東京電力をどうするか?

山口 巌

東京電力をどうするか?に就いては、結論から言ってしまえば発電送電部門に2分割した上での国有化しかないと思う。

肝心な点は、電力の安定供給の確保と、明瞭な責任所在の伴う簡潔且つ短期で賠償業務を終了さす事の可能なスキーム構築と考える。

電力の安定供給を議論する上で、先ず最初に決めねばならないのは原発継続の可否である。これはこの時期厄介な問題であり、恐らく国論を二分する議論となる筈である。

菅首相は既に原発増発の凍結とか、何時もの思い付きで言っているが、中東の地政学的リスクの高まりに多少の知見があれば決して出来ないコメントである。

個人的には原発は継続すべきと考えている。

福島原発事故の犯人は、東京電力、経済産業省そして政府の説明を聞く限り津波と言う事になっている。だが本当だろうか?

原発問題の本質を考えるで既に指摘した通り、非常用電源設備をもっと高い場所に設置するとか、アドオンで緊急用バッテリーを高い所に準備しておれば、今回の事故はなかった筈である。従って、今回の事故が意味するのは原発の本質的リスクではなく、設計ミスに起因する膨大な損害と言う事になる。

日本人は今少し冷静になり、先ず発電所非常用電源に於ける設計思想が、妥当か、否かを吟味すべきである。原発継続の是非を議論するのは、飽く迄その後でなければならない。

とは言え、原発の新設を受け入れる地域があるとは思えず、原発新設による電力の供給はは当分不可能であろう。

原発の抜けた穴の一部は、化石燃料を電源とする発電で補うとしても、大部分は節電スマートグリッドによる賢い電力の分配と、家庭、工場そしてゴミ焼却工場からの逆潮流電流の受け入れで賄うしかない

従って、発電送電部門2分割はマストと言うのが私の主張である。物の順序としてはスマートグリッド導入が喫緊の東京電力で先ず実証し、成功パッターンを各地の電力会社に移築してはどうかと思う。

次は補償の問題である。補償総額が数兆円に達し、東京電力の経営破綻もあり得るとの事である。

大事な事は、先ず東京電力が補償を行い経営破綻が確実となれば、現行のスキーム、会社更生法を適応すべきであり、菅首相が如何にもやりそうな、思い付きで、その場凌ぎの特別な破綻処理スキームには決して手を出してはいけないと言う事である。

現行のスキームで処理して一体何が問題と言うのだろうか?

被災地の瓦礫の処理も、下水道の復旧も滞り、仮設住宅の建設も遅れに遅れている事のA級戦犯である官邸は補償に関し下記の如き最悪のスキームを提出した。

賠償スキーム

以前官邸から本来有り得ない、下記コメントが出た時に、何れこういう愚行をやるのではと危惧していたが現実のものとなってしまった。

「東電の株主は約100万人で、その多くが銀行預金と同様の安全運用先として東電株を保有していた個人株主であることを重視せざるをえない」

官邸は市場とか市場に軸足を置く市場主義経済で日本は食って行かねばならないと言う事をまるで理解しておらず、唖然とするしかない。国民のモラルハザードを心配するが、官邸はモラルハザーそのものである。

それでは、このスキームの一体何処が問題なのであろうか?

先ず目につくのは責任の所在が曖昧な点である。賠償の実務を担当する東京電力と賠償の原資を調達、供与する賠償機構の2重構造であり、結果東京電力は親方日の丸で言われた通り支払し(自分の懐は痛まないので)、一方、賠償機構は東京電力の求めに応じ幾らでも資金の提供に応じると思う。

結果、賠償交渉は長期化し、金額も天文学的に膨張する事を危惧する。賠償機構の理事長は多分経済産業省からの天下りであろうが、従来同様2年毎の渡りで入れ替わり、問題が表面化した時には結果誰も責任を取らない。

そもそも、かかるスキームで東京電力や賠償機構にあるべきガバナンスを求める事難しく結果税金をどぶに捨てる事になる。

次に問題なのは、他の電力会社に負担金を求める事である。電力会社とは言え株式市場に上場しており、こんな事をすれば株主の利益が大きく損なわれ、結果株式市場を殺す事になるのではないか?株式市場が機能不全となれば企業の資金調達が難しくなり、成長にブレーキがかかる。当然、失業問題とか悪化する筈である。

大体、私の個人的判断であるが、東京電力の設計ミスに起因する賠償の為に何故、他の電力会社が負担金を払わねばならないのか?一体どういうロジックでこうなるのか政府は説明すべきである。

結論を繰り返せば、こういう鵺の如き奇怪なスキームは必ず失敗する。従って、先ず東京電力が可能な限り保障を行うべきである。当然の事ながら株主は100%の減資を覚悟せねばならない。債券保有者も同様である。融資銀行も東京電力への融資は不良債権扱いに変更し、処理を強いられる事になる。

ここまでやれば、東京電力は実質企業価値ゼロであり、発電送電部門に2分割した上での国有化しかないと思う。補償は勿論東京電力に代り政府が担当する。

電力の安定供給はマストだが、これを人質に東京電力含め、全てを温存する様な愚行を行えば、間違いなく失われた20年の後に、死に至る10年を迎える事確実である。ここが日本の正念場ではないか?

山口 巌

コメント

  1. jnuxcom より:

    東電を倒産させる?

    普通の会社倒産と、今回の東電との大きな違いは「異常に巨大な天災地変による免責規定」があることです。

    「免責規定」が適用されるかは、意見が分かれるでしょうが、東電株主・債権者・従業員は「免責不適用による東電倒産」には納得しないし、当然裁判に訴えるでしょう。 最高裁で判決が確定するまでの数年間はどうするのですか?

    「100%減資しろ!」と言っても現在の株主の2/3が、特別決議で100%減資に賛成する可能性はありません。 共産主義国でない日本で、債務超過が確定していない民間の会社を、株主同意を得ずに、どのようにして「100%減資・解体・会社分割・国有化」するのか、その方法をお教えください。 

    「免責規定裁判」の判決確定前に、東電以外の第三者が会社更生法を申請して、裁判所が受理・決定することはあるのですか?

    長期裁判も辞さず、東電を倒産させることは国民感情に合致しますが、長期裁判で失うもの(安定電力供給など)が大きいと思います。 それに比べ、得るものは殆ど無い、東電を潰しても、潰さなくても、結果は殆ど国民負担(税金か電気料金)なのでは・・・?

  2. sudoku_smith より:

    1.安易な国有化には反対。
     国がやるから安心、とはご指摘の中にもある昨今の民主党政権の振る舞いから見て明らかに逆行だと思います。徹底した透明化を図るためには逆に国有化しない方が良い。国の機関は何かミスをしてもそれを隠すし捜査の手も入りにくい。ご提案のスキームは賠償の話なので、その部分だけを分離すれば良いのでは?一足飛びに国有化はどうかと思う。

    2.最初に決めるのは原子力の可否でなくエネルギー戦略
     池田さんも指摘するように、最初に原子力をドウするか決めるのは本末転倒だと思う。例えば、以前東京がディーゼンエンジンを規制した結果、ディーゼルに関する技術開発、市場開発で日本は大幅に立ち後れヨーロッパが先頭に立った。もちろん、それをしてガソリンより有利、と言うつもりはないが、結果ガソリン偏重になった日本の石油市場は
    おかしな事になっているし、輸送部門のエネルギーの効率という点でも立ち後れている。目的は良くても、方法がダメダメだったと思う。同じような事が起きかねない。
     原子力をやめると決めてしまうと、今度は発展途上国との資源のぶんどり合い、という修羅場に身を置く事になる。例えば30年後を見たとき、今後貧乏になると思われる日本がそれに耐えられるか?結果は将来世代が負う、では無責任だと思う。
    まず、全体の必要量の見通し、各方法のメリット、デメリット、将来技術の開発余地、政治案件などなど、、、前提条件としてつめる事は山ほどある。それ無しで決めうちは危険すぎる。脱原発で賞賛されるEU各国は、まだ実際に脱しておらず10年以上は使う予定なな事を見るべき。

  3. rabbitge より:

    このまま何もしない、何も決めないと逃げ腰の東電は国に頼りきりになるでしょう。国も東電に責任を取らせたい、巨額の賠償は避けたい、だから東電に払わせる。

    結局、理屈探しです。

    こんな問題は普通に破産処理で充分です。

    なぜ、困ってる人を助ける前にメンツが大事なのですか?

  4. ryoito88 より:

    jnuxcomさん、
     東電を潰しても潰さなくても、国民負担という意味では同じ、と考えるのは納得できません。
     東京電力は民間事業者であり、電力事業は公共事業ではありません。事故による損害賠償の負担の優先順位は、
    1.株主(エクイティ) 2.債権者(デット) 3.従業員(給与債権者) 4.国民(税金)
     のはずです。
     電力事業の免許を剥奪しても、東京電力に十分な賠償能力があるのなら、会社更生法適用も、国有化も、必要ありません。
     「異常に巨大な天災地変による免責規定」により4.国民(税金)が優先的に損害賠償すべきか、という議論と、東電を破産させてよいか、の議論は関係ありません。
     関東の産業と市民生活を人質にとって、「うちが倒産したら困るでしょう」という姿勢で国に救済を求めるなど、言語道断です。

  5. poteto99 より:

    ともかく、原発の是非を問う際には必ず前提となる十分な情報が必要なので、現時点ではまだはっきりとは明らかになっていない、設計ミス、対策の不備からはじまって、それ以前にそういったミスを生み出してしまった組織の構造の欠陥、それを生み出す要因である責任の所在の曖昧さ、さらには原発利権、それにからむ様々な問題、そうなるに至った経緯などをきちんと調査して情報開示が成されるようにしていく必要があると思います。
    そうしなければ、原発を肯定とする根拠も否定とする根拠も十分な説得力を持たせることができないでしょう。
    これは原発推進派も原発反対派も手を取り合って協力して取り組んでいくべき課題だと思います。
    また、これが十分に成されていない限りは、現在の所、原発の運用に対する信頼性が著しく損なわれているので、原発を引き続き継続させていくのは危険かと思います。(現時点では無理のない範囲で段階的に停止していくべきだと思います)

  6. sudoku_smith より:

    先ほどのコメント、中途半端だったので。

    東京のディーゼル規制の場合、目的は「大気汚染の防止」が目的だったはずで「ディーゼルのPM削減」は重要ではあってもその項目の一つでしかなかったはず。よってこの場合、○年後までに×%削減。と言う目標を掲げれば良かったはず。結果、単にディーゼルが嫌われただけで、
    規制できない大型ディーゼルは残って、しかも技術革新をメーカーがやめてしまい、EU各国の技術(オリジナルは日本であるが)を輸入するはめになってしまった。
     原子力も同じで、どうすれば安全になるのか、例えば万一の事故が起きたときでも避難しなくてよい工夫はできないのか、再処理が必要ない燃料は作れないのか等など、止める排斥するのではなく、どうすれば改善できるのかを考えるべき。そうしても他に比べてデメリットが多いなら止めるというのもアリだが、そうはならないだろう。比較対象にも欠点が多すぎる。

  7. rityabou5 より:

    主張は本当に素晴らしいのですが、結論ありきの部分があるように思えます。本質はどこかをもっと明確に見つめていくべきです。

    一番の本質は「独占は民主主義には似合わない」ということです。

    2番目の本質は「誰が尻拭いをするのか」ということです。「税金の投入」や「電気料金の値上げ」などで事故の尻拭いに国民の金を使うことになるのなら、東電は建前上は「倒産」という形にすべきですね。
    本当に倒産させると影響が大きすぎるので、本当に倒産させるわけではないですけど、建前上は倒産という形にすべきです。
    その上で「特例法」で影響が小さい方式を模索する。

  8. woodcook より:

    国有化前に東電の刑事責任明確化が必要。

    原発のシビアアクシデント時に「ベストを尽くして」対処方策を決定する時間はない。これは事故発生後4時間で炉心溶融に至ったスリーマイル島事故の教訓だ。この教訓からアメリカはシビアアクシデントプロトコルを策定し、様々な要因を考慮した上で圧力容器の設計強度以下でベント実施を決めている。WSJ(http://online.wsj.com/article/SB10001424052748703922504576273234110896182.html)によると、東電でも同じようなプロトコルがあるそうだ。WSJは東電がプロトコルでベント実施を設計強度の2倍程度としていた可能性も示唆している。いづれにしても、(1)東電がプロトコルにどのように明記していたのか、(2)2倍程度としていた場合に容器強度以外に炉心露出などの要因も考慮していたのか、(3)プロトコルがアメリカで策定されたものと同じであればプロトコルに従わず「ベストを尽くして」対処方策を変えた東電の刑事責任を法的に明らかにすべきだ。

  9. ケット より:

    原爆症や水俣病の歴史を学ぶべきかと。

    どれだけ大規模賠償というのが厄介か。
    日本という国がそれを処理することがどんなに苦手か。

    同じことになるでしょうね。被災者が死ぬのを待つ、
    一銭たりとも払おうとしない政府東電と、激しい憎しみ、
    イデオロギーによる地域の分断…忘れる大衆。

  10. worldcomw より:

    東京電力が倒産したらどうなるか、この予想が人によって大きく異なりますね。

    1.数ヶ月から数十年、首都圏で電気が止まる
    2.事前に受け皿会社が用意され、遅滞無く事業が継続される
    3.事業は継続されるが小規模な停電など、若干の混乱がある
    4.事業は継続、計画停電など3月末程度の混乱がある

    どう考えても、2しか有り得ないでしょう。
    もし4になったとしても、それは現在の東京電力と同じで悪くなるわけではない。
    つまり、倒産させても構わないということです。

  11. bizan00 より:

    いつも疑問に思うのですが、池田氏や山口氏は使用済み核燃料の処理についてはどう思っているのでしょうか?

    高レベル放射性廃棄物は300mくらいの地下に埋めておく、ということのようですが、最終処分場の用地確保もまだです。
    核燃料サイクルももんじゅが莫大な金食い虫になりつつなおかついまだに稼動せず、うまく回っているとは言いがたい状況です。

    要するに、今回の事故のようなケースも含めて予想外のコストがあまりに多すぎる気がするのですが、この辺について池田氏も山口氏も、ほかの原発やむなし論者の方が明確に触れて納得のいく答えを出しているのを過分にしてみたことがありません。

    結局のところ、核燃料の最終処分は次世代以降への先送りなところがあり、次世代に負担を先延ばしにしているだけではないのでしょうか?

  12. yamaguchiiwao より:

    使用済み核燃料の処理は原発のアキレス腱だと思っています。しかしながら原発の公式のスキームが原発の後工程としての使用済み燃料の再処理(六ヶ所村の処理工場で行う予定だが上手くいってない)、もんじゅの様な高速増殖炉での再利用と燃料となるプルトニューム製造でこれを公式にギブアップし、ウラン235の使い捨てを確定しないと処理の問題は議論出来ないと思います。個人的には六ヶ所村、もんじゅ共に行き詰っており、最終判断すべきと思います。中東が安定しておれば二酸化炭素に眼を瞑り化石燃料回帰。再生可能エネルギーが使い物になっておればこちらにシフトすべきでしょう。化石燃料は価格暴騰のリスクが高過ぎ、今一方は所詮使い物にならないのが辛い所です。電源の最適化は経済評価とリスクの見極めを総合的に判断し、慎重、冷静に進めるしかないと思っています。
    山口 巌