今、世界で大変な事が次から次へと起こっている。これを知るのに特に高度に専門的な知識など全く必要としない。BBC Newsのトップページを読む。それだけの事である。
その影響が、まるでタイの大洪水の様に、ゆっくりとではあるが確実に日本に押し寄せようとしている。
日本政府は指を咥え傍観するのではなく、リスクの中身を精査しその日に備え対応策を策定すべきである。
先ず、昨日の記事にも書いたが、エジプトが大変な事になっている。軍が選挙の実施を故意に遅らせば、ムスリム同胞団とそれに率いられた市民の反発は必至で内乱に発展しシリア状態になると思う。
一方、選挙を実施すればムスリム同胞団が過半数の議席を獲得する事ほぼ確実で、この場合イスラム原理主義に傾斜し軍が離反し治安の大幅な悪化が懸念される。
いずれにしても、キャンプデービッドの合意は細くて棘の道ではあったが、確かに存在した唯一の中東和平のプロセスであったと思う。そしてその道は、今回間違いなく寸断される事になる。今後、アジア太平洋地区を第一と考えるアメリカ、オバマ大統領が仲介に動くとは思えず平和への道筋は視界不良となる。
チュニジアに始まったジャスミン革命は、あっと言う間に中東全土に拡散し、ツィッターやフェイスブックが多用された事もあって、アラブの春等と持て囃された訳だが実態は実に悲惨である事を再認識する時期に来ているのでは?
火に油を注ぐのはイランである。イスラエル攻撃の野心を隠そうともしない。中東戦争を望まない、アメリカ、イギリスそしてカナダが新たな制裁発動に踏み切ったのは当然である。何れ、イランは暴発するのではないか?
私は、以前より地政学的リスクを高める中東へのエネルギー依存は減らすべきであって、決して増やしてはならないと考えている。
対応としては、短期的には停止中の原発は一日も早く稼働させ中近東の化石燃料依存を減らす事。中・長期的には当初の予定通り原発を新設し、自動車を含む内燃機関をバッテリーとモーターに置き換え、必要電力は原発が賄うべきと考えている。
原発の事故リスクを懸念するのは、福島の事故直後だけに理解出来る。しかしながら、日本人が管理しての原発事故の可能性は中東で戦争が勃発し原油と天然ガスが輸入出来なくなる可能性よりも遥かに小さい。日本人もぼちぼち冷静になり、頭を冷やして何が肝心なのか考えるべき時に来ていると思う。
次に欧州の債務問題である。
実に出口の見えない陰鬱な話である。誰に聞いてみても明るい見通しの答えはない。ギリシャ問題をイソップで読み解くのは、牧歌的で個人的には好みだが、実際如何なものかという気もして来た。
その背景にあるのは、欧州統合はエリート層である汎ヨーロッパ主義者達によって達成されたと言う経緯にあると思う。日本の官僚観ても判る通り、エリートとは思い込みが強く、元来自分の失敗を認めないものである。従って、この危機を契機にさらに財政統合へ向かうが如き暴挙に出るのであろう。
ユーロの危機はユーロに加盟していないハンガリーの様な国を直撃している。ソブリンリスクの高まりを嫌気され国債の利率が跳ね上がり、IMFとEUに金融支援を要請したのである。
どうもユーロの危機によって、欧州でリスクを引き受ける存在が居なくなってしまった様である。
寡聞にして、日本が欧州の危機をどの様に捉え、最悪の場合を想定し如何なる対応を考えているのか知らない。政府は今月中には国民に対し説明すべきと思う。
最後はアメリカである。
11月23日締め切りのスーパーコミッティーはナシのつぶてで危惧していたが、案の定米議会の超党派委員会が決裂している。今年8月にS&Pが米国債の格付けをAAAからAA+に格下げした理由として、「アメリカ政府に債務返済能力がないとは思わないが、議会は明らかに合意形成能力を失っている」と指摘した経緯がある。
アメリカ国債は日本の国債等とは違い、世界唯一の超大国アメリカの、ある意味顔である。従ってスーパーコミッティーは何が何でも11月23日の締め切りを守るべきであった。これで、S&Pの見立ての正当性が立証され、結果、ムーディーズやフィッチなど、他の格付け会社も右に倣え、格下げになると思う。
アメリカの失うものは本当に大きいし、それを何とも思わない議会は問題である。そもそもの話であるが、Tea Partyの如き胡散臭い政治集団の台頭も議会の脆弱化があっての話であろう。
アメリカは言うまでも無く日米同盟のパートナーである。そのアメリカの議会の劣化は今後日本に有形無形悪しき影響を与える事危惧される。日本政府は当然の事ながらそれにしっかりと向き合う必要がある。
山口 巌 ファーイーストコンサルティングファーム代表取締役