タイトルをどうするか、いつも悩みます。極力冷静に本文を読んでもらえるタイトルを考えているつもりなのですが、難しいですね。
今回は自分なりの論点整理です。誰かの投稿に対する反論、というつもりはありません。
現状の地方税制度は自治体間格差がありすぎる
ここで書きましたが、現在の市町村の税収は、固定資産税や市町村民税が中心になっています。今の制度では、富裕層が多い市町村とそうでない自治体での税収能力に大きな差ができます。
市町村の役割の第一は、道路や水道など住民の基本的な生活サービスを提供することです。だから、人口に比例する税制が理想的なのですが、実際はそうではないので、地方交付税制度を使って、裕福な地域から貧乏な自治体への財政移転を行っているのです。
ここに不満が出るのは仕方がないことです。東京23区内でも、港区の住民が、港区民が払った税金を足立区で使うのはけしからん、足立区に住民サービスは不要だ、充実した住民サービスを受けたいのなら、足立区じゃなくて港区に住め、という意見の人は多いでしょう。私も東京で最後に住んでいたのは港区なので、気持ちはよくわかります。ちなみにその前は墨田区に住んでいました。
そういう意見を減らすためには、最初から人口に比例する性質の税を地方税にあてればいいのです。
消費税収は人口に比例する
私はここに書いたように、地方税の中心は消費税にして、財政移転は一切ナシにすればいい、という考えです。
都道府県別の1人あたり地方消費税の税収については、ここを参照下さい。リンク先は都道府県間の格差をどう是正すべきか、という技術的な話ですが、本稿ではその内容には触れません。単純に現状で都道府県間にどれだけの格差があるかにだけ注目します。
リンク先の図1を見て下さい。一番税収の多い東京都と少ない沖縄県の間でも、格差は2倍以下です。『一票の格差』じゃないですが、2倍以下ならそう文句も出ないのではないでしょうか。
この図を見てわかるのは、一番得をしているのが東京都、割を食っているのが神奈川県だということです。神奈川県の住民が大量に東京都内で買物をしているためで、神奈川県に限らず、東京都の周辺県はみんな割を食ってます。そこは関東の中で調整して下さい。九州の人間も東京で消費しているから、東京都の消費税収を九州に少しは回せ、とは言いません。
そして、関東で調整して東京都の1人あたり地方消費税収が下がれば、最高の東京都と最低の沖縄県との差が1.5倍位には縮まりそうです。あとは都道府県ごとに配分された地方消費税を都道府県の責任で市町村に配分するようにして、地方交付税制度は廃止し、財政移転をなくせばいいのです。税収差2倍3倍は当たり前の現行地方税制と比べれば、私は「公平」だと思いますが、いかがでしょう。
小規模自治体の「不経済」、拡散による「不経済」
小規模自治体になると、役所の管理コストが占める比重が高くなってしまいます。人口数千人数百人の自治体に、わざわざ首長を置いて議会を置いて職員を配置して云々云々、の必要性があるのか、ということです。この部分に予算を割かれると、住民サービスが低下します。
地方税を消費税中心にして、財政移転無しという地方財政制度にすれば、ここをどうするかは、完全に地方に任せていい、ということになって、すっきりします。住民サービスに回せる予算が足りない、となれば、隣接市町村との合併を選ぶしか選択肢はありません。
また限界集落の隅々まで公共インフラを整備できるか、ということも、住民が決めるべきです。行政は、小規模な集落まで水道管引けませんよ、道路の整備も厳しいです、それが困るなら自分たちで何とかするか、中心部に移住して下さい、とハッキリ言えばいいのです。昔は集落の人が自分たちで井戸を掘ったり山水を引いたりていました。こういう限界集落に住めるのは、イケダハヤト氏のような財力がある人だけ、という地域社会を目指せば問題ありません。
人口推計は現在の人口動態に基づいたもの
この手の議論では、国立社会保障・人口問題研究所の将来人口推計がよく使われますが、この人口推計は、あくまで現時点での人口動態をもとに将来予測をしているということに注意しなければなりません。将来、現在と違う人の動きがあれば、予測とは大きく違う結果になります。
例えば65歳以上のリタイア組による、大都市から地方部への人口移動が加速すれば、地方部は今ほどの人口減少は進まないということになります。高齢化は進みますが。もちろん、イケダハヤトさんのような若い人の動きが大きくなれば、劇的に結果は変わります。
だから、過去にとらわれることなく、現在どう動いているのか、常に新しい動きに着目することが重要です。
これに関しても、私見をいえば、以前ここに書いたように、ある程度の人口集中が維持できるのは、東京・大阪・名古屋の3大都市圏と福岡までじゃないかな、と思ってます。
コンパクトシティの流れがあるなら加速させればいい
現在、長崎市でも中心部への『都心回帰』の動きが強まっていて、長崎市中心部には「ここは香港か」と思う位、狭い平地に高層マンションがどんどん建っています。これは十数年前には予測できなかった動きで、周辺自治体の将来人口推計に大きな影響を与えています。
長与町という、長崎市に隣接する自治体があります。ここは長崎市のベッドタウンで税収も豊かだったために、長崎市との合併を拒否しました。「合併しなかった」ではなく、敢えて「合併を拒否した」と書きます。
ところが長崎市中心部への回帰現象が強まると、どうなるでしょう。
先に書いた通り、将来人口推計は「現時点での」人口動態をもとに計算されます。子育て世代の人口流入をもとに推計された将来予測値と、人口流出をもとにした将来予測値では、大きな差が出るのは明白です。今になって長与町はあわて出しているようです。
もちろん将来のことはわかりませんが、今後も中心部への人口集中が進むのならば、これを加速させることに税金を使って早く長与町の息の根を止めてあげた方が、長与町に悪あがきをして無駄な税金を使わせるより、いいことでしょう。
水谷さんは富山市の事例を出して、「上からのコンパクトシティ」は良くないと主張されています。富山市の場合は国に押し付けられているというより、市長が国を動かして(特にLRT整備は、富山市長が国を動かして新たな法律を作ったと市長自身が言っている)コンパクトシティ化を進めているように見えます。富山市の詳しい事情は知らないので的確な評価はできないですが、ある意味首長がトップダウンで政策を進めている点で「上からのコンパクトシティ」であることには違いないと思います。
財源を手当てして地方は自立させて下さい
結局何を言いたいかといえば、地方住民の立場から、とにかく財源を手当てして、中央から口を出さないで下さい、自立して生きていきます、ということです。
長崎市程度であれば、先に書いたように消費税を地方税化しもらえば、財政移転をなくしても、何とか生きていくことは可能だと思っています。
私も東京の生活が嫌で地方に戻ってきた人間です。だからこそなのか、東京から余計な口出しをされたくないのです。「東京の税金で生活させてやってるんだ」的な言い方が一番嫌ですから、財政移転をなくしてもらいたいのです。公平な地方税制さえ作ってもらえれば、財政移転なしで生活していきますから。
前田 陽次郎
長崎総合科学大学非常勤講師