もう昨日となってしまったが、8月8日午後、今上陛下のお気持ち、お言葉が一斉に放送された。
あらかじめ想像されていたこととはいえ、ご自身のご老境について、ならびに高齢に至った天皇の帝位の問題をお話しになられたのだが、わたしの聞き取った限りでは、御一身のことよりもむしろ、今後、天皇の位をどのように平穏の裏に継いで行くのかということに、お心を配られていたように感じられた。
7月14日のこと、
『今上陛下のニュースに接して』
https://agora-web.jp/archives/2020313.html
に書いたように、昨日のお言葉は、やはり新帝の即位前後の日本に、無用の波の立たぬようにというお気持ちのあらわれであったと思われる。
まことにありがたいお気持ちであり、そしてお心配りであると、あらためて感謝を申し上げずにはいられない。
この度のお言葉から察して、陛下のお気持ちが一代限りのものであるとは思われず、今後、国会はその政治的権能を以って、十全にかつ迅速に事にあたらねばなるまい。衆参両院には、その覚悟を求めたい。
またこのお言葉に関し、いささか内容からは離れもするだろうが、以下さらにいくつかの感想を附したいと思う。ご容赦いただければと願う。
まず「退位」という言葉である。これも先の稿でもいくらか触れたように、もし陛下がもし退位されても、すでに皇太子がおられ、帝位はまちがっても空位にはならない。したがって、これはあくまで「譲位」と呼ぶべきであろうと考える。新聞マスコミ各社もいずれそのように表現するであろうが、それがすこしでも早いことを願う。
そしてこのご表明の日取りである。
それは終戦の日でもなく、広島、長崎に想いを致す日でもなく、祖霊を招くお盆でもなく、また報道が手薄になる週末でもなかった。そして経済にも影響の少ない時間帯でもあった。
陛下のご意志がこの日取とどの程度関係あったかは判らないが、しかしそれが間接的であったにせよ、この日取には、やはり今上陛下のお気持ちが籠っていたのではないだろうか。わたしはそう思うものである。
そしてこの稿の最後に述べたいのは、このご発言はやはり政治に関わるものであろうという、つまり憲法に抵触するのではないかという、一部法曹界からの反応であり見解についてである。
しかしわたしはその方面の意見を持つ方にどうしても問いたいものである。今上陛下の献身的なご公務から発した想い、そしてご高齢のご自身のこと、また国の平穏を願っての発言が、もし憲法に違背しているのだとしたら、憲法の方になんらかの欠陥があるのではないか、そういう疑義には至らないのであろうかということである。
お言葉に関し、法との衝突を示唆した意見は、やはり狭量というべきものであろう。
現在の憲法と、望ましい日本とは、すべてにおいてかならずしも一致しない。そんな神がかった法律があるはずもない。そしてそうであればこそ、われわれは未来への開拓に希望が持てるのではないだろうか。
今こそ識者の一考を願いたい。
2016/08/09 若井 朝彦