米雇用統計、12月テーパリングの決定打とならず --- 安田 佐和子

アゴラ

米11月雇用統計・非農業部門就労者数(NFP)は前月比20.3万人増となり、市場予想の18.5万人増より強い結果でした。前月の20.0万人増(20.4万人増から下方修正)と合わせ、2ヵ月連続で20万人乗せ。増加幅は、3ヵ月ぶりの高水準を示しています。失業率も、市場予想の7.2%を下回る7.0%。前月の7.3%以下となり、2008年11月以来の7%割れを視野に入れました。失業者数が前月比36.5万人減と、前月の1.7万人増から反転し失業率の低下に寄与。就業者数も政府機関の閉鎖の余波で前月に73.5万人減だったものの、今回は81.8万人増と好転しています。マーケットが注目する労働参加率は1978年以来の低水準を示現した前月の62.8%から63.0%へ上向きました。

ただし、世論調査をみると12月テーパリング予想へ傾いておりません。

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(Marketwatch調査、現地時間午後3時過ぎ時点)

なぜかと申しますと、

1)6ヵ月平均は18.0万件で、QE縮小の地ならしを開始した5月時点の20.3万件以下に

2)製造業がNFPの雇用を押し上げた一方、ホリデー商戦直前でもサービスは伸びを縮小

3)平均労働時間は34.5時間と8月の水準を回復したが、政府機関の再開が寄与

4)時間当たり労働賃金は2.0%の上昇と、前月の2.3%から鈍化

ざっと以上の要因がテーパリング観測を抑えています。

バークレイズのマイケル・ギャピン米エコノミストは、今回の結果を踏まえ「製造業の雇用増加は、1)ISM製造業景況指数、2)在庫投資の急増、3)高水準にある住宅投資──と整合的」と評価。同社の門田真一郎・為替ストラテジストも「年末・年始は製造業の雇用増加が顕著となる季節性がある」ため、製造業が強い雇用の伸びを維持するかは微妙な情勢との見方を示唆していました。

失業率の低下は、確かに失業者数の減少に加え労働参加者が増加する好結果だったといえるでしょう。ただしNFPが事業調査が給与支払いデータを元に算出する一方で、失業率を担当する家計調査は戸別訪問式とあって、政府機関の閉鎖後というかく乱要因は見逃せません。政府機関の閉鎖で一時帰休となった契約社員が調査で「失業中」と回答し、政府機関の再開後に「就業中」と変更させた可能性を残します。ギャピン氏も「家計調査で一時的解雇中と回答してい労働者は44.8万人増だったが、11月には37.7万人減少していた」と指摘すると同時に、経済的な理由でパートタイムで勤務する不完全雇用者数も「10月に10.4万人増加したが、10月には34.5万人減少している」と分析していました。

政府機関の閉鎖・再開の影響が色濃くにじむため、信憑性が低いというワケです。

ダウ平均は12月観測が巻き戻されリスク・オン、3日ぶりに16000ドル台回復。

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(出所 : medioposterior4.rssing.com)

以上を踏まえてギャピン氏、米連邦公開市場委員会(FOMC)の量的緩和(QE)縮小開始の予想を「2014年3月で据え置く」とまとめています。理由として1)失業率の数字は政府機関再開に伴う余波で労働市場の実体を反映していない、1)米7~9月期国内総生産(GDP)の上方修正は在庫投資が主因で1~3月期に反動が出る可能性、2)PCEコア・デフレーターの低迷──を挙げました。

シカゴ連銀のエバンス総裁も雇用統計後、12月の開始への柔軟性をもたせつつ「数ヵ月の数字を待ちたい」と引き続き急がないスタンスを打ち出しましてましたね。

2014年3月の開始を予想していないエコノミストも、見通しは変えておりません。

JPモルガン・チェースのマイケル・フェローリ米主席エコノミストは、「過去2年間で450万人の雇用を創出した半面、労働参加率は低水準をたどる」と指摘していました。とはいえ、「FOMCは(ベビーブーマーの退職とともに)労働人口が減少トレンドに入ったと認めざるをえなくなるだろう」と予想。失業率が7.6%だった6月のFOMC後の記者会見で、バーナンキ米連邦準備制度理事会(FRB)議長は7.0%がQE縮小の目安と発言していた背景もあり、「17~18日のFOMCをQE縮小もありうる」としつつ「基本シナリオは14年1月」で据え置いてます。

それでも、筆者は3月観測を支持します。

米10月個人消費支出を振り返り、BNPパリバのイリーナ・シュヤルティバ米エコノミストは市場予想の0.2%増に対し0.3%増だったため、「7─9月期の1.4%増から10─12月期は1.8%へ上向く可能性を示す」と予想しました。ただし、コアPCEが米連邦公開市場委員会(FOMC)の目標値「2%」を大幅に下回っていると指摘。米11月雇用統計の結果と合わせ、「量的緩和(QE)縮小の予想を2014年3月で据え置く」とまとめています。米10月個人所得の減少については、特殊要因を挙げている。1981?1996年の農場不動産ローン申請で米農務省による人種差別があった問題で和解に応じ、9月に支払いが発生したことが一因でした。とはいえ、賃金自体も賃金・所得が前月の0.4%増を下回る0.1%増となっています。貯蓄率も前月の5.2%以下の4.9%で、前年同月の5.0%にも届きませんでした。消費ののりしろがせばまってきた感もあり、「コストが利点を上回らない限り」テーパリングに急ぐこともないでしょう。


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2013年12月7日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった安田氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。