本当のことが言えない政治家

大西 宏

録画していた日曜日の「新報道2001」報道ステーション・サンデーを見て、思わず苦笑してしまいました。民主党から大塚さん、自民党から世耕さん、みんなの党の浅尾さん、さらに大阪から中継で中田元横浜市長が出席していたのですが、各政党の方々は現状への認識や意見はほぼ同じで、争点といえるものがありません。にもかかわらず政治は動きません。意見にさほどの違いもないのにもかかわらず、それぞれの方がまた党に戻ると、再びたがいに争い、政治を停滞させることが繰り返されるのだと思います。そうして、相手の敵失を狙う議員がでてきます。これがプロ野球なら、エラーばかりやっているチームと相手のエラーでしか得点がとれないチームの試合ばかりだとだれも見なくなります。


大塚さんと世耕さんは、協力して成立させた法案も多いとおっしゃっていました。しかし、それは言い訳としか聞こえてこないのです。説得力に欠けます。むしろ感じるのは、どこの政党に属しているかで考え方が違うのではなく、政党内部での考え方の違いのほうが大きく、民主党も自民党も、まともな政策を立案する機能が働いていないということです。

企業にとって危険なのは、時代や市場の構造変化を見ず、それに見合った戦略を立てない、また次の手を決められないことです。それで日本のエレクトロニクス産業は壊滅的な打撃を受けてしまいました。政治も同じです。確実にやってくる核心となる課題に対して正面切ったチャレンジ、日本の戦略が生まれてくる気配すら感じません。
神戸大学の三品教授によれば、エレクトロニクス産業の場合は、誰に何を売るかの戦略目標そのものが間違っていたということですが、民主党も自民党も政党がなにの実現を目指した政党なのかがよくわからない政党になってしまったために、総崩れ現象を起こしていると感じます。

日本エレクトロニクス総崩れの真因 大同団結や徹底抗戦は愚の骨頂 神戸大学大学院経営学研究科教授・三品和広|DOL特別レポート|ダイヤモンド・オンライン :

日本のなかで大きな課題はなにかというと、根は人口問題にたどり着きます。財政立て直しがきわめて困難なのは、稼ぎ手である労働人口の減少と、高齢化による社会福祉費の増大が最大の原因です。

日本の成長力がなくなってきたことも、もちろん産業の構造改革ができないこともありますが、やはり若い世代の人口が減少し、そういった産業の変革の担い手が減ってしまったことです。そういった構造がある限り、日本発のイノベーションを起こし、稼ぎを増やすしかないのですが、そのパワーが衰退し始めてきています。

ちょうど、週刊ダイヤモンドの「3分間ドラッカー」の連載記事のなかで、高齢化社会そのものの問題や、経済、政治を論じたのはドラッカーの『見えざる革命』が高齢化社会そのもののあり方について真正面から論じた最初の文献だとし、「政治家や官僚や学者は高齢化社会と真正面から向き合うべき」というタイトルになっています。高齢化社会は、避けることができない、また確実にやってきている近未来です。
政治家や官僚や学者は 高齢化社会と真正面から向き合うべき|3分間ドラッカー 「経営学の巨人」の名言・至言|ダイヤモンド・オンライン :

しかし、政治が、目先の改善、地元や支援組織への利益誘導、短期的な景気対策による得点稼ぎに走ってしまっているのです。そろそろそんな政策で、日本が抱えている課題の解決にはなんの役にも立たないのです。

野口悠紀夫教授が、消費税の5%の値上げで改善効果は2年程度しかないと書かれていますが、いまの社会福祉費の増加に追い付けないことは誰が考えてもわかることのはずです。おそらく現状のままを放置すれば、30%とかの消費税が必要になってくるとの試算をしている人も決して少数ではありません。算数の問題なので、とくに争点にもなりません。

財政を出動して、公共事業を増やしても、消費の担い手となる人口が減少していくこと、また一部の産業を除いて、日本の産業の競争力が落ちてきている状況では、カンフル剤の効果しかなく、その反動のほうがはるかに打撃になってきます。

経済は成熟し、しかも高負担、低保障の国になってしまう危険性を日本は抱え始めています。しかし、そのことをまともに主張することが政治家は怖いのでしょうか。オブラートに包んででも、本当に日本が変わらなければならないことをもっと議論しあい、解決のための政策が生まれてくる仕組みづくりから始めるほうが近道のようにも感じます。

そういった日本の人口構造の変化を前提として、人口増に支えられた時代の構造を引きずっている日本をどう改造するのかの理念や価値観で束ねられている政党は日本には残念ながら見当たりません。自民党からも新しい発想は生まれていませんし、民主党は自民党と対抗する政党でしかありません。

自民党の世耕さんが、自民党を改革する必要性があるとおっしゃっていましたが、農村利権と地域への利権誘導を第一に考える人と、そうでない人がまとまるわけがありません。それは民主党にも共通していることです。それよりは、本当の問題提起を国民に言え、また解決のベストの政策を堂々と訴えることができる、新しい器をつくることに尽力されたほうがはるかに有意義であり、社会に貢献できると思います。