という言い訳をするなど、国民にとっても想定外。それを許容している報道が目立つことに恐怖を覚えます。

    原子力の発電コストは、他のエネルギーより安価、原油輸入のリスクということから推進されたと思います。しかし、実際は処理コスト、特別会計による誘致コスト、今回の事故で発生する安全コスト、保証コストを考慮すると他のエネルギーと比較しても有利なものではありません。
    http://www.aec.go.jp/jicst/NC/iinkai/teirei/siryo2010/siryo48/siryo1-1.pdf

    事故が発生したとき、電力会社がすべてを補償するわけでなく、それを税金で補填する法律があるなど、初めて知った国民が多いと思います。

    すべての情報を明らかにし、原発コストを国民が負担するか、電力会社で負担するか、他のエネルギーを推進するか、国民が選択する。また、発電と送電を分離し、電力会社の競争を促し、電力会社だけでなく発電方法も国民が選択できるような政策を推進して頂きたいと思います。

  8. rityabou5 より:

    原発問題の本質としては、私は以下をあげたいと思います。

    ◆:東電のずさんさ
    東電でどのようなことが起きていたのか調べてみました。
    保安院の評価基準の Iに該当するものがまとめてある資料を見つけました。
    http://www.meti.go.jp/committee/materials/downloadfiles/g70529a02j.pdf
    この資料の P6です。以下は本資料からの引用です。

    『○制御棒引き抜けに伴う原子炉臨界と運転日誌等の改ざん』
    『○制御棒駆動機構の工事計画及び使用前検査の不正』
    『○残留熱除去冷却中間ポンプ(A)起動の不正表示』

    どんなに安全な機械であっても検査でさぼったりすれば事故は起きます。この状態で事故を起こすなという方が無理です。

    なぜこんなにもずさんなのか。その本質は以下の2つだと思います。

    1:社会の腐敗

    山口氏が指摘されているとおりです。他にも記者クラブの悪しき習慣がこのような状態を作り出した一因だと思います。

    2:東電がまともな組織として機能していない(多重下請けの危険さ)

    東電のいろいろなトラブルを見ていると、多重下請けというシステムがずさんさの一因となっていると思えます。例えば現場で「これは危険なのでは?」という話があったとします。しかし、その話は上にいく前に消えていきます。やっかいなことを言い出す下請けなんて締め出されます。結果、現場の声が上に届かない組織ができあがります。

    後者に関しては私の憶測もまじっていますが、そんなに間違ってはいないと思います。

  9. minourat より:

    次のページに石川氏の述べておられらNSSRによる暴走時の実験結果が簡単にまとめられています。

    http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_No=11-03-01-17

    この実験では、こうした実験でも破壊されないパルス炉というのを使用しているとのことです。 さらに、 1) 抜け落ちる制御棒は1本だけと仮定されていますし、 2) 崩壊熱は考えられていません。

    詳しいことはわかりませんが、 この実験でも燃料棒がこなごなに破損しているケースがあります。 崩壊熱がなければ、 福島の事故はおきていません。 また、 実験炉は核燃料の量にくらべてずっと大きな冷却水を満たしたプールにはいっています。 

    この実験結果にもとづいて、 単位あたりの燃料の発熱量がおさえられても、 大型の実用炉でも同様だとはいえないとおもいます。 1リットルのガソリンに火をつけたら、はでに燃えたけれど安全であった。 したがって、50000リットルのガソリンに火をつけても大丈夫というようなものです。

  10. hogeihantai より:

    これからの原発はオープンソースのリナックスの開発手法を用いるべきです。福島の事故でこれまでの原発には多くのバグがある事が判明しました。これまでの原発はコードを開示しないマイクロシステムのOS開発手法に例えることが出来ます。OSのバグと異なり、原発のバグの被害は天文学的数字に上ります。

    今は原発ビジネスに直接関与してなくとも世界には多数の元原発エンジニア、機械、電気、土木、建築、原子核、等々の専門家がいます。彼らがボランティアでインターネットを使って原発の設計に参加すればよいのです。原発村の閉鎖社会で設計された原発と世界の叡智を集め全ての人に公開された場所で自由闊達な議論の基に設計された原発、どちらが優れているか自明のことです。

  11. 今回、東電などは津波のせいにしようとしていますが地震で格納容器、配管が破損した可能性は大きいはずです。非常用発電機を建屋の上に、なんてとても無理です。電源関係はすごい重量があります。そうすると建物の耐震性は悪くなり落ちたら炉を破損します。バッテリではとても容量が小さく動力関係は不可能です。それでもやろうとしたらバッテリのお化けになって建物が潰れてしまいます。バッテリで動くのはせいぜい8時間程度、計測器関係だけです。今回もそうでした。

    福島に限らず原発まるごと問題だらけなのです。非常用電源以前の話です。原子炉の設計上、施工上の欠陥が無数にあるのです。さらに六ヶ所村のようなシステム的欠陥が拍車をかけています。結局、原発は原理的に安全は無理なのです。しかも経済的にも超高コストなことから原発を作ること自体クレージーなのです。詳しくは私のブログに準備してあります。