前川氏の証人喚問で官邸は対決を

安倍政権に「反旗」を翻した前川喜平・前文科事務次官(朝日新聞2017年5月25日朝刊、記事部分は加工しています:編集部)

核心的な議論をなぜ避ける

加計学園の獣医学部新設計画をめぐり、文科省の前次官の前川氏が「総理のご意向などとする怪文書」は実在すると、記者会見で述べました。それを受け、石破前地方創生相は「それなりの意義がある」と、発言しました。さらに、子どもの貧困を扱うNPO法人(キッズドア)の代表が「前次官は退職後、私たちのボランティア活動に参加していた人」と意見表明をしました。官邸はいつまでも強引な態度をとり続けるべきではありません。

その一方で、前川氏に対し、「気ままに行動していた人物にすぎない」、「文書にはかなり脚色や誇張があると、推察される」、「内部文書の持ち出しにあたり、公表は違法ではないか」、「騒ぎ過ぎ。素行が怪しい人物で、取り上げる価値はない」などという批判が寄せられています。

二つの学園問題で、「文書を公開しろ」と要求すると、「廃棄したので存在しない」(近畿財務局)という。「文書が存在した」というと、「それは怪文書だ」(官房長官)という。告発すると、「素行が怪しい」。こういう展開に苛立ちを覚えている国民は多いでしょう。

周辺の問題ばかりに執着

結論から申し上げますと、何度かブログで取り上げましたように、この問題の核心部分は、「加計学園に獣医学部の新設を認めたことは間違いであったのか、なかったのか」にあります。もっぱら怪文書の有無、忖度の是非、前次官の人格問題に焦点が移っています。核心部分の周辺ばかりが取り上げられている現状に不満を覚えます。

前川氏を証人喚問して、疑念が見つかれば、偽証罪(3か月以上、10年以下の懲役)で告発すべきでしょう。国会審議日程が詰まっており、他の重要案件があるというなら、官邸は学園問題の本質的な部分である獣医学部認可の適否(加計学園)、国有地の払い下げ価格の適否(森友学園)について、政府見解を公表すべきです。この核心部分が正しいならば、周辺部分の問題を追及する意味が薄れます。

例えば、首相は明らかにいくつかのウソをついていると推察されます。「加計学園から依頼を受けていない」は虚偽で、首相と学園理事長の長年にわたる親友関係から言って常識的にあり得ません。「首相の指示はなかった」についてはこれも虚偽でしょう。官邸補佐官らを使って、首相側の意向を伝えるという間接話法をとったと思われます。広義の指示でしょう。政策目的が正しければ、これなんか許容範囲ですよ。

説明資料を「怪文書」とは強引

前川氏が「実在する」と述べた文書は、「守秘義務違反に相当する」はどうでしょうか。これは省内で上司に説明するために作成したもので、いわゆる説明資料らしいですね。極秘とか取り扱い注意を指定されている文書ではないでしょうから、日付も配布先も明記していないでしょう。だから本音が書かれているのであり、「怪文書」と片づけるのは強引です。これも政策目的が正しければ、「怪文書」であろうがなかろうが、どうでもいいことになるのです。

要するに首相側のウソ、前川氏の行動は、分かりやすいのでメディアや野党は好んで取り上げています。国会やメディアで取り上げられる問題の多くは、的を外していると思います。その責任は、正攻法で政策目的の適否、決定に至る経緯を語ろうとしない官邸側にあると思います。何を心配しているのか、こそこそしすぎているのです。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2017年5月28日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。