雑誌『POPEYE』が12年ぶりにデート特集を組んだ。Facebookでつながっているアラフォー男子の間で話題になっていた。もちろん買った。
夫婦で仲良く広げて読んだのだが、率直に違和感しかなかった。私たちは、いつまでこんな恋愛資本主義に踊らされるのか。
10代から20代前半にかけて、私は『POPEYE』と『ホットドッグ・プレス』を両方を、ほぼ毎号買っていた。前者はその後、何度かリニューアルして残っている。後者は一度休刊し、リニューアルしたが、やはり休刊になった。私は圧倒的に後者を支持していた。『POPEYE』独特のリア充臭、おしゃれ臭が苦手だったのだ。欲望を丸出しにした、『ホットドッグ・プレス』の方がフィットしていた。か弱き子羊たちに「ソープへ行け!」と吠える、北方謙三先生の人生相談コーナー「試みの地平線」はもちろん愛読していた。
それぞれ自分の生活とはかけ離れた世界が描かれていたものの、とはいえ、私はこの2冊をよく読んでいた。そこにはキラキラした世界があった。いつか魔法がとけてしまいそうな危うさも感じていたのだが。
さて、『POPEYE』だ。この雑誌は、00年代に入るころから、ファッション誌のようなものになっていたのだが、2012年6月号からリニューアルし「Magazine for City Boys」という創刊当初のコンセプトに戻った。
率直に、面白くなったと思う。年齢不詳の雑誌ともいえ、「男の子」がドキドキするものになったと思う。ハワイやニューヨーク、大人の男子特集などは私も購入したし、大変に面白いものだった。
ただ、12年ぶりという触れ込みの、このデート特集はどうだろう。
おしゃれだ。『ホットドッグ・プレス』的なエロ臭はない。情報も満載だ。しかし、読んでいて疲れてしまった。デートとは、ここまでやらなければならないものなのか。例によって出てくる男女のリア充臭、美男美女臭、カルチャー臭もやり過ぎ感があり、共感できない。いや、おそらく私が単に中年になったからかもしれないのだが。
私たちはいつまで恋愛資本主義に踊らされるのか。
ちょうど昨日、大手広告代理店の方と会っていたのだが、その時にもこんな話題になった。
「恋愛ドラマが、不調なんだ・・・」
よく見ていないので、具体的にはわからないのだけど。恋愛資本主義なんて、所詮フィクションだったのではないか。
そんな中、衝撃のニュースが入ってきた。モテない人の明るい未来を築き上げるべく、非モテ同志の連帯を呼び掛けてきた革命的非モテ同盟が、クリスマス粉砕デモを2年ぶりに決行するというではないか。「米国帝国恋愛資本主義の陰謀に赤と緑と青色ダイオードで血塗られたリア充文化の極みであるクリスマス」(同団体HPより)を粉砕するべく、12月22日に渋谷の街をデモ行進するという。
12月28日にはクリスマス粉砕記念祝賀忘年会なるイベントも開くという。革命的非モテ同盟・革命評議会議長 MarkWate氏の他、赤木智弘氏、イケダオソト氏が登場するという。
クリスマス・イブに入籍した私たち夫婦にとっては、複雑な心境にならざるを得ないムーブメントであるが、恋愛資本主義に対して抗う姿勢を強く評価したい。世の中には、オルタナティブが必要だ。
この恋愛資本主義に踊らされた、アラフォー男子の憂鬱をこのたび、赤木智弘氏、速水健朗氏、おおたとしまさ氏と1冊の本にまとめた。かわいそうなロスジェネと言われつつ、「最後のマス」である私たちはどれだけ消費のターゲットにされたのか。ビールを飲む世代として何度も恋愛を描いたビールのCMに踊らされ、ガンダムや90年代ドラマ名曲集を何度も買わされ、「もう一度妻を口説こう」(いない奴も多数)なんていうキャッチコピーに踊らされた喜怒哀楽がここにつまっている。
先日、このコラムでも紹介した酒井順子さんの『ユーミンの罪』もまた、実はユーミン的恋愛資本主義に踊らされた、日本のキラキラしていて、でも、残念な恋愛の歴史がつまっていたのだと解釈している。
恋愛と言えば、最近ではこの本が話題だ。植島啓司氏の『官能教育 私たちは愛とセックスをいかに教えられてきたか』(幻冬舎新書)である。いわゆる愛人論であり、内容に共感するかどうかでいうとしないのだが、ここには洋の東西を問わず恋愛の歴史、すなわち人類の歴史があり、私たちの恋愛観がいかに浅はかであるかがわかる本である。
恋愛のルールも変わっている。いま、時代はちょいブスだ。オアシズ大久保佳代子やHKT48指原莉乃の大ブレークなどがそれを物語っている。女子力よりもブス力である。そんな実態を紹介した本を出したら、まったく売れなかったのだが。
恋愛のルールは確実に変わっている。黙っていても、恋愛資本主義にはみんながひいていると思うのだけど。
恋愛資本主義というフィクションに踊らされてはいけないのだ。