ボルトン氏「中国の国連支配に懸念」

長谷川 良

ローマに本部を多く国連食糧農業機関(FAO)の新事務局長に中国の屈冬玉・農業農村省次官(55)が選出された。ローマからの情報によると、FAOの第41会期総会で23日、ジョゼ・グラジアノ・ダ・シルバ現事務局長(ブラジル出身)の後継者の選出が実施され、191カ国が投票し、屈冬玉氏が当選に必要な過半数を超える108票を獲得し、第1回投票で対抗馬のフランスのカテリーネ・ジャラン・ラネェール女史(71票)を破り当選した。中国出身者の事務局長はFAOでは初めて。任期は今年8月1日から2023年7月31日まで。

新事務局長に選出された中国の屈冬玉・農業農村省次官(2019年6月23日、ローマ、FAO公式サイトから)

カメルーン、フランス、中国、ジョージア、そしてインドの5カ国から5人が立候補を表明していたが、最終的には中国の屈冬玉氏と欧州連合(EU)が統一候補者として擁立したフランスの元欧州食品安全機関(EFSA)の事務局長だったラネェール女史との一騎打ちとなり、アフリカなど開発途上国の支持を集めた屈冬玉氏が圧倒した。ラネェ―ル女史の場合、イタリアが屈冬玉農業次官を支援する動きを見せるなど、EUの結束が実現されなかったことも痛手だった。

屈冬玉農業次官がFAO事務局長に選出されたことで、国連機関のトップに国連工業開発機関(UNIDO)の李勇事務局長とジュネーブに本部を置く国際電気通信連合(ITU)の趙厚麟事務総局長を入れて3人となり、国連機関での中国人の影響が一層拡大する(「中国共産党の国連支配を阻止せよ」2019年6月10日参考)。

屈冬玉氏のFAO事務局長選の勝利は中国の国連支配の始まりを告げるものだ。 国連にとって2019年は新しい年だ。中国が2019年から21年の通常予算の分担率で日本を抜き、米国に次いで第2番目となった初めての年だからだ。30年以上米国に続いて第2位だった日本は中国に抜かれた。米国はトップで変わらず上限の22%、中国は7・921%から12.005%に上昇、日本は逆に9・680%から8・564%に分担率が低下した。

中国の習近平国家主席は国連を自国の国益拡大のパワーツールとみなし、国連平和軍活動にも積極的に関与してきた。中国はアジア・アフリカ・ラテンアメリカの開発途上国G77グループの支援国(G77+中国)であり、国連加盟国のほぼ70%に当たる134カ国が同グループに所属する。中国はまた、国連安保理事会では常任理事国の一角を担っている。すなわち、中国は国連で安保理事会と総会に大きな影響力を有しているわけだ。同時に、中国は国連機関内でその経済的支出にマッチした地位を要求してきている(「国連が中国に乗っ取られる日……」2019年2月3日参考)。

FAOの事務局長選では中国とEU間の戦いの様相があったが、アフリカ経済支援を続けてきた中国がアフリカ大陸の票をほぼすべて確保する一方、新シルクロード構想(一帯一路)を通じて欧州でもその影響力を強めてきている。例えば、習近平国家主席が提唱した新しいシルクロード構想「一帯一路」への参加だ。東南アジア、西アジア、中東、欧州、アフリカを鉄道、道路、湾岸を建設し、陸路と海路で繋ぐ巨大なプロジェクトで9000億ドルの資金が投入されるという。

欧州では、ハンガリー、ギリシャ、そしてイタリアも同プロジェクトに参加している。例えば、ギリシャ政府は2016年4月、同国最大の湾岸都市ピレウスのコンテナ権益を中国の国営海運会社コスコ(中国遠洋運輸公司)に売却するなど、中国との経済関係を深めている。(「中国に急傾斜するイタリアの冒険」2019年3月11日参考)。

米国はトランプ政権が発足して以来、国連や国際機関への関心が薄れ、「財政の浪費に過ぎない」といった国連軽視の傾向が強まってきた。トランプ大統領は昨年6月、国連人権理事会から離脱を表明する一方、それに先立ち、地球温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」からも離脱を通知するなど、国連機関が力を入れてきた分野で米国ファーストを展開させてきた(「米国の“国連離れ”はやはり危険だ」2018年7月31日参考)。

米国「フォーリン・ポリシー」誌(Foreign Policy)は4月3日、ジョン・ボルトン大統領補佐官は中国の国連機関での影響力の急速な拡大に懸念を表明し、国連内でアンチ中国キャンペーンを開始してきたと報じている。同補佐官は、「中国は国連や国際機関で外交同盟を構築し、米国を国際社会から追放し、自身の国益の拡大を模索してきた」と警告を発している。同補佐官はジョージ・W・ブッシュ政権では国連大使に従事し、国連軽視の政策を積極的に推進してきた人物だ。その補佐官が国連内の中国の影響力拡大に大きな懸念を表明しているわけだ。事態の深刻度が分かる。

ウィーン発『コンフィデンシャル』」2019年6月25日の記事に一部加筆。