久々のボスキャラ登場
ここにきて二階自民党幹事長の動きが活発だ。異論がある中、細野豪志氏を自民党に受け入れ、小池都知事の再選支持を表明、12日には安倍総裁4選論もぶち上げた。ボスキャラ登場とでも言うのだろうか。官僚含めて周囲を制圧しているがゆえの押しも押されもせぬ威圧感。一方での根回し人たらしの機微に通じる人情味。ある意味昭和以来の自民党大物政治家王道スタイルと言える。
小池都知事再選に向けた二階さんの動き方としては、安倍総理には4選論で恩を売る。谷垣さんには参院選への出馬を促し都知事選出馬の牽制をする。実力者の菅官房長官に対しては、菅氏がこだわる東京都から地方への税再配分強化で”握っていく”算段なのだろうか。
そうだとすれば小池氏再選について「実績見れば当然」という誰もが訝ったあの発言の意味も理解できる。すなわち、小池都知事には地方法人2税で9,000億円をむざむざ都から地方へ再配分した”実績”があるわけで、「菅さん任してください。税を差し出した実績のある小池さん再選でもう一丁(1兆?)いきますよ。」というアピールなのかもしれない。さすがの端倪すべからず根回し力と言うべきか。
理由があるから、小池都政に批判の声が上がっている事実
しかし二階さんちょっと待って欲しい。我々とてむやみに小池都知事に疑問を呈しているわけではないのだ。そもそも圧倒的な支持で小池氏を都知事に選んだのは都民自身である。女性の有力政治家でありグローバルスタンダードの理解もありそうな希少なプロフィールは、本来誰もが応援したい。しかし、小池氏都知事就任以来の豊洲市場移転延期判断への疑問や、築地市場再開発の場当たり性、もちろん前述の9,000億円の法人税移転の話、どれを取っても都民にとって納得がいかない話ばかりなのだ。
つまり小池都政の期待に反しての行政推進能力の低さにたまりかねて声が上がっているだけなのである。一方の二階さんとしては、バンクシー騒動で想定外にも小池氏へのブーイングがSNSで起こったり、築地再開発で小池氏の説明責任や企画力に対する厳しい声が上がるなど、人気者小池氏らしからぬ状況に慌てて先手を打ったつもりかもしれない。しかし、それではあまりにも都民の声を軽視しているというものだ。
都民が小池知事に期待した「満員電車ゼロ」すら成果がゼロ
すべてのイシューを限られた文字数で分析するのは難しいので、小池都知事の代表的公約である「満員電車ゼロ」についてだけでも検証してみよう。
全国的な少子高齢化の環境にも関わらず、東京都への人口流入は続いており、満員電車の問題は一向に改善されていない。実感として昭和の時代から何ら変わらないだけでなく、路線によっては相互乗り入れなどで遅延が常態化するなど状況が悪化している始末である。
遅延に混雑…首都圏「残念な直通ルート」10選(東洋経済オンライン)
年間3240億円の経済損失という分析もあるが、毎日許容範囲外の苦痛を余儀なくされている人間からすれば、拷問としか言いようがないプライスレスな辛さである。実際に冤罪を含む痴漢事件の多発や、暴力沙汰など毎朝の殺伐とした雰囲気はとても21世紀先進国の出来事とは思えない。
まして幼児を連れての移動など全く想像もできず、働きながら子育てをする上での選択肢を大きく狭める要因ともなっている。だからこそ「満員電車ゼロ」の公約は都民に響いたわけだし。だからこそ罪が深いのである。そもそも選挙戦で小池知事は、二階建て車両の導入などとぶち上げていたが、構造上出入口が多く作れない二階建て車両が朝のラッシュ時に機能するわけもなく、早々に沙汰止みになったようだ。
残るは「時差Biz」のみが、取り組みということになるのだろうが、正直これこそが期待外れなのだ。特設サイトは見かけは立派なものだが、都民にはどの程度認知されているのか。しかも税金で外注した熱量の低い内容はアリバイ工作と言われても仕方がない。
そもそも時差出勤によるラッシュ解消は延々と鉄道会社が取り組んで埒が明かなかったものだ。どれだけ新味のある取り組みが行われているのか。一方の時差出勤協力企業も1038社(3月13日現在)なんとか体裁を保っているが、都内の事業所数は66万2360社(東京都統計年鑑平成28年)である。参加している企業には大企業が多いゆえ就業者数比ではもう少し比率は高いだろうが、そもそもフレックス制度等が整備されているなど条件が合う大企業に名を連ねてもらい何とか整合性を取り繕っている感さえしてしまう。
フレックスタイムやテレワークが導入されていても実際は周囲との兼ね合いで使い辛いなどの声も多く、都内大多数の事業者に時差ビズの機運がまったく拡大しない状況ゆえ当たり前に通勤地獄は解消する気配がないのである。
二階さんに問いたい。小池知事を評しての「実績見れば当然」の「実績」とは?
もちろん「満員電車ゼロ」という命題がそもそも、簡単に解決出来る課題ではないことは都民も最初から承知している。だが、難しいがゆえに小池氏の発信力やリーダーシップに期待が集まったわけであり、氏自身が都知事選でそれを煽ったのも事実なのである。
二階幹事長は、和歌山県御坊市出身とのこと。中央大学時代には満員電車の経験もあるかもしれないが、1975年に和歌山県会議員になり1983年に衆議院議員に当選してからは連続当選中とのことなので、黒塗り生活も長いだろう。運輸族としても著名であれば東京のラッシュアワーを視察ぐらいはしているだろうし、事柄として知らないとはもちろん思わない。しかし、先日の「実績見れば当然」発言からは、都民のその切実さへの思いが至っているようにはどうしても思えない。
都知事の職責に外交や防衛は含まれない、あくまで都民の身近な生活を守り改善することが仕事である。たかが満員電車などと侮ってはいけない。二階氏の政治力をもってすれば小池氏再選の道筋を作ることは可能なのかもしれない。
しかし振り返るに、かつて自民党がその力を恃むあまり時として横暴となり国民の声をないがしろにしたがために下野を迫られた過去を忘れていないか。ましてインターネットにより情報の非対称性は年々解消され、「民は由らしむべし,知らしむべからず」という統治スタイルはもはや通用しないのだ。
久々の自民党的ストロングスタイルの大物政治家にして、ボスキャラ二階自民党幹事長。しかし昭和は遠くなりにけり。二階氏とて現代の政治家だ、小池氏の何をもって「実績見れば当然」と言っているのかをきっちりと説明する責任がある。それが、選挙での「実績」だけを言っているのであれば大物幹事長としてはあまりにも近視眼的だし、本当に法人税の都から地方への移転を「実績」と言っているとすれば都民に対してはブラックジョークが過ぎる。
小池都知事の政策推進による「実績」を何よりも切望している都民に対して、「実績見れば当然」と謎かけをしたまま、思わせぶりに口をつぐむスタイルも程々にされることを願う次第である。
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秋月 涼佑(あきづき りょうすけ)
大手広告代理店で外資系クライアント等を担当。現在、独立してブランドプロデューサーとして活動中。