私の活動におおきな影響を与えつづけている、「あたらしい党」党首にして東京都議会議員の音喜多氏が、先日「政治家が大好きな街宣車。それでも選挙カーが必要な理由って…?」というタイトルの記事をブログに掲載していました。
情報公開を旨とする彼の姿勢はおおいに賛同するところですが、今回は逆の立場から記事を書きます。
選挙カーの用途と、地方都市選挙の実際
前提として、選挙期間の候補者は、一様に「うるさい」と考えます。市民生活の邪魔になる「うるさい」ことは、極力減らしたほうがよい、というのは、選挙カー推進派の方も賛同してくれると思います。
とはいえ、うるさいながら「候補者が政策を説明するための街頭・駅頭演説」は、ある程度許容される、というのが私の立場です。音喜多氏が指摘しているとおり、候補者が「政策を認知されないまま終わる」のは、市民にとっても損失だからです。
その意味で、「演説先から演説先への、候補者の移動」について、選挙カーを使うというのは、まったく問題ない、と考えています。
さて、以上の前提をおいたうえで、候補者からみた選挙カーの用途を見てみましょう。
選挙カーは、主に以下3つの用途で使われています。
- 候補者の演説先へ移動の手段
- 選挙カーに書かれた候補者氏名の告知
- 移動時の名前連呼
趣旨から考えれば「1.」が主体であって、「2.」や「3.」は、あくまで「従」です。
しかし、東京はどうかわかりませんが、地方都市の選挙では、演説ができない候補者が多くいる、というのが実態です。そのため、選挙カーの用途は、「1.」がまったくなくて、「2.」や「3.」のみ、というケースが多くみられます。
以上のような状態であるため、選挙カーに本人が乗っているのがまれであることから、本人が乗った選挙カーでは「本人が乗っております!」なんてトンチンカンなマイクパフォーマンスがあったりします。冗談のような話ですが、私の住む佐倉市などの地方都市では、おなじみなセリフなのです。
法律からみた選挙カーと「刷り込み効果」を期待する候補者
公職選挙法では、移動中の選挙カーでは政策を演説してはいけない、となっています(公選法「141条の3」、「140条の2」)。つまり、「移動中の選挙カー」でできるのは、「佐倉市議会議員候補、佐倉花子をよろしくお願いいたします。」くらいしかないわけです。
候補者が、市民の迷惑とわかっていながらこの行為をなぜやるのか、といえば、「自分の名前の刷り込みができるから」です。
2017年11月26日「朝日新聞」の記事「選挙カーの名前連呼、効果どれほど? 教授が実際に研究」によると、選挙カーで「名前を連呼する」ことには、残念ながら集票効果があるということが、実験で証明されているそうです。
さて、以上を前提として、この行為を市民の目線でみてみましょう。
- 候補者は、ただうるさいだけだとわかっているにもかかわらず、選挙カーで名前を連呼する。
- その理由は、政策などおかまいなしで、とにかく自分の名前を刷り込みさえすれば投票してもらえる確率があがるからだ。
- 自分が受かるためであれば、税金を使うことも問題はない(選挙カーのレンタル費用は、選挙後に税金で還付される、ということはあまり知られていませんが、ピカピカの事実です)。
以上から、かなり強い表現になりますが「市民はパブロフの犬である。ゆえに、税金を使って名前を刷り込もう!」と言っているに等しい行為だと、私は思っているわけです。
私の意見をまとめます。
- 選挙カーの用途のうち、「候補者の演説会場への移動」と、騒音が発生しない「選挙カーのデコレーション」は問題ない。
- 名前の刷り込み効果しかない「移動中の名前の連呼」は、市民を馬鹿にしている行為なので、やめるべきだ。
- そもそも、「移動中の名前の連呼」が目的となっているような選挙カーは、完全な税金の無駄遣いだ。
以上のとおりですので、私は公職選挙法が、「移動中の選挙カーでは、演説や連呼行為を一切認めない」という風に変われば、何の文句もありません。しかし、法改正ができるのは、現行の公選法のもと勝ち上がった国会議員ですから、現状ではほぼ不可能といってよいでしょう。
以上のとおりですので、私は「名前を連呼する選挙カー」を見かけたら、その候補者には投票しないように呼びかけています。
「名前を連呼する行為」が、選挙に不利に働くようになれば、その行為は自然に消滅するからです。
高橋 富人
佐倉市生まれ、佐倉市育ち。國學院大學法学部卒。リクルート「じゃらん事業部」にて広告業務に携わり、後に経済産業省の外郭団体である独立行政法人情報処理推進機構(IPA)で広報を担当。2018年9月末、退職。
出版を主業種とする任意団体「欅通信舎」代表。著書に「地方議会議員の選び方」などがある。