今後の公共インフラの民営化は自治体の上下水道が主役に

前回前々回は公共インフラを民営化するメリットや日本での普及の歴史を紹介した。今回は今後の展開を考えたい。

上下水道に注目

わが国の社会資本は、合計で約953兆円(2014年度、内閣府推計)ある。内訳を分野別に見ると、最大が道路の約35%、次いで農林漁業、治水、下水道が約10%ずつで並び、その次に文教施設(8.1%)、水道(6.0%)である。ちなみにコンセッション(公共施設等運営権制度)で話題の空港はわずか0.5% に過ぎない。

これらのうち道路、漁港、ダム、文教施設のほとんどは、料金収入を伴わない。PFI(プライベイト・ファイナンス・イニシアティブ)の対象にはなるが、コンセッションや包括委託には向かない。また学校運営は民営化しにくく、ダム、堤防、漁港などはコンクリートの塊であり日々の運営という概念になじまない。となると今後、民営化の可能性が高い分野は料金徴収があって日々の運営がなされている下水道と上水道ということになる。

浜松市が民間に運営委託する浄化センター(市サイトより:編集部)

すでに浜松市が下水処理場の一つにコンセッションを導入し、成果を出している。
ほかにも宮城県、奈良市、大阪市などが水道や下水道事業の施設(例えば浄水場、処理場)へのコンセッション導入を考えている。将来の財政支出を抑える観点から政府も支援しており、今後の導入は増えるだろう。

しかし、上下水道は地形、人口密度等によって経営環境が大きく異なる。また自治体が所管することから、民営化の決定過程では様々な地域事情が影響する。地域それぞれに不確定要因を抱えており、その“筋目”をうまく読み取らないと単なる過剰期待と空騒ぎに終わりかねない。

上下水道の事業特性を踏まえる

空港やアリーナと上下水道は同じ公共インフラといっても性格が大きく異なる。上下水道は前者2つと比べると、市民生活に直結し、機能障害はすぐに衛生や浸水など“安全問題”につながる。だから政府も今後の施設の老朽化や財源の確保を考え、早めに経営課題を“見える化”し、合理化を進めたいと考える。多くの首長もそう思っているが、民間企業のようなスピードでは改革は進まない。

例えば多くの場合、民営化や広域化で効率化した方がいいと関係者は思っている。

しかし、例えば「首長の手柄にしたくない」と議会の対立会派が意に反して反対する。市民に身近なテーマなので二元代表制特有の政治的なねじれ(議会 vs. 首長)の犠牲になりやすいのである。また上下水道の末端工事は地元の零細企業に任されている。彼らが現状維持を望み、議員たちに働きかけて「水道は命の水。直営が安全」といった議論を展開し、変化を拒む事例も見受けられる(実際は、現場作業の多くが直営ではなくなっているにもかかわらず)。

このように上下水道の民営化は、自治体が主体であり、首長だけでなく議会の同意を必要とすることから一筋縄ではいかない。次回はそのなかでどうやって進めていくといいか、解説する。


編集部より:このブログは慶應義塾大学総合政策学部教授、上山信一氏(大阪府市特別顧問、愛知県政策顧問)のブログ、2018年10月26日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、上山氏のブログ「見えないものを見よう」をご覧ください。