ロジックに先行する感覚。感覚を受け入れない組織。―@toriaezutorisan

村井 愛子

その昔、私がアバターサービスを担当していた頃の話です。アバターというのは、ご存じのとおり、自分の分身の人形に好きなファッションを着せて楽しむサービスです。会議の場で、担当者の女子がこんなことを言いました。

「そもそも、このアバターの顔自体が可愛くないから、もっとカワイくした方がいい。」


それに対する上司や周囲の人たちは、

「カワイイとか、そういう抽象的な言い方を止めて、みんなに伝わるようにちゃんとロジックで話して。」

というコメントを返しました。しかし、その担当者の人は「むむむ・・・」と言葉に詰まってしまい、そのまま次の議題に移りました。その時、私は胸につっかえるモノを感じつつ何も言えなかったのですが、それから数年以上経った今、やっぱりその女子が言う「だってカワイクないんだもん」は100%正しいと思うわけです。
可愛いか可愛くないかというのは、“感覚”の話です。これって右脳的なことなのかもしれません。じゃあ、それをロジックで説明しろというのは左脳的な話です。カワイイを分解してカワイイに不可欠な客観的要素を列挙することがロジックで説明しろということです。

じゃあ、カワイイに不可欠な要素って何?

小動物は目がクリクリしてるから“カワイイ”と感じるとしたら、目が大きいことがカワイイの条件?
いや、でもりらっくまもカワイイの代表だけど、目はそんな大きくなかったりする。
笑顔の方がやっぱりカワイイ?確かにディズニーのキャラクターはだいたい笑顔だけど、LINEスタンプのクマは無表情だったりする。
さらには、人によってはイグアナとかを「カワイイ」って表現したりして、別の人が見たらそれは「カワイくない」わけです。

色々考えると、カワイイに不可欠な要素なんてないのです。カワイイはあくまで感覚で判断するもの。パっと見た時に、対象物からいくつかの要素を受け取って、脳の中のブラックボックスに入れられた後、瞬時にカワイイかカワイくないかを判断しています。だから、じゃあ何がカワイイの?って言われても説明が出来ない。だってカワイイって思ったから、としか言いようがないわけです。つまり、そもそもカワイイはロジックで説明出来なくて当たり前です。

だから、さっきのケースの場合、みんながカワイクないって感覚で思うのであれば、「カワイイ」って感覚で思えるようになるまで色々作ってみる。というのが正解なのだと思います。

しかし、こういう感覚の話をすると、会社組織では100%「それをロジックで説明して」ってなるのが普通です。それに加えて「それって、個人の感覚の話でしょ」と、切り捨てられたりもします。
でも、実際にユーザーが触る時は、サービスをロジックで見ません。(当たり前ですが。)サービスに触り、「個人の感覚」を以って瞬間的に良いか悪いかを振り分けます。

だから、感覚でモノを言うって、自然なことだと思うのですが、これが本当に本当に会社組織では受け入れられなくて「めんどくさいなー」と思うことが多々あります。想像するに、日本の会社って合議制で全員一致しないとモノゴトを前に勧めたくないので、全員が理解できて、手にとれる「ロジック」というモノが必要になってくるんだと思います。失敗した場合も、「ロジック上ではこうでした。しかし、これこれこうだったので、失敗しました」という明快な説明がつくので。

でも、スマートフォン時代になって、よりこの「感覚」でモノを感じることが重要になってきました。画面に触れると画面が動いたり、指でなぞると画面が遷移する。これはユーザーにとって完全に感覚で操作している状態になります。よくアプリとかを作っていて、UI・UXの話になるとロジックの話に入り込みがちなのですが、最近それってあんまり意味ないなという風に思うようになりました。
実際にモックを作って触ってもらうと、みんなすごく感覚的に触っているのです。一通り触ってもらった後に
「今、なんでそこをタップしたの?」
とか、色々聞いてみても
「なんとなく、目についたから」
と、たいてい感覚でどんどん触っていくという印象を受けます。みんな画面を見た際に、一瞬のうちに感覚で分かりやすいかどうかを決めているのです。
なので、ロジックで議論する前に、どんなモックでも良いからとりあえず作ってみて、感覚で触ってもらったものを少しずつ改修していった方が早いなと思うようになりました。

これからも、何かを作る時は感覚を大事にして、感覚でモノを言えたらな思いますが、今のところほとんどの企業はロジック神話が浸透していて、そういうことを言いだすと鼻で笑われたり村八部になりかねません。個人的には「理由は分からないけど、コレは良いと思う。」とか「理由は分からないけど、これは嫌」みたいな感覚の意見を参考にしていきたいなと思います。
などと考えると、今のところモノ作りをするのは、感覚で話せる個人同士で色々作るのが良いのかなと思っていたりします。

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