目的・用途と技術・周波数がスパゲッティのように絡む電波監理

山田 肇

電波免許は目的・用途と技術・周波数を指定して与えられる。電波法関係審査基準別表1(第3条関係)によって目的は107、用途は319に区分され、技術(無線設備規則に関係する告示)は140も存在する。たとえば「鉄道軌道事業用」という目的の下には、次に示す14の用途がある。

鉄道事業用(列車防護警報) 鉄道事業用(貨客車の安全運行) 軌道用 貨客運送事業用 地方鉄道用 乗務員無線用 保線作業用 列車無線用 列車接近警報用 構内入換作業用 踏切道上障害物探知用 新幹線架線延線作業用 新幹線接近警報用 鉄道事業用・電気通信事務用

なぜ、このように細かく区分するのか。「乗務員無線用」や「保線作業用」があるのはまだしも、別概念の「地方鉄道用」という用途が存在するのはなぜか。提言型政策仕分けの際に質問したところ、電波部長は「混信すると困るから」と回答した。幹線では混信を避けるため乗務員無線と保線作業に別々の免許を与えるが、混信の恐れは少ない地方鉄道用については一つの免許にするということだ。


「国家行政用」という目的の下が、次に示す25の用途に区分されているのはなぜか。電波部長は「混信」のほか、「免許条件を変更すると発生する機器更新費用を政府機関は賄えないから」と回答した。

検察用 官公庁用 税関用 検疫用 麻薬取締用 入国管理用 国税用 労働基準監督用 公安調査用 矯正管理用 電気通信監理用 外務行政事務用 国会事務用 防災用(内閣府) 運輸関係災害対策用 外交用 外国公務用 電気通信規律用 厚生事務用 食糧事務用(農林水産省) 北海道開発事業用 測量作業用(国土地理院) 林業用(林野庁) 公園管理用 放射能汚染管理用

これが電波管理の実態だ。数十年前、電波利用が広がっていった時期に利用されていたアナログ技術では混信は不可避だった。そのために、この用途はこの周波数でこの技術を用い、あの用途はあの周波数であの技術を用いるというように、目的・用途と技術・周波数の数を無計画に増やした。その結果、一つひとつの目的・用途と技術・周波数に対応する市場の規模は小さくなり、機器は高額化し、更新が進まない。周波数は細分化されて割り当てられているので整理統合もできない。

携帯電話では大勢の利用者が同じ技術で同じ周波数を利用しているが、混信など起きていない。これはデジタル化の恩恵なのだが、107の目的、319の用途、140の技術の大半は依然としてアナログだ。これでは電波が有効利用されるはずもない。その結果、スパゲッティの絡み方を理解できる、電波村に住む特別な人々だけに電波が独占されてきた

僕らが仕分けで要求したのは、電波管理を透明化し民主化する抜本的改革である。この改革は、電波部に委ねられるはずもないので、行政刷新会議が直接進めるしかない。

山田肇 - 東洋大学経済学部