5月2日に、川端総務相が出張先のロンドンで「今後国際的に普及の拡大が予想されているスマートテレビの国際規格作りを日本が主導していく」と記者団に語った、という報道があった。多田光宏さんは「日の丸スマートテレビ(笑)」と題する5月4日のアゴラの記事で「馬鹿か」とこれを痛罵した。松本徹三さんも5月14日の「どうすれば『スマート』になれるのか」で、「この様な発想が出てくる事自体、日本国の上層部が未だに問題の本質を一向に分かっていない事を如実に示している」と書かれている。
僕も総務省の知り合いに問い合わせた。メールには「1980年代後半にNHKがMUSEを標準化しようとしたころから、テレビ関連では『日本主導』という表現は、いらぬ警戒を生んできました。それを繰り返すことが心配です。」と書いた。
知り合いからの返信は、何と「総務大臣はそんな発言はしていない」というものだった。大臣は、「日本は早くから手をつけるが、気がつくと孤立して、世界の標準が違うところで動き出し、ガラパゴス化してしまう苦い経験がある。スマートテレビでは、それを避けたい。」と世界と協調していく姿勢を話したのだという。僕は、それが真実ならば総務省サイトの『大臣会見・発言等』に今からでも正確な発言を掲載したほうがよい、とアドバイスしておいた。
昨年いくつもの記事(たとえばiPhoneに関する記事)で指摘したように、『日本の技術は一流』を前に出して読者におもねる『日経産業新聞症候群』がメディアにあるようだ。日刊工業新聞の4月19日付け社説にも次の一文がある。
日本企業が自社技術を国際標準にすることで、高いシェアを獲得している事例は少なくない。デジタルカメラをはじめ、特殊なスイッチや顔料などはその代表例だ。こうした事例が増え、日本が持つ優れた技術が世界中に普及し、企業の利益に結びつくとともに、世界の産業に貢献できれば素晴らしい。この流れに大企業だけでなく、中堅・中小企業も乗っていけば、一層日本のモノづくり力を世界に示せるようになるであろう。
しかし、そもそも、昨年「日本の科学技術が劣る理由」に書いたように国内では研究自体がガラパゴス化しているから、『日本発の技術』と海外に売り込んでも拒絶される恐れのほうが強い。
必要なのは、世界と協調し世界中の技術を集めて、競争下で新しいビジネスを作り出す努力だ。総務大臣がロンドンで言及した国際シンポジウムとは『Symposium on Web and TV』のことだそうだ。その場が『日本発の技術』の押し売りに終わるか、協調と競争の両立を打ち出すものになるか注目したい。
山田肇 -東洋大学経済学部-