日本農業よメイドバイジャパンで世界で勝負せよ

田村 耕太郎

日本有数のイチゴ生産者と会食した。「田村さん、農業って特殊な産業に思われているかもしれないけど、単に製造業なんだよ。農業の大敵はなんだと思う。農業の敵はエネルギー価格なんだよ」と切り出された。

農業は大量の重油や電力を消費する製造業なのだ。今の資源価格の上昇はかなり日本の農業者を苦しめている。「またこれから電気代が上がっていったら致命的だよ」という。


日本の競争力ある農業者の間では「これだけ人件費とエネルギーコスト高いところで勝負すべきか?」との思いが芽生えているという。遠藤社長は「当たり前だよね。だってわれわれは製造業なんだから。トヨタや松下がやっていることをやるのは当然だよ。安く作れるところで作って高く売りたいんだよ」と語る

円高の今こそ海外へ日本の農業者が世界へ出るべきだと思う。日本の農業者の技術力は高い。これが海外の土地代と人件費と気候とスケールで活用できたら怖いものなしだと思う。この社長はすでに中国で生産基盤を整えており、アメリカやアジアも生産拠点として想定している。

果樹や野菜の生産の適性と後背市場の規模考えたらアメリカ西海岸は魅力的だと思う。気候が安定した乾燥地なので病害虫がおらず風水害もない。寒暖の差があるので甘みが増す。アメリカでは日本の果樹や野菜の需要が大きい。アメリカで作ってから中国への輸出もおもしろいらしい。中国で生産する場合、農業技術を守るのはリスクが高い。加えて、弱腰の日本政府と違って、強面のアメリカ政府が相当バックアップしてくれるそうだ。中国でも若い世代や海外経験者は美味しくて安全な野菜や果物に高いお金を払う傾向が強い。

アメリカには効率的な企業経営型の農業の“パーツ”がたくさんある。農業に関しても、財務、マーケティング、生産等各分野で労働市場にプロがいる。企業的農業の歴史が古いアメリカでは、農業経営に精通したMBAや弁護士が市場にいる。彼らをパーツに企業的農業が組み立てられる。それをグローバル展開できる。日本では、財務やマーケティングや商標権保護を想定した経営的農業はようやく始まったばかりだ。

これからの日本の農業市場を考えれば“外に出るより、外に出ないリスク”の方が大きいと思う。市場はどんどん縮小する中、悲しくも小規模の農業者がつぶしあっている。

農林省は高齢者の自給的農業も入れて、「日本の農業者がいかに高齢化していて彼らを救わないといけない」との統計を出している。その一方、経営的農業やっている農業者の平均年齢のデータはない。

私が会った経営的農業をやっている若手は違う意味で日本の農業者の海外展開促進を訴える。「高齢者が元気でいつまでもやめないから後進が育たない。後進を自立させて育てるためにも高齢者こそが海外に出て欲しい」という。「日本の高齢農業者こそ世界展開に向く。多くは山や森をゼロから開墾して、何もないところから農業をやってきたたくましい世代。かれらこそガッツがあり、世界どこでも活躍できる経験を持っている」と続ける。

オーストラリアでは日本の農業者への期待が高まっている。農業者が不足しているのだ。その背景にはあるのは資源バブル。資源掘削に人手が回っているのだ。資源の方が今は安定して儲かるらしい。豪州は水が高い。最近では干ばつが目立つほど気候が不安定なので、農業が敬遠されているのだ。さすがにこれだけ自然条件が厳しいと日本の農業者も二の足を踏んでいる。

中国の問題は品質と安全性。だから日本の生産者が待望されている。例えば豚。中国の豚は“まずい”らしい。なぜかというと出荷直前に大量の水を飲ませるから。豚の体重を重くして高く売ろうとするかららしい。他にもイチゴも問題になっている。イチゴにもホルモン剤をかけているという。例えば、理由は解明されていないが、排卵抑制剤をかけるとイチゴが大きくなるという。安全性は証明されていない

宗教上の理由からベジタリアンが多い中東やインドでは日本の美味しい野菜の需要ある。気候が過酷なインドや東南アジアでも高原があるので、そこの気候なら日本の農業者が力を発揮できるようだ。

これからは海外で食糧生産をビジネス化する時代だ。今の日本農業の技術に金融やマーケティング等を導入し、企業的経営農業できれば日本農業は世界で競争できると思う。そして世界で勝った農業者が、そのやり方を日本に持って帰れば日本の農業は変わる。

日本は農水省が日本の農業弱くしている。農水省の予算として補助金獲得をするためには農家を弱いままにしておく農業政策が必要。イギリスでは10年以上前に農水省は経産省の下に統合された。農商工連携とか6次産業化とか農水と経産の縄張り争いはどうでもいいから、経営的農業を進めるべきだ。

世界で最も企業的な農業をやっているのがオランダ。彼らはあらゆる先端技術を導入し、予見可能で持続可能な農業のみやる。オランダの農業者は作物ができ過ぎた年は農業をやめる。儲からないからだ。そしてその代りに世界中に出かけていき、農業コンサルタントとして食べていく。また、オランダの農家はオランダの土地と農業施設と技術をセットで海外の投資家に売っている。そして、そのお金でロシアに乗り込み、ロシアで効率的農業を普及させ儲けている。農業技術と農業インフラをパッケージにして世界に売っているのだ。オランダは農業で世界を制し始めている。

優れた農業技術を持つ日本。今こそ、まだ円が相対的に高い今のうちに世界に出ていきメイド・バイ・ジャパンで勝負してほしい。そして強くなって日本に帰ってきて日本の農業を変えて欲しい。