日韓基本条約を廃棄するとどうなるか

8月24日に池田信夫氏が、「日韓基本条約は破棄できるか」という寄稿をされているので、それを受けて、私の見解を「日韓基本条約を廃棄するとどうなるか」という形でまとめさせていただいた。

バンコクで会談する河野外相と康外相(2019年8月1日、日本外務省公式Facebookから)

韓国側が間違っているのは、1965年の日韓基本条約や日韓請求権協定は、韓国が苦しい時期だったので、「維新独裁政権の屈辱的拙速な」妥協をしたので、粘り続けたらもっと取れたと思っているらしいことだ。

しかし、日本側からすれば、ベトナム戦争で韓国に協力させたいアメリカから圧力をかけられるし、李承晩ラインで拿捕された漁船員を人質にとられているし、さらに、北朝鮮に比べて貧しかった韓国をバックアップするために大甘だったということであって、いまなら、あんな大盤振る舞いするはずないのである。

日本でも政府は社会党や朝日新聞まで含めて弱腰を追及されていたのである。とくに、回を改めて詳細を書くが、そもそも、ポツダム宣言を受諾したことが、韓国の速やかな独立、在韓日本人の強制帰国、財産没収につながるなどと日本側では考えていなかったのである。

フィリピンのアメリカ人、インドの英国人、ジャワのオランダ人、セネガルのフランス人だってそんな理不尽な目にあっていないのである。

逆に日本人が韓国から追放されたのなら、在日の韓国人も日本から帰国するのが当然だ。少なくとも、普通の外国人として扱われる、つまり、生活保護などは受けられない、犯罪を犯せば追放される、外国人に認められていないことはできない、帰国するときに無制限に財産を持ち出せないなど当然というはずだった。

だから、基本条約を破棄するなら経済協力として得たものを今日の価格で返してもらうしかない。利子を付ければいいというものですらない。なぜなら、当時は外貨事情も苦しいなかで無理をしたのであって、表面的な金額を大幅に超える負担だったのだ。

また、在日の人々に認めた「特別永住権」も解消するしかない。これまで、半世紀以上にわたって認めてきた代償もなんらかのかたちで韓国政府が支払うべきだろう。

日本企業を訴えた元徴用工の原告団(KBSより:編集部)

「徴用工」や「慰安婦」の分まで含めた個人請求権は日本が個別に応じようかというのを、韓国側が一括してもらうことを懇願したのでそうしたのだが、日本側がそういう軍事政権の要請に応じたから、個人に十分に渡らなかったのであって、それを予想しなかった日本政府が悪いとかいう人もいるが、これも勘違いだ。

ここのところを理解できない人が多いのだが、こういうことだ。韓国では1949年から53年まで朝鮮戦争が戦われて、南北合わせて人口の6分の1にあたる500万人以上が死んで、財産の被害も天文学的なものになった。

そんななかで、日本による被害者にだけ巨額の補償など出ると国民が納得しなかったのだ。だから、一言で言えば、国民全体で「平等」に分けたのだ。

また、このつきの経済協力は日本から購入したりする紐付きが多かったが、それは、当時はそれが常識だったというだけだ。そもそも外貨事情からいってもそうでなければ、大幅減額が当然だった。

そんなことは少し考えれば分かるはずだ。また、日韓の政治家などがピンハネしたのでないかという人もいる。全くそういうことがなかったのは言わないが、この経済協力の結果として実現した「漢江の奇跡」をみれば、おおむね賢い使われ方がされたと言えるだろう。

八幡 和郎
八幡 和郎
評論家、歴史作家、徳島文理大学教授