なんば自転車暴走くらい許したって?!

西村 健

なんば駅ビル商店街、「なんばCITY」の通路で自転車暴走が暴走し話題になっている。

【出典】なんば駅ビル商店街、「なんばCITY」構内(筆者撮影)

駅ビルの中を、自転車で走っただけにしか見えない。

しかし、そのリーダーが40代であること、そして、その男が「商店街の中でフロントタイヤを上げウイリーして走っただけ」とのことを言ったそうで、批判の的になっている。どうやらマウンテンバイクでアクロバットを披露する「PHANTOM」というパフォーマンスチームだそうだ。

「そんなに社会問題なのか」発言

【出典】なんば駅ビル商店街、「なんばCITY」構内(筆者撮影)

さらに今回は、このリーダーの「そんなに社会問題なのか」発言が世間の逆鱗に触れている。駅ビルの立場、警察の立場からするとお怒りになるのはわかる。世間の「迷惑行為」「ルールを守れ」「子どもがけがをして!」「危ない」とかいう世間の批判やそういった感情はおっしゃる通りではある。

しかし、私自身はこのリーダーと同じ感想を抱いてしまった。なぜなら、彼らはそれなりに専門集団なのでそれを気を付けていると思うからだ。世間が批判することに対して、理解できないものに対する批判がますますこの社会を生きにくくしていると思うからだ。

インフレ化する「社会問題」

そもそも「社会問題」のインフレ状況があると個人的には思っている。個々人が皆が狭い視野や経験のなかで「社会」をイメージし、その中で議論していないか。一部の方々の「問題」を全体的な「問題」にしたがるインセンティブがあり(僕もそうかもしれないが)、誰も彼もにとっての自分事=社会問題になるケースが噴出している。

良識のある市民は注意する視点を持っておきたいものなのだ。

さて、今回のポイントは3つ。

第一に、「寛容さ」はないのか。
たとえば、ボール遊びもスケボー使用もほぼ多くの「公共の場」で禁止されている。
一部市民が苦情を行政に言う→めんどくさいので規制、というパターンである。

地域での話し合いの場もセッティングしようともしないし、そういう場ができても、一部のラウドマイノリティによって規制側が勝利する。そのため、結果として、愛好者の機会が奪われる。

筆者もアゴラでボール蹴りすらできない状況を問題提起したことがあるが、アメリカの西海岸ではじまったスケボーの使用は早速規制されてしまっているのが現実だ(五輪種目なのに!)。

第二に、「危険」というのならもっと危なくて、規制すべき「公共空間」や行為はないか、と言う点だ。

・満員電車の恐ろしいほどの混雑状況
・キャリーバックが当たり、押し合いへし合いの駅空間
・スマホ見ながら自転車を運転する人
・歩行者を優先しないで逆に煽ってくる自動車運転者

などなど、僕たちが問題だと声を上げる行為や規制すべきところは山ほどあるのでは、と思うのだ。それと比べて、あまりに今回の「暴走」は可愛いレベルであることだ。

第三に、風紀委員的な世論が社会にもたらすもの。

ツイッターなどのSNSによって、色々な場面が撮影され、共有できるようになった。その中で、「これはあかんやろ」的なものも中にはあるだろう。しかし、風紀委員的な意見は、個々の自由な活動を委縮させることもある。社会で許される許容範囲を世論が狭めてしまうと、結果として、自由な言論にまで及んでしまう、かも。ホンネと建前が乖離する日本だからこそ、そんなパラドックスになりかねない。折り合いをつけないといけない部分もあるとは思うが、「若気の至り」や「表現の自由」くらいは、許容したいものだ。

皆様ご苦労様だが優しくしたろうや

【出典】なんば駅ビル(筆者撮影)

南海の方も大変だ。「非常に悪質」とお怒りになるのはわかる。

法的に見てみよう。

専門家に言わせると「建築物侵入罪」が問われるとのことである。

さらに調べてみると、「大阪府公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」というものがある。

そこでは

(粗野又は乱暴な行為の禁止)
第五条 何人も、公共の場所又は公共の乗物において、多数でうろつき、又はたむろして、通行人、入場者、乗客等の公衆に対し、いいがかりをつけ、すごむ等不安を覚えさせるような言動をしてはならない。

とある。これを見てみると、今回の件は何とも言えない。正直のところ、「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等」なのだろうか、当てはまらないのかもしれないと思う。大阪府警はなんらかの法令違反があればというスタンスだそうだし、そこは慎重に調査してもらいたい。

このままだと、何かと「クレームがある」「迷惑」という一部の声が、自由な場を奪って、社会の閉塞感がますます進むだけ。ある一定基準を超えたらそれは法に従ってもらうのが結構だが、「可能性」だけで罰するのはどうかと思う。

アゴラでも過去に書いたが、日本社会、特に都市部に「自由」を感じられる場をなくすのが正しいのか?と思う。謝罪くらいで許してあげてもよいのではないか。

南海さんのCSRレポートには「当社では、沿線の皆さまとさまざまな協働イベントを開催しています。」と書いてある。一緒にロードバイクの普及イベントをやるとかできないでしょうか?

【出典】なんば駅ビル商店街、「なんばCITY」構内(筆者撮影)

南海様と世間様に寛容さを期待したい。

西村 健
日本公共利益研究所 代表・主席研究員