コレクティブ・インパクト・フォーラムからの学び②

(編集部より:駒崎弘樹さんのボストン備忘録の続きです。①はこちら

駒崎@ボストンです。

今アメリカで最も熱い、社会の変え方。コレクティブ・インパクトについて生で学ぶためにコレクティブ・インパクト・フォーラムに出席しています。

マーシャル・ガンツと再会

オバマの大統領選に活用された Community Organizing の手法を創った、ハーバード大学教授のマーシャル・ガンツ。

彼の日本で初めての公開研修に、数年前、 湯浅誠さんや大西健丞さん、 白井智子さんらと受けて感銘を受けた。

そのガンツが、基調講演。ガンツは実はアメリカでも有名らしく、最後はスタンディングオベーション。相変わらず良いこと言ってた

ガンツのセリフのお気に入りは「この中で支援を頼むが得意な方。(あまり手が挙がらない)支援を頼むということは、世界を変えるチャンスをその人に提供することだ。遠慮することはない。」

ちなみに、ガンツの教え子が作った、Resistance School というサイトがすごい。社会運動のイロハをクールなデザインのWEBで学べる構成に。

データへの感度と調査の重要性

例えば、Philadelphia Youth Network というNPOが来ていたが、https://www.pyninc.org/apart#impact であるように、自らが出したインパクトのデータをしっかり出していて、まあデータ無くして、社会問題の解決とかできないですよね、みたいな空気感がすごい

コレクティブ・インパクトの前提として、その市なり郡なりの課題をかなり詳細に調査して、その上で戦略を作っているのが、当たり前だけどすごく大切。

日本だと、「子どもの貧困が大変らしい。じゃあ、俺たちも子ども食堂やるか!」みたいなノリがすごく多い。(子ども食堂が悪いとかではなく、とりあえず動くことは大切だし、やっている志も尊いけど、日本のNPOのノリを説明する例えばの例で)

これだと、良いことをすることが目的になってしまい、課題を解決することにまでいかない

まず、自分の区でどのくらい貧困の子どもたちがいて、なぜ貧困に陥ってしまうのか分析して、その要因に対して最も適切なアプローチを組み合わせて、行政・NPO・警察などステークホルダーを集めて座組みを作るのがコレクティブ・インパクトのアプローチ。

基本、NPOは想いベースで、まずは動こうぜ、で良いんだけども、コレクティブ・インパクトで実際に限られた範囲で、ガチにインパクト出していこうっていうことだったら、調査とデータは基盤になるし、それなしではインパクトは出せないな、と改めて認識

コレクティブ・インパクトの事例

有名なところでは、Strive や Shape up Somerville なんだけど、地味だけど気に入ったのは、Chealsea Thrives プロジェクトの事例。

3万6000人の街で、44%の住民が外国生まれで、貧困率は24%。州で2番目に犯罪率が高い。36%の成人が高校を卒業していない

最初はいろんな問題を解決していこうとしたのだけれども、治安に絞ってコレクティブ・インパクトを推進。

それまで、学校や警察は情報を共有しておらず、どの子がギャングに所属しているか等、分からなかった。

そこで、Chelsea Hub という、学校や警察、福祉機関やNPOが集まってケースを共有する場をつくった。Salesforce を使って警察と情報を共有し、高リスクの子ども達には未然に介入する等を行い犯罪率を下げた。

こういう、地味なソーシャルワークをマルチセクターでしっかりやっていく、っていうの、大好きです。外国生まれの概念で華々しそうなんだけど、実際は地味にテーブル囲んで、1件1件情報とケースを共有していき、じりじり数字を追っていく、と。

マニュアル

Calgary Domestic Violence Collective というカナダのカルガリー市でドメスティックバイオレンスをなくしていこう、という活動をされているイニシアチブの方々が、マニュアルやロジックモデル(変革への論理構成)、チェックリスト等を公開してくれました(こちらを参照)。

これはこれから実際にコレクティブ・インパクトやろうぜ、という僕たちみたいな実践家にとっては、「神か!」みたいなシェアリング。(この分科会出てなかったのだけど、 鴨崎 貴泰さんと佐藤淳さんのおかげ)

日本におけるコレクティブ・インパクト

まず、このメソッドとコンセプトを知っている人がごく一部のNPO業界除くと知っている人が少ないので、発信によって普及していくのが良い。

CIについて知りたい、学びたい、と思った時にすぐに文献読めたり、研修受けられたりした方が良い。新書で良いから、本出してくれる人いないかな。あと、研修はPublicoさん(長浜洋二さん、山元圭太 さん)達がやってもらえると嬉しい。

あとは、何より事例。事例をちゃんと作って、各事例が横に繋がって、知見と学びをシェアしていくこと。日本でも実践者と研究者とFunders(資金提供者)を集めて、コレクティブ・インパクト・サミットみたいなものをやるイメージ。

児童虐待に対する要対協(要保護児童対策協議会)とかも、あまり機能していないところが多いということだけれど、このコレクティブ・インパクトのメソッドを使って、本当にがっちりしっかりやれば、かなり成果が出せると思う。そういう意味で、行政の人にもしっかり学んでもらえると嬉しい。

その他

外国のカンファレンスは、分科会がたくさんあるので、グループで行った方が良い。自分が聴けなかったセッションがすごく良かったりすることが多々ある。また、自分がヒアリングできなかったことをちゃんと聞いてくれていたりするし、何より終わった後にシェアリングすることで、大きな示唆を得たり、深い理解に到達できるから。みんなに感謝。

Webinar があるから、忙しい中、行かなくても良かったかも、と途中後悔したけど、やっぱりその場にいて強制的に学ばさせられる、というのは大きい。そうでもしないと、忙しいとインプットが後回しになるし。あと、身体知というか、その場の熱気や空気によって心揺さぶられるから、やっぱり足を運ぶことは大切。

3年後くらいには、ここで日本の事例をプレゼンできるようになりたし。

全くボストンを観光できなかったけど、たまたまハーバード大学の教授に会いに行った時に、ザッカーバーグが講演してて、それを中継テレビごしに少し聴けたのはラッキーだった。


編集部より:この記事は、認定NPO法人フローレンス代表理事、駒崎弘樹氏のFacebook  2017年5月26日の投稿を転載させていただきました。転載を快諾いただいた駒崎氏に感謝いたします。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。