ロボットにやらせるほうが金融は顧客本位になるか

企業からの融資の申し入れについて、顧客本位で深く検討するとき、遊休資産の売却や経営合理化等によって、新規融資を不要にできる可能性がある。そのときは、貸さないで、企業の経営改革を指導することこそ、銀行や信用金庫に課せられた社会的使命であり、顧客の真の利益に適うことである。

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つまり、融資において顧客本位を貫けば、借りる側の視点で考え、借りられるが、借りないですむ方法として何があるか、借りられないが、借りられるようにするには、どのような経営改革が必要かという問題のたて方になる。これが真の顧客の利益を考える顧客本位の姿勢なのである。

ここで大きな問題が生じる。顧客本位を貫くと、貸すか、貸さないか、という単一の判断から、多様な選択肢を求めて、そのなかから最適解を探る複雑な判断に移行してしまうわけである。さて、複雑すぎるので、人工知能が必要であろうか。

ある閾を超えてテクノロジーが進化すると、本質的な変化が起きてしまう領域がある。例えば、医療だが、人間の生物としての仕組みの完全な解明が行われれば、症状から病因が直ちに特定され、最適な対処法が一義的に決定されるから、医師の機能は、医療技術上の問題に限定されて、医学上の判断は不要になる。

これは、判断の機能が医師からテクノロジーに移転したのではなくて、全てが確実性のもとで既知になることで、判断そのものを不要にしたのである。なぜなら、判断とは、あるいは、決断とは、不確実なこと、未知のことについて、既知のことからの合理的な推論で蓋然性の高い答えを求めることだからである。

こうした医療の夢が実現するには、まだ時間がかかる。当面は、未知なことについて、不確実性下で、患者の命にかかる判断をしなければならないが、それは、現状、医師の知識と経験に依存しているわけである。その判断の精度は、テクノロジーの利用によって、向上させることができる。それが人工知能だ。

与信判断でも、スコアリングという財務情報等の分析のシステム化が広く導入されているが、これは、完全に金融機関の立場からする判断であって、少しも顧客本位ではなく、医療に例えれば、医師の立場で、自己の能力に照らして、治療可能な患者かどうかを判断するようなものである。しかし、顧客本位では、患者の立場で、どのような医療体制が最適かを判断することになる。

こうなると、処理情報量が多くて、解が多様なので、人工知能の利用が必要になるだろう。いわば、融資のためのスコアリングという単機能システムを廃して、融資を解の一つに相対化して、総合的な企業財務コンサルティング機能を行うプロフェッショナルをロボット化するということである。

 

森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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