米最高裁、国勢調査での市民権有無をめぐる質問を無効と判断

G20首脳会議(トランプ大統領のスケジュールはこちらをご参照)が注目を集めるなかで、米最高裁判所は重要な判断を下しました。トランプ政権は、2020年実施予定の国勢調査での市民権の有無をめぐる質問を盛り込む方針を表明。これに対し、最高裁は5対4で無効を決定したのです。ギンズバーグ氏など女性優勢のリベラル派の最高裁判事に、ロバーツ最高裁長官が加わりました。

判断の理由は「充分な説明が必要」。そもそも、NY州マンハッタン地裁は1月、国勢調査局を統括するロス商務長官の市民権有無の挿入提案について「行政手続法に反する恐れ」を理由に無効と判断し、メリーランド州やカリフォルニア州も倣っていたのですよ。トランプ政権側はこれを不服とし、ロバーツ氏をはじめ保守派がわずかに多数派とみられる最高裁に判断を仰ぎ、ご覧の結果となったわけです。

ロバーツ氏がリベラル派に回ったケースは、今回だけではありません。2012年には、医療保険改革法案に対しても賛成票を投じました。2015年の同性婚の判断では保守派にまわりましたが、保守一辺倒というわけでもなく、バランス感覚をお持ちでいらっしゃいます。

白枠が無効の票決を投じた最高裁判事の面々で、前列の中央がロバーツ長官。

2018 Roberts Court

(出所:Supreme Court)

大変なのは国勢調査局の事務方でしょう。とりあえず、市民権の有無に関する質問を追加したバージョンと従来のものと2つ用意しているようですが、1億3,800万枚の質問票に加えて返信用封筒なども用意しなければならず、予算も膨らみそうです。

民主党にとっては、安堵したニュースとなりました。2020年の国勢調査で市民権の有無が盛り込まれれば、市民権を有していない外国人が不利益を被ると判断して回答しない可能性があります。そうなれば、国勢調査結果によって議席配分が決定する米連邦議会の下院の勢力図が変わりかねません。トランプ政権側は少数派権利獲得の一助となるためと説明していましたが、真の意図はここにあるのでしょう。

ただし、国勢調査で市民権の有無を質問すること自体、違憲ではありません。従って、今回の最高裁の判断は問題を先送りしただけです。ひとまず、最高裁は商務省に国勢調査実施方法を決定するよう指示したわけですが、果たしてどうなるのか。

国勢調査は、市民権の有無に関わらず米国の居住者を数える責務を負い、法律では①2020年4月から集計開始、②2020年12月末までに集計に基づいた州ごとの割り当てを大統領に提示、③2021年4月1日までに州ごとの割り当てを通知する――という段取りになっています。これに対し、トランプ政権は、国勢調査の延期を検討する方針です。

(カバー写真:Supreme Court


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2019年6月29日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。