行政は無能なのか

山田 肇

先週、行政事業レビューの参加報告を四つの記事にまとめてアップした。これらの記事について意見をいただいた中に「行政の無能ぶりに驚いた。」というのがあった。

行政の無能ぶりを明らかにして、無駄排除という理由で事業を廃止し予算をひねり出すのが、民主党政権における「事業仕分け」の目的だった。同じように行政事業レビューが行われていると思うのは間違いである。

行政事業レビューは各府省の事業すべてについて点検し改善する点に特徴がある。9割以上の事業は自己点検・改善され、その過程でレビューシートも公開される。僕らが参加するイベントで審議される事業は実はごく一部である。つまり行政事業レビューは「行政は無能」と断罪するものではなく、むしろ行政を信頼したうえで、透明性を確保しての自己改善を求めていくものなのである。

レビューシートには事業のアウトカム(事業が社会に与えた影響)とアウトプット(事業の結果)を数値で書く欄がある。数値で示すためには、事業を計画する段階でアウトカム・アウトプット指標の測定方法を用意しておく必要がある。これを徹底すれば、「きっと役立つはずだ」といった感覚・感情ではなく、論理的・具体的に事業の価値を示すことができるようになる。これはEBPM(根拠に基づく政策形成)につながるものだ。

事業の中には「実証実験」と名付けられたものがある。実証実験の方法に価値があり効率がよいことは、その方法を採らなかった場合と比較対照して初めてわかる。この比較という観点に乏しい場合には、外部委員の口調はきつく批判的になる。EBPM推進のためにも行政は比較試験についてもっと経験を積む必要がある。また、実証実験の方法は価値が低く効率が悪いという結果が出ても、それを批判するのは間違いだ。実証することなしに、勘に頼って、非効率な事業が全国展開されるほうがよっぽど悪質だからだ。

最初に書いたように行政事業レビューの9割方は自己点検・改善である。しかし、それだけでは過去の経験に引きずられ過ぎるという問題が起きる。今回対象になった統計調査やODAがそれで、「50年間この方法で進めてきたんですけど何か?」的な姿勢が批判された。たとえば統計調査。民間もビッグデータを保有し活用する時代に、今までのやり方を踏襲して統計調査を実施するのは非効率だし、民間がすでにデータを持っているのであれば調査結果は役立たない。行政事業レビューの場では統計調査のスマホ連携・アプリ連携を進めるようにという指摘が出たが、これはICTがフルに活用される時代背景を基にした意見である。外部からの批判は事業改善のきっかけになる可能性がある。

行政事業レビューには、行政を応援する要素もある。下水道事業がそれだ。記事にも書いたが、地方公共団体にも市民にも下水道事業の将来への危機感は乏しい。そんな環境下で孤軍奮闘している府省を応援し、府省が気づかなかった視点を提供するのが行政事業レビューの役割になる。

行政は有能であるという前提の下で、できる限り数値に基づく点検・議論を、公開して行うのが行政事業レビューである。これによって、行政の透明性は増し、説明責任が果たされるようになる。

報告第1回はこちら。「スマホ連携もできない前時代的な政府統計調査
報告第2回はこちら。「競争が不足するJICAの契約
報告第3回はこちら。「環境省のCO2対策は予算のばらまき
報告第4回はこちら。「下水道経営の手足を縛っているのは誰か